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徹底ネタバレ解説!『朝が来る』あらすじから結末まで!

朝が来る (文春文庫 つ 18-4)

 

長く辛い不妊治療の末、自分たちの子を産めずに特別養子縁組という手段を選んだ夫婦。
中学生で妊娠し、断腸の思いで子供を手放すことになった幼い母。
それぞれの葛藤、人生を丹念に描いた、胸に迫る長編。
第147回直木賞、第15回本屋大賞の受賞作家が到達した新境地。
河瀨直美監督も推薦!
このラストシーンはとてつもなく強いリアリティがある。「解説」より

【Amazon 内容紹介より】

 

これまでの辻村さんよりもよりリアリティが追求された、今の社会を表した内容になっています。

特別養子縁組という制度を言葉では知っていましたが、そこに子どもを預ける母親の心情、新しく子どもの母親になる女性。

 

それぞれが悩みを抱え、それでも答えを出すその姿は涙なしでは読めませんでした。

 

この記事では、そんな本書の魅力をあらすじや個人的な感想を交えながら書いていきたいと思います。

ネタバレになりますので、未読の方はご注意ください。


 

 

 

 

満ち足りた生活と母親を名乗る女性

 

栗原清和・佐都子夫妻は一人息子の朝斗と一緒に武蔵小杉の高層マンションの高層階に住み、満ち足りた生活を送っていました。

ところが佐都子の元にある人物から電話があり、幸せな日々に不穏な影が忍び寄ります。

 

相手は朝斗の実の母親である片倉ひかりだと名乗り、朝斗を返してほしいといいます。

それが嫌なら、お金を払えば諦めると。

 

実は、朝斗は栗原家の本当の子どもではなく、六年前に特別養子縁組によってもらわれてきた子どもでした。

しかし、今では疑いようもなく自分たちの子どもであり、手放すつもりなど毛頭ありません。

 

佐都子は会って話そうと持ち掛けますが、ひかりは栗原家の場所をすでに知っていました。

連絡先などは佐都子たちが養子縁組を仲介してもらった『ベビーバトン』という今はない団体から聞いたのだといい、他では話せない内容だからと自宅に呼ぶことに。

 

清和も仕事を休み、電話の主であるひかりと会う二人ですが、違和感を感じます。

清和は、あなたは誰ですかと問いかけ、それは佐都子も同じ気持ちでした。

 

本来、生みの親と育ての親が顔を合わせることはありませんが、佐都子たちはひかりの希望で一度会ったことがあるから分かります。

当時、十四歳で、しっかりと朝斗への愛情が感じられたひかりと、目の前の女性がどうしても結びつきません。

 

二人はあの後調べ、ベビーバトンの事務を引き継ぐ団体も個人の情報は守られているはずと回答したことから、この女性が連絡先を入手できるとは考えにくい。

そして、仮に目の前の女性がひかりだとしても、その目的が見えない。

 

朝斗か。金か。

 

女性は周りに言いふらされたら大変ではと脅迫しますが、それは栗原夫妻にとって脅迫でもなんでもありません。

二人はすでに周囲にそのことを話していて、朝斗自身も生みの親が別にいることを知っているからです。

 

朝斗は、広島の病院で生まれたことから生みの母親のことを『広島のお母ちゃん』と呼び、親しみを覚えていました。

佐都子はまた、電話口で女性が『あの子の小学校にも』と言ったことを指摘し、朝斗はまだ幼稚園に通っていること、本当の母親なら自分の子どもが何歳か忘れるはずないといいます。

 

そこにママ友に連れられた朝斗が帰ってきて、女性は会うか帰るかで迷い、言います。

私、は。

 

そして一ヶ月後、警察が佐都子たちのマンションにやってきて、人を捜していると一枚の写真を見せてきます。

それは、ひかりを名乗った女性でした。

 

女性は行方不明で、人に佐都子たちの家を訪ねると言っていたこと、この近くで目撃されて以降、目撃情報が途絶えているのだと教えてくれます。

佐都子は女性が家を訪れたことを認めた上で、一体誰なのかとたずねます。


 

 

特別養子縁組

 

ここからは、栗原夫妻が朝斗を引き取るまでの話。

 

二人は二十九歳の時に同じ職場で知り合い、結婚。

自然に任せて子作りもしますが、一向に出来ません。

 

三十四歳の時に病院を受診し、色々な方法を試しますが、それでもうまくいきません。

そこで清和も一緒に見てもらうと、清和が無精子症であることが判明し、二人は声を失います。

 

それでも二人は諦めず、痛みや苦しみに耐えながら不妊治療に臨みますが、結果は陰性でした。

全ての努力が報われず、二人は治療を継続するのではなく、二人で生きていくことを選択します。

 

ところが、そんな二人の選択を変えさせる出来事が起こります。

何気なくテレビを見ていると、特別養子縁組を仲介する民間団体『ベビーバトン』が紹介されていて、その時はすぐ動き出そうとは思いませんでしたが、次第に気になって佐都子は調べてみることに。

 

すると清和もまた調べていたことが分かり、二人はベビーバトンが開催する説明会に参加します。

そこには同じような理由で集まった夫婦がいて、それぞれ苦悩を抱えていました。

 

代表の浅見はしっかりと現実を伝えた上で、もし子どもを迎えたらちゃんと養子であることを伝えてほしいといいます。

また後半では実際に養子を迎えることが出来た夫婦が登場し、当時の悩み、今感じる喜ぶを教えてくれます。

 

その後、浅見との個別面談に進み、何度も彼女と話して栗原夫妻は養親登録に進みます。

そして一年も経たずに、朝斗がやってきます。

 

朝斗は広島の病院で生まれ、佐都子たちは広島に行って生まれたばかりの朝斗を抱き、子どもを迎え入れる喜びを噛み締めます。

この子はうちに、朝を運んできた、と。

 

と、そこで浅見が朝斗の母親に会わないかと提案します。

佐都子は清和に聞かずに会いたいと伝え、二人は母親とその姉、両親に会って、驚きます。

 

母親は、まだ中学生くらいの幼い少女でした。

二人は生んでくれたことへの感謝を伝え、相手の家族もまた生まれた子どもを佐都子たちに託します。

 

そこで、佐都子は朝斗と名付けることを伝えます。

この子を抱いた瞬間に、朝が来たような思いがしたからだと。

 

朝斗の生みの親であるひかりは最後まで朝斗のことは見ませんでしたが、その分の力を込めるように佐都子の手をずっと握り続けるのでした。

ひかりから真実告知をする際に読んでほしいと手紙を託され、そのおかげで朝斗は育ての親とは別に生みの親がいることを理解し、『広島のお母ちゃん』と大事にすることができました。

 

朝斗のことはずっと忘れない。

そこには、我が子に向けられた確かな愛情がありました。

 

そして現在。

警察は、あの日栗原家を訪れた女性は正真正銘の片倉ひかりだといい、佐都子は驚きと疑われているのだという恐怖を感じていました。

 

警察がひかりを探す理由。

それは、窃盗の横領の容疑だといい、勤務先の金庫から現金を盗んで姿を消したのだといいます。

 

 

生みの母親の人生

 

ここからは、片倉ひかりの過去から現在までが描かれます。

 

ひかりは中学一年、十三歳の時に同級生の麻生巧と付き合い始めます。
清潔な世界のみを信じ、それ以外のことを認めようとしない家族、特に母親に反発するひかりは、大人の階段を一つ飛び越えるごとにいい気分になっていました。

 

最初はキスだけで済んでいたものが、すぐに最後までするようになり、ひかりは恋愛する自分に溺れていきます。
コンドームをつけずにしていましたが、中には出さないし、まだ初潮を迎えていなかったので安心していました。

 

ところがある日、巧と食事をしたレストランでひかりは気分が悪くなり、その時は具合が悪いのだろうと考えていましたが、この時点で妊娠三か月だったことが後から判明します。
ひかりがそのことを知ったのはそれよりも後、貧血で近所の内科にかかった時で、その時にはすでに二十二週を過ぎ、もう中絶はできない時期まできていました。

 

男性経験すらないと思っていた母親は激怒しますが、ひかりは自分を思うように縛りたい母親に強い反発を抱いていました。
しかし、それでもひかりは未成年であり、決める権利などありません。

 

事情を全て説明すると、ひかりと巧抜きで親同士で話を決め、ひかりは妊娠八か月目を迎えると、病気で遠くの病院に入院するという嘘の理由で学校を休まされます。
その間に子どもを産み、特別養子縁組を利用して子どもが欲しい家に引き取ってもらうのだといいます。

 

ひかりは嫌だと拒否しますが、家族はすでにひかりが出産後、高校受験に向かう未来を見据えていて、目の前のひかりのことなど心配していません。
そして、母親は巧もそうしてほしいと言っていたことを伝えてきて、ひかりは深く傷つき思います。

 

自分の居場所は、もうないのだと。

その後、ひかりは一人で広島に向かいます。
出迎えてくれたのは、ベビーバトンの代表・浅見でした。

 

ひかりは同じ事情を抱える妊婦たちと共同生活し、出産の時をここで待つのです。
寮にはひかりよりは年上だけれど、それでも若い妊婦がたくさんいて、ひかりは彼女たちの事情を聞いては驚きます。

 

そして、親元を離れて心細い中、お腹の中の子どもを大事に育て、毎日手紙を書きます。
一緒に暮らしたいと。

また、これまで家事もろくに手伝ってこなかったひかりは、そこで初めて生活する術を覚え、次第に他の妊婦たちと打ち解けていきます。


そして、無事に出産を終えました。

出産の日には両親と姉が広島まで来てくれ、時間を置いたせいか冷静に見えます。


生まれた子どもを抱きしめ、重たさの中にその存在を強く感じ、そしてすぐに別れは訪れます。

子どもを迎えに来た栗原夫妻は立派そうで、でも二人を見ることが出来ません。


ひかりは栗原夫妻との面会を希望しましたが、それは二人に会いたいからではなく、生まれてきた子どもにもう一度会いたかったからです。

そのまま考え直してくれるのではないか。


そんな淡い希望も抱きましたが、朝斗と名付けられた子どもは栗原夫妻と一緒に出て行ってしまいます。

こうして出産を終え、ひかりは栃木に戻って日常に戻ります。


春休みから肺炎をこじらせていて、入院していたと嘘をついて。

しかし、それはひかりの意思ではなく、世間体を気にする母親のエゴに過ぎません。


同じ空間にいるのにクラスメイトとは違う世界を生きているような気がして、あれほど会いたかった巧も驚くほど子どもっぽく、ひかりは全てに失望します。

欲しかったのは、こんな日常じゃない。


それからも両親、特に母親とはたびたび衝突し、十七歳の時、家出して再び広島を訪れます。

姉が大学進学を機に大阪に行ってしまったことで家にいることが今まで以上に息苦しくなり、また家出をする資金のために親の財布からお金を抜き出していることがバレて、決心しました。


広島で縁があるのはベビーバトンの寮だけであり、ひかりはそこで浅見に会います。

最初はあの時のお礼を言うつもりだけでしたが、会うとここに置いてほしいと口に出してしまい、浅見の厚意でベビーバトンがなくなる来年まで住まわせてもらうことになります。


両親には浅見が代わりに連絡をしてくれ、自分からも連絡するよう約束します。

 

ひかりが朝斗の居場所を知ったのはこの時です。浅見の持っている資料からその名前を見つけ、特に会いに行こうと思うでもなくメモします。

 

ひかりはその後、浅見の紹介で住み込みで新聞配達の仕事を始めますが、まだ両親には連絡していません。
きつい仕事に耐え、自分に気のある男を見つけては一時の幸福を感じますが、それもすぐに終わってしまいます。

 

両親に連絡していなかったことは浅見にすぐにバレてしまい、言葉少なに連絡をとります。
その後すぐに姉が訪ねてきますが、大学に行って綺麗になった姉に愕然とし、自分も焦らずに待っていればあんな幸せが待っていたのかと思い知らされます。

 

そして、ひかりに最大の悲劇が訪れます。
同室になったトモカが失踪し、ひかりは借金の保証人に勝手にされていたのです。

 

借金取りに毎日のように来られ、いくら事情を説明しても聞いてもらえず、この仕事紹介してくれた浅見に申し訳ないと思いつつも、ひかりは逃げ出します。
気が付くと足は栃木の実家に向かっていて、途中で思い直したひかりは横浜を目指します。

 

そこでなんとか住み込みのホテルの清掃の仕事を見つけ、再スタートを切ります。
やがて広島でお世話になった職場に謝罪の手紙を書きますが、借金取りは手紙の消印からひかりの居場所を突き止め、借金の催促をします。

 

逃げても無駄だった。
ひかりは目の前からいなくなってほしくてお金を返すことを決めますが、返せるあてなどありません。

 

そこで出来心で職場の金庫に手をつけ、それで借金を返済します。
しかし、数日後にはそれがバレてしまい、ひかりは親戚にお金を借りて返すと嘘をついて栗原夫妻と朝斗の住むマンションを目指します。

 

もうやるしかないのだと。

 


 

 

朝が来る

 

栗原家を訪ねる当日のひかり。


栗原夫妻に朝斗の母親ではないと否定され、今の自分はそう見えないのだと痛感します。

そして、朝斗の中では『広島のお母ちゃん』という綺麗な形で生き続けていることを知り、ひかりは朝斗の母親ではないと嘘をつき、朝斗には会わずに栗原家を後にします。


拒絶されたのに、今もお母さんと呼ばれていることで気持ちは穏やかでした。

しかし、これで本当にひかりはもうどこにも行けません。


安いビジネスホテルやネットカフェを転々としながら、昼間は公園で過ごします。

警察や借金取り、誰でもいいからひかりを見つけて、次にどうすればいいのか教えてほしいという心境になっていました。


そんな生活を一か月続け、ひかりは生きていても仕方ないと悟ります。

雨が強く打ち付ける中、今日終わらそうと思ったその時でした。


背中に強い重みを感じ、振り返ると佐都子が彼女のことを抱きしめていて、そのすぐ近くに黄色いレインコートを着た朝斗が立っていました。

 

ひかりは思います。
びっくりするほどかわいい、美しい子だと。

 

佐都子は何度も気が付けなかったことを泣いて謝り、朝斗にひかりこそが広島のお母ちゃんだと教えます。
そこで初めてひかりと朝斗の目が合い、その目が輝きます。

 

ひかりの悲しい決意は溶け、気が付けば大声で泣いていました。
ごめんなさい、ありがとうございます、と。

 

それは、朝斗を栗原夫妻に預けた時に何度も繰り返した言葉でした。

ひかりは、佐都子たちが本当に朝斗を自分の言った通りに育ててくれたのだと実感します。

 

朝斗は興味津々な様子で、でもまだひかりに近づけずにいます。
次第に雨は弱まり、雲の隙間から夕陽が差し込みます。

 

朝斗の澄んだ目には、二人の母親が映っていました。

 

 

最後に

 

いかがでしたでしょうか。
自分が親になったせいもあるかと思いますが、辻村さんと同じ速度で同じ時を生きていることを実感し、今も寄り添っていてくれる存在であることに深く感謝しました。

 

まだ学生の方とは、きっと感じ方は違います。
そんな人たちにとって、辻村さんとの出会いはどのように映るのか。

 

ふとそんなことを考えさせられた作品でした。

 

朝が来る (文春文庫 つ 18-4)

朝が来る (文春文庫 つ 18-4)

 

 

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