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つい夜更かししてしまう本を紹介しています。

徹底ネタバレ解説!『影踏み』あらすじから結末まで!

影踏み (祥伝社文庫)

 

深夜の稲村家。女は夫に火を放とうとしている。忍び込みのプロ・真壁修一は侵入した夫婦の寝室で殺意を感じた―。直後に逮捕された真壁は、二年後、刑務所を出所してすぐ、稲村家の秘密を調べ始めた。だが、夫婦は離婚、事件は何も起こっていなかった。思い過ごしだったのか?母に焼き殺された弟の無念を重ね、真壁は女の行方を執拗に追った…。(「消息」より)

【「BOOK」データベースより】

 

何年も前に読みましたが、2019年に歌手の山崎まさよしさん主演で映画化されることが決まりましたので、改めて読みました。

本書の主人公はいわゆる泥棒ですが、悪人というわけではありません。

 

また彼を追う警察官が多数いますが、その中にはどう考えても悪人としか思えない人もいます。

立場とその人個人の善悪が一致しないのが非常に興味深い作品です。

 

また、今では希薄になってきた人間関係が色濃く描かれ、そこも見所だと思います。

 

この記事では、そんな本書の魅力をあらすじや個人的な感想を交えながら書いていきたいと思います。

ネタバレになりますので、未読の方はご注意下さい。

 

 

 

 

 

タイトルの意味

 

タイトルの『影踏み』ですが、これは物語の主人公である真壁修一の生き方を表しています。

双子というものは、互いの影を踏み合うようにして生きているところがあり、片方がそうするだろうと思うことは、もう片方もする確率が極めて高いことを意味しています。

 

修一は自分の複製のような人間がいることに黒い感情を抱きますが、双子の弟をなくしてから自分は影を失ったことに気が付きます。

それは影のない闇の中にいるのと同意で、自分には影(双子の弟)が必要だと繋ぎとめる。

 

この物語は、常にこの影を意識した作品となっています。

 

 

消息

 

物語の主人公は、『ノビカベ』とあだ名される真壁修一。

彼は寝静まった民家を狙い現金を盗み出す『ノビ師』と呼ばれる忍び込みのプロで、稲村家に忍び込んだ時に現行犯で逮捕され、物語の冒頭で出所します。

 

彼には啓二という双子の弟がいました。

ところが、啓二は浪人中に空き巣を重ね警察に追われる身となり、悲観した母親は家に火をつけて啓二と無理心中します。

 

さらに助けに入った父親も巻き込まれ、修一は全てを失います。

それ以降、啓二を追うように犯罪に手を染め、今に至るのでした。

 

死んだはずの啓二ですが、なぜか修一の耳の中、中耳には今も啓二の声が聞こえ、まるで修一の中で生きているかのように振舞います。

修一は出所すると、自分が捕まった時のことを知りたいと調査を開始します。

 

二年前、修一が忍び込んだ稲村家の妻・葉子が彼に気が付き、警察に通報したことが原因で逮捕されましたが、不可解な点がいくつもありました。

彼は、自分が使っていた自転車には発信機が取り付けられていて、そのせいで通報から警察が駆け付けるまでが早かったことを刑務所の中で知りますが、それだけでは説明がつかないことが多くあります。

 

修一は、自分が忍び込んだ数日後に稲村家に忍び込んだ宵空き(夕方から夜間を狙う空き巣)の黛(まゆずみ、漢字は微妙に違います)と接触します。

啓二は一度目にしたものは忘れないほどの記憶力の持ち主で、当時の部屋の中の様子と黛から聞いた部屋の中の様子とを照らし合わせます。

 

すると、タバコがあったにも関わらずライターがなかったことに気が付き、修一は、葉子が最初から起きていて、布団の中でライターを握りしめながら家を放火し、夫を殺害しようと企んでいたのだと推測。

さらに葉子は色白な肌が自慢で、高価な化粧品だけは手元に残したいと事前に車に隠していました。

 

ところが、殺意の唯一の証拠である化粧品を修一に目撃されてしまい、自分の思惑がバレることを恐れた葉子は警察に通報したのでした。

一方、黛が忍び込んだ時には化粧品は部屋の中に戻されていました。

 

このことから、啓二は葉子の殺意を否定しますが、修一は取り合わずに恋人の安西久子のアパートを訪れます。

彼女は修一のことを拒否しないものの、どこかぎこちない距離感でした。

 

修一は行為に及びますが、うまくいきませんでした。

原因は自分にあり、啓二も含めて三人が一つになることは出来ないと彼は考えます。

 

かつて三人は一緒に遊び、修一も啓二も久子に恋をして、久子は修一を選んだのでした。

啓二は二人の幸せを願っていますが、修一は彼への遠慮、そして久子に自分はふさわしくないと彼女の気持ちを無視し続けます。

 

翌朝、修一は葉子の行方を追います。

その理由には母親への憎しみが関係していて、人を焼き殺そうと考える女の顔が見たいと思ったからでした。

 

調べると、葉子はすでに夫と離婚し、今は篠木辰義というヤクザと一緒にいるのではという話が上がります。

葉子は篠木に入れ知恵をされ、保険金目的で夫を殺害しようとしていたのであれば納得がいきます。

 

しかしそうすると、なぜ殺害をやめてしまったのかという疑問が残ります。

修一はヤクザを止めたのは別のヤクザなのではと考え、調査を続けます。

 

その後、吉川という刑事から篠木はすでに大阪に帰り、葉子も一緒だと聞かされますが、修一の中で真相が見えました。

ヤクザを止められるのは、ヤクザ以外にも警察がいます。

 

三日後、吉川の後をつけてマンションの一室にたどり着きます。

 

葉子は大阪にはおらず、このマンションにいて、吉川にネタで強請られて関係を強要されていたのでした。

事件当時、吉川は葉子が何かを隠していることに気が付き、それをネタに彼女と肉体関係を持ちます。

 

篠木は葉子が警察に絡まれていることを知り、手を引きます。

そして、吉川がその後釜に入ったのでした。

 

吉川は修一を野放しにし、情報を流すことと引き換えに全てを忘れるよういいます。

修一はそれを了承しますが、別れ際、出所後に新たに自転車に取り付けられていた発信機を吉川のポケットに入れます。

 

これで陽動になるし、場合によっては吉川を逮捕させることが出来ます。

啓二は、男運のない葉子の不幸を憐れむのでした。 

 

 

 

刻印

 

吉川の死体が川に浮いているのが発見されました。

死因は溺死で、血中アルコール濃度から泥酔状態にあったと思われます。

 

事故か、はたまた誰かに突き落とされた可能性もありますが、真実は分かりません。

警察も真相を求めているようで、修一が関係していると見て猪瀬という刑事が接触してきます。

 

猪瀬は、修一と吉川が葉子のマンションで言い争っていたという目撃証言を得ていて、女をめぐってトラブルになったと考えていますが、修一はそれを否定。

しかし、吉川は直前に葉子の経営するスナックに行っていて、葉子が話に絡んでいると警察は見ています。

 

修一は吉川が死んだ時のアリバイを聞かれますが、その時は別の場所で盗みを働いていたため、正直に話すわけにはいきません。

篠木が関係しているとも考えましたが、彼は三か月前に刑務所に入れられていることが判明します。

 

修一は葉子がやったのではと疑いますが、彼女にはアリバイがあると客が証言していることが分かりました。

しかも猪瀬は、証言者は神様のような人物だから信用できると自信満々です。

 

修一は猪瀬の挑発に耐えてしのぐと、単独で吉川殺害の事件を追います。

神様について修一は、証言者は判事だと推測。

 

もし刑事がクロだといって法廷に差し出せば、それを鵜呑みにしてクロにしてくれる。

さらに懲役の年数という形で刑事の仕事を評価するため、刑事からすれば神様、もしくは仏のような存在です。

 

しかし、疑問もあります。

判事は仕事柄、民間人との接触にひどく気を遣うため、行く店は歴代の判事が引き継いできた料亭などに限定されるはずです。

 

そこで、誰かがその判事を店に連れてきたのだと推測。

この時点で、修一には葉子と判事の接点について検討がついていました。

 

修一は競売師の大室誠から葉子の店の場所を聞き、さらに稲村家の競売について、轟木という地裁の執行官が物件の差し押さえで動いていたことを知ります。

轟木は困った人に知恵を与え、その度にお金や不動産などで要求することで有名で、葉子への入れ知恵は、篠木ではなく轟木からだったのです。

 

またこれで、葉子の店に判事を連れて行ったのは轟木だと分かりました。

その後、修一は葉子に直接会い、彼女が吉川に弱みを握られていることを話した上で吉川殺害のことを聞きます。

 

すると、葉子はあっさりと店に轟木がいたことを白状します。

また彼女は吉川と別れたがっていて、そのために吉川が泊まりに来る日に、轟木に判事を呼んでもらったのだといいます。

 

しかし、ひどく酔っぱらった吉川は店に乗り込んできて、轟木が彼を外に連れ出し、その後のことを葉子は知りません。

彼女は嘘をついてはいませんが、それだけでは判事が嘘をついて彼女をかばう理由にはなりません。

 

そこで修一は彼女のブラウスを引き裂きます。

すると、背中のあたりに前歯の痕が日本、下が四本の刻印がありました。

 

つまり、今は噛み癖のある判事と関係を持っているということです。

修一は服代として一万円札三枚を置いて葉子の店を後にすると、修一は轟木の家に忍び込み、『神山伸介』という名前の通帳を盗みます。

 

翌朝、修一はこの通帳をネタに轟木と面会し、吉川のことについて話させます。

すると、轟木は吉川の殺害を否定します。

 

吉川を店の外に連れ出しましたが、彼は途中のベンチで眠ってしまったため、轟木はその場を後にしたのだといいます。

修一は通帳のことでさらに脅しをかけ、あの日いた判事が栗本という男だと吐かせます。

 

その後、修一は栗本が裁判長を務める法廷を覗き、あることを確認すると退室。

刑事が尾行しているからと戻ろうとしなかった久子のアパートに向かいます。

 

すると突然、背後から男に襲われますが、修一はこれを撃退。

男は、誠でした。そして、彼は一万円札を三枚持っていて、そのナンバーは葉子に渡したものと同じでした。

 

つまり、誠は葉子に頼まれて修一を襲わせたということです。

誠は、修一が現れるだろうと久子のアパートを見張っていたのです。

 

修一は襲われる前から誠のことに気が付いていて、決め手は葉子に残された歯の痕でした。

法廷で栗本を見たのは、歯並びを確認するためでした。

 

誠はすぐに観念し、頼まれたのではなく、自分で葉子のために吉川を川に突き落としたのだと白状。

葉子には言っていませんが、薄々気付いているようです。

 

その後、鬼気迫る様子でなおも修一に襲い掛かる誠ですが、その声を聞きつけて修一を見張っていた猪瀬たちが現れます。

修一は久子の部屋の灯りを網膜に焼き付けると、その場から逃げるのでした。

 

 

抱擁

 

修一は久子が困っていることを知りますが、近いうちに戻るとだけ言ってなかなか帰りません。

『旅館いたみ』に泊まっていると、女将から修一のことを探す刑事の目をした男が来たと報告があり、修一は男と接触します。

 

男は以前、刑事だった探偵で、三沢玲子という女性に頼まれて修一のことを追っていたのだといいます。

玲子は久子の幼なじみで、修一は玲子と会います。

 

玲子が修一を探していた理由、それは久子のピンチを伝えるためでした。

久子の勤める保育園で数十万円という大金がなくなる騒動があり、修一と付き合う久子は警察からしたら印象が悪く、盗んだのではないかと疑われていました。

 

玲子の話では、大金がなくなったであろう日の夜、老人が職質されたということで、思い当たる泥棒に声を掛けます。

しかし、男からは犯人だという証言は得られず、状況を確認しようと久子に連絡します。

 

すると、久子はそれとは別のことで困っているのだといい、事情を説明します。

彼女は園長の息子である事務長にプロポーズされて困っていたのでした。

 

その後、修一は実際に保育園に忍び込み、思い当たった泥棒の男では腕力的に難しいと判断。

修一には他にも思い当たる節があり、そこにも忍び込みます。

 

そこは、玲子の実家でした。

忍び込んだ後、家に電話すると、彼女の父親で警察署長である男が出て激怒していました。

 

しかし、修一は玲子の通帳を盗み見みていて、預金が最近ほとんど引き落とされていなかったことを伝えます。

つまり、玲子は保育園から盗んだお金で探偵の報酬を支払っていたのでした。

 

また保育園の窓ガラスに付着したファンデーションは玲子のものと同一だと推測され、父親は何も言い返せません。

修一は、玲子を久子に近づけるなと忠告しますが、父親に代わって玲子が電話口に出ます。

 

彼女は事務長と交際していましたが、事務長が久子に熱くなってしまったため、修一を使って久子を引きはがそうとしていたのでした。

電話を切ると、修一は久子のアパートを訪れ、プロポーズを断り、玲子とも縁を切るよういいます。

 

久子は修一が自分のことを心配してくれることを喜びますが、彼女にはお見合いの話も出ていて、年齢も考えると悠長にしている暇はありません。

それでも修一は煮え切らず、久子は泥棒をやめて普通に暮らしてほしいと嘆願します。

 

また久子は、修一と啓二の両方を愛せばよかったのかと問いかけます。

しかし、心を二つに割るなんてできない。だから、啓二のことは忘れてほしいと。

 

修一は、火事があった日の啓二の叫び声を思い出し、久子を振りほどくと、アパートを後にします。

中耳では、自分が消えるから戻ってくれと啓二が叫び続けるのでした。

 

 

 

業火

 

週明けに皇族が来県するということで、警察は宿泊施設に怪しい人物がいないかいわゆる『旅舎検』を仕掛けてきます。

事前に察知した修一はファミレスに避難してやり過ごします。

 

そこに同じく逃げてきた同業者の三崎が声を掛けてきます。

半月前から同業者が立て続けに三人襲われていて、黛もその餌食になって意識不明の重体に陥っていました。

 

犯人の目星はついていませんが、気を付けるよう修一に忠告します。

久子の部屋を後にした夜以降、啓二は呼び掛けても返事をしません。

 

修一は啓二の骨壺が埋まっている寺の大木に向かい、そこで何度も呼びかけますが、依然として返事はありません。

いってしまったのかと思っていると、突然、二人の男が襲い掛かってきます。

 

修一は攻撃をくらいながらも一人を押さえ、ジゴロ(女性に頼って生活している男性、ヒモのこと)から頼まれたと白状させます。

その時、背後からもう一人の男が襲いかかろうとしていて、修一も気が付いていましたが、啓二が危ないと声を上げたことで気をとられ、形勢は逆転。

 

徹底的に痛めつけられ、重原昌男という男の家に盗みに入ったかと聞かれますが、修一に覚えはなく、そのまま気を失います。

啓二の心配そうな声で目を覚ますと、そこは病院のベッドでした。

 

修一は啓二から状況を聞くと、看護師に止められる前に病室を出ます。

外に出ようとすると、喫煙コーナーに『博慈会』という暴力団に所属する男がいることに気が付き、昨日襲ってきて相手も博慈会の人間だと分かりました。

 

修一は監視されていることを考慮して裏口から出ると、啓二の反対を押し切って重原昌男について調査を始めます。

重原昌男の家に行くと、近所の老婆から事情を聞きます。

 

家には誰もおらず、重原は何週間か前にヤクザに連れていかれたのだといいます。

そして、その少し前に泥棒に入られていました。

 

次に修一は、刑務所で世話をしたホストのユウヤからジゴロと呼ばれるヤクザについて聞きます。

するとユウヤは篠木、それから博慈会の若頭である御影という男の名前を挙げます。

 

その後も博慈会から尾行されましたが、相手は重原の家に盗みに入った人物を捕まえたのか、修一を襲ったりはしません。

しかし、修一の気は済まず、御影に会いに博慈会に向かいます。

 

すると、意外にも御影は修一と会ってくれ、ジゴロ=二五六だと教えてくれます。

刑法二五六条、贓物収受、故買のことです。

 

ジゴロとは、すでに引退していますが、その昔は県内の故買屋の総元締めだった人物のことを指していました。

その人物は博慈会の組長、御影の父親と古い付き合いで、孫娘が重原に引っ掛かり、しかも痴態をおさめたビデオを撮られてしまったのだといいます。

 

その人物は組長に依頼し、組員が送り込まれますが、そのビデオはすでに盗み出された後でした。

だから、そのビデオを盗んだ泥棒を探していたのです。

 

重原は殺されたと推測され、犯人を捜索中にも関わらず、修一は無実だとみなされていました。

御影はその理由を教えたがらず、修一はそこからジゴロの正体にたどり着きます。

 

しかし、少し遅すぎました。

御影から、ジゴロとは修一が重原の家の近くで会った老婆のことで、心不全で亡くなったと告げられます。

 

今思い返すと、彼女がジゴロだという根拠はいくつもありました。

彼女は殴られたひどい有様の修一の顔にも触れずに重原のことについて話していました。

 

また、修一は何が盗まれたのか質問しましたが、それでジゴロは彼が盗んだわけではないと判断したのでした。

 

 

使徒

 

クリスマスイブ。

修一にはある約束がありました。

 

刑務所にいた時、ノビ師と大野という男から、サンタクロースになってある山内恵美という女の子にプレゼントを渡してほしいと頼まれていたのです。

父親である山内広太は同業者で、恵美と二人暮らしでしたが、六年前のクリスマスに交通事故で亡くなっていました。

 

それから恵美は遠縁の夫婦に引き取られますが、納戸で寝かされプレゼントもありません。

そこで大野はサンタになってプレゼントを渡していましたが、今年のクリスマスまでに出所することは出来ず、だから修一に頼んできたのです。

 

修一にそんな約束を果たすつもりはありませんでしたが、しつこく啓二に言われ、渋々大野の妻が住むアパートに向かいます。

しかし、妻はすでに引っ越していました。

 

これで大野が預けていたというプレゼントのあては外れましたが、自腹を切れば問題ありません。

手元には盗んだお金がありましたが、修一はそれには手をつけず、昔家が近所だった高見沢という老人を訪れます。

 

彼は真壁家の火事で燃え残った物置のものを保管してくれていて、大部分はすでに捨てられていましたが、父親の形見である腕時計だけを渡されます。

修一はこれを換金し、盗みとは一切関係ない綺麗なお金でペンダントを購入。

 

その夜中、恵美の引き取られた家に忍び込むと、正体を明かすことなくプレゼントを置き、恵美からサンタに向けられた手紙を持って退散します。

しかし、家から出てくるところを男に見られてしまいます。

 

暗くてよく見えませんが、制帽をかぶっていたため警察だと判断し、逃げます。

相手は足が悪いのかすぐに撒くことが出来ました。

 

その後、あの夜のことを思い出し、こちらを見ていたのは警察ではないと思い直します。

しかし、なぜ男はあんな場所にいたのか、分かりません。

 

事情を聞こうと、大野の舎弟だった滝川という同業者を訪ねます。

彼は重原の件で痛めつけられたあとでしたが、構わず山内について聞きます。

 

すると、山内と大野は幼なじみではないことが判明。

大野が嘘をついていたことになります。

 

そこで修一は、大野もまた誰かに頼まれてサンタをやっていたのではと推測。

恵美が書いた手紙を読みます。

 

恵美はサンタの正体に気が付いていて、『あの日のおじさん』と書いています。

ここで修一は真実に気が付き、製麺工場の警備員をしている里見を訪ねます。

 

里見はあの夜、修一を出待ちしていた男で、その時に警備員の服装をしていたため、警察だと勘違いしたのでした。

また彼は山内が盗みに入ったデパートの警備員をしていて、逃げる山内に足をやられ、後遺症を負っていました。

 

盗んだ後、山内は交通事故で亡くなり、その場にいた恵美を見て、彼女は山内の娘だと気が付きました。

里見は恵美がかわいそうになり、大野に頼んでサンタになってもらっていました。

 

その後、今年は代わりの人間に頼んだと大野に言われ、代理の修一にお礼を言うために外で待っていたのでした。

里見はこれからも恵美には正体を明かさないつもりでしたが、修一から恵美の手紙を渡され、嗚咽をもらすのでした。

 

 

遺言

 

意識不明の重体だった黛がうわ言で修一の名前を呼んでいると聞きつけ、修一は病院を訪れますが、その日に黛は息を引き取ります。

彼は他にも泥棒に分かる業界の言葉を何度も呟いていて、その中には彼に隠し財産があることを示す言葉もありました。

 

また彼の手帳にはスギモトという名前が残されていて、これはその昔『ゴールドフィンガー』の異名で知られた杉本克彦だと修一は推測します。

しかし、黛はスリをやっていたという話は聞かないため、二人の関係は分かりません。

 

病院は治療費の請求で困っていたため、修一は経理の綾瀬を連れて黛のアパートに向かいます。

道中、お見合い相手と思わしき相手と喫茶店から出てくる久子を見かけますが、修一は何も言わず先を急ぎます。

 

黛の部屋はすでに荒らされていて、博慈会の人間が例のビデオを探すために入ったのだと思われます。

修一は彼らが探さなかったような細かい場所まで探すと、給湯口の中から百万円と彼の仕事の成果が書かれた泥棒日記を見つけます。

 

そのお金で未払いの家賃、それから治療費の一部を支払いますが、それでも治療費は半分以上足りません。

しかし、修一にはあてがありました。

 

彼は襲った相手から取ればいいとして、博慈会に乗り込むと、御影に残りの治療費を支払うよう要求します。

はじめは御影も頷きませんでしたが、修一がガサ入れのネタとしてこのことを警察に言うと脅すと、御影は全額支払います。

 

その後、修一は黛の泥棒日記に残されていた番号に電話をかけ、杉本が留置場に入れられていることを知ります。

もう一つの番号にかけると、そこは老人ホームで、修一は黛という名前の人物が入居しているか聞きますが、そんな人物はいませんでした。

 

修一は杉本がいる留置場のある警察署に行くと、スリ係の美濃部と会い、情報収集します。

黛の父親はハボク(縁日に出店する植木屋、葉+木)で、黛が宵明けとしてデビューしたと同時に蒸発、生きているならもう八十才近いといいます。

 

警察署から帰り、博慈会の人間らしき人物が尾行しているのに気が付きます。

どうやら、黛を博慈会がやったことを話したと思われたようです。

 

相手は拳銃を所持しているように見え、修一は逃げますが、相手もついてきます。

そこで修一はわざと交番に近づくと、怪しい素振りを見せ、警官に職務質問させます。

 

その時、ドライバーを所持していたため、軽犯罪で捕まり、杉本と同じ留置場に入れられます。

同業者は会話を引き出すために同房に置くことを修一は知っていました。

 

これで博慈会の男から逃れ、杉本と接触することが出来ました。

修一は黛が死んだことを伝えると、様々なことを教えてもらいます。

 

黛の父親は耕三郎という名前で、杉本は彼の一番弟子でした。

杉本は天才でしたが、一度のミスから右手の指全てを金づちで潰され、ハボクになったのだといいます。

 

拘留期限は四十八時間ですが、その前に刑事の馬淵によって貸しを作ろうと釈放されます。

修一はその足で前に電話した老人ホームに行くと、身元の分からない人として岳山という人物の病室に案内されます。

 

彼はボケていて修一の言葉には何も反応しませんでしたが、折り紙で鶴を折っていて、手先へのこだわりが見られました。

しかし、修一は折り鶴の数から、彼はボケていないと判断します。

 

岳山は一日一羽折っていて、その数は黛の前から姿を消してからの日数でした。

彼は、黛が迎えにくるのを待っていたのです。

 

啓二は黛の遺言を伝えるべきだと主張しますが、修一は彼が父親のことを恨んでいた方に賭け、彼が死んだことだけを伝え、遺言は伝えないのでした。

 

 

行方

 

出所からもうすぐ一年が経とうとしていた頃。

『旅館いたみ』にいる修一のもとに久子が訪れます。

 

彼女は誰かに尾行されているといい、ことの経緯を話します。

以前、修一も見掛けた久子と一緒にいた男性はお見合い相手で、久能次郎といいます。

 

久子は何度も次郎と会い、修一のことを諦めて彼と結ばれようと思いかけていましたが、そこで思いがけないことが起きます。

ある日のデートにやってきた次郎は顔や姿形こそ似ていますが、久子には別人だとすぐに分かりました。

 

聞くと、相手は久能新一郎、次郎の兄だといいます。

久子は馬鹿にしていると次郎との交際をやめると宣言し、本人にも直接伝えます。

 

ところが、それ以来、 新一郎から脅迫電話がかかってくるようになり、今日のように尾行されるようになったのだといいます。

本来であれば警察に通報するべきですが、修一と付き合っている久子は印象があまり良くないため、助けも期待できません。

 

久子は一緒にいたいといい、同じ部屋に泊ります。

ところがしばらくして、いたみが火事にあい、修一と久子はなんとか逃げ出します。

 

火をつけたのは新一郎と思われ、修一は彼を探すためにまずは次郎が経営する文具店を訪れます。

修一は、新一郎がたちのよくない不動産屋と付き合いがあることを知っていると伝えると、次郎は木梨という男の名前を出します。

 

木梨のことは修一も知っていて、不動産屋ではなく、他人の土地をかっさらう地面師でした。

今度は木梨に接触しようと不良中年のたまり場に行くと、誠の後釜に座った林田という男から木梨について聞きます。

 

木梨のことはあまり分かりませんでしたが、新一郎が一時期、自動車工場にいたことが判明。

修一はそこで働く熊野から事情を聞きます。

 

新一郎は確かに在籍していたこともありましたが、あまりに仕事が出来ないとクビになっていました。

その後、一ヶ月ほど前に新一郎が訪ねてきた時に財布を忘れ、次郎が取りに来たことがありました。

 

さらに修一は警察署に向かうと、馬淵から木梨について聞きだします。

すると木梨は今朝、留置場に入れられたことが判明します。

 

修一は馬淵のノルマのために、いくつか罪を犯してもいいともちかけ、その引き換えに木梨と電話で話す機会をもらいます。

新一郎の居場所について聞くと、彼と付き合っていた女は別の男のマンションに転がり込み、彼女のアパートには新一郎が一人で住んでいるのだといいます。

 

住所を聞くと、そのアパートに向かいますが、部屋はどぶ臭く、害虫の流入を防ぐための排水管の水が枯れていました。

修一は何かを察すると、次郎の経営する文具店に忍び込み、寝ている次郎、ではなく彼に成りすました新一郎に頭突きを食らわせます。

 

相手はしらばっくれようとしますが、修一は気が付いていました。

この間、店で会ったのは次郎ではなく新一郎だと。

 

修一は工場について聞くと、相手は知らないと答えますが、これが新一郎だと証明しています。

本物の次郎であれば、新一郎の財布を取りに工場に行ったことがあるため、知らないはずがありません。

 

アパートの様子からして、新一郎が次郎に成り代わってからかなりの日数が経過していると思われます。

おそらく、新一郎は次郎の手で殺害されたのでしょう。

 

新一郎は抵抗しますが、とても修一には敵いません。

しかし、命をとることまではせず、いつでも寝室に忍び込めると脅して修一は文具店を後にします。

 

片がつき、久子のアパートに向かいますが、道中で啓二は自分が死んだ火事の日のことを口にします。

あの日、母親は家に火を放ち、逃げられないよう啓二を押さえつけていましたが、彼が助けてと懇願すると力が緩まり、逃げることはできたのです。

 

ところが、泣いている母親を見て、啓二は本当に母親のことを悲しませてしまったのだと痛感し、彼女のもとに戻ってしまったのです。

修一は、啓二のことを殺した母親のことを恨んでいましたが、死んだのは母親ではなく啓二自身のせいということになります。

 

本当のことを話さなかったことについて、啓二は一緒にいたかったからだと答えます。

修一はその理由を聞きますが、啓二はそれには答えずに、修一と久子のことが大好きだと残し、唐突に消えてしまうのでした。

 

修一はようやく気が付きます。

本当のことを話せば、母親が死を共にするほど深く愛していた啓二の方で、修一ではないことに気が付かれると、啓二は分かっていたのです。

 

しかし、それがどうしたと修一は何度も啓二に呼びかけますが、彼はもう二度と戻ってくることはありませんでした。

修一はアルファルトの歩道に落ちた自分の影を見つめます。

 

久子のアパートに向かって自転車をこぐと、影はどこまでもついてくるのでした。

 

 

最後に

 

いかがでしたでしょうか。

警察や泥棒、ヤクザなど闇の部分を中心にしながらも、常にタイトルである『影踏み』を意識させる修一と啓二の関係性は時に面白く、時に切なく悲しくなるものがありました。

 

ぜひこの部分を、映画でも再現してもらえれば嬉しいと思います。

 

影踏み (祥伝社文庫)

影踏み (祥伝社文庫)