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徹底ネタバレ解説!『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』あらすじから結末まで!

ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。 (講談社文庫)

 

地元を飛び出した娘と、残った娘。幼馴染みの二人の人生はもう交わることなどないと思っていた。あの事件が起こるまでは。チエミが母親を殺し、失踪してから半年。みずほの脳裏に浮かんだのはチエミと交わした幼い約束。彼女が逃げ続ける理由が明らかになるとき、全ての娘は救われる。著者の新たな代表作。

【「BOOK」データベースより】

 

新旧どちらの辻村さんも見られる非常に重みのある作品です。

終わりの見えない悲劇の気配が続き、でも最後にほんの少しだけ救われる。

 

扱うテーマは近年の辻村さんらしいですが、そこに描く女性たちの苦悩、これはまさしく昔から変わらずある辻村さんの魅力です。

ファンの方にも、そしてこれから辻村さんの作品を読むという方にもおすすめできる名作です。

 

この記事では、そんな本書の魅力をあらすじや個人的な感想を交えながら書いていきたいと思います。

ネタバレになりますので、未読の方はご注意ください。

 

 

 

 

 

失踪した幼馴染み

 

望月チエミの母親、千草が脇腹を刺され、死んでいるのが自宅で発見され、チエミは通帳などと共に失踪。

地元の幼馴染みで雑誌記者の神宮寺みずほは、そんな彼女の行方を追っていました。

 

みずほは地元の友人に順番に会い、チエミのことについて聞き込みます。

誰もが口を揃えて言うのが、真面目で人見知りで、家族ととても仲が良い。

 

みずほは一度上京し、社会人になってから数年間、地元の山梨に戻り、結婚を機に再び上京していたので、最近のチエミのことはよく知りません。

それでも聞かされる彼女に関する情報はどれも知っているもので、一向に足取りがつかめません。

 

チエミが失踪してからすでに五か月以上が経過し、それでも警察は見つけられないのであれば、みずほ一人で探すというのは無謀というしかありません。

それでも、彼女はチエミを探します。

 

理由の一つに、チエミの元カレである柿島大地の存在がありました。

大地を紹介したのはみずほであり、彼に問題があってチエミが悲しい目に遭うと分かっていたのに、みずほは止めなかった。

 

みずほの頭の中で、チエミとの思い出が蘇ります。

「将来、同じ年の子のお母さんになろうよ」と約束した友達。

 

みずほの両親はとても厳格で、教育と称したその行いはもはや虐待といってもおかしくない内容のものでした。

一方で、そんな事件が起こるとはとても思えなかったチエミと母親。

 

なぜチエミが母親を殺害し、なぜそれは自分と自分の母親ではなかったのか。

みずほは、ずっと自問自答します。

 

 

見えてくる、チエミの顔

 

基本的に会う人誰もがチエミのことを心配していましたが、一方で良くない評判も出てきます。

 

大人しそうに見えて実は見栄っ張りで、物事を自分の都合の良い風に捉えるところがある。

家族と仲が良すぎて、合コンの途中で報告の電話をいれるくらい親離れできていない子ども。

 

また、みずほにも非難が集まります。

今までろくに連絡をとっていなかったくせに、今さら親友面して心配して、本当はこのことを記事にしたいだけなのではないか。

 

それでもみずほは諦めません。

聞き込みで、分かったこともありました。

 

事件当時、チエミは母親を殺害後、家のカード類を持って逃げ、そこから現金を引き出しているが、なぜ暗証番号を知っているのか。

仲が良すぎるチエミの家庭ならあり得るかと気にも留めませんが、どこか引っ掛かります。

 

 

 

天使のベッド

 

チエミの捜索の傍ら、みずほは『天使のベッド』が設置されている高岡育愛病院に取材をします。

天使のベッドとは、何らかの事情で子どもを育てることができない母親が匿名で新生児を預けられる、いわゆる赤ちゃんポストのことです。

 

それが開設して五年、ここにきて閉鎖されるのではと噂が立つようになり、それを聞きに来たのです。

医師の瀬尾と面会し、閉鎖される予定はないといいますが、赤ちゃんを預けた母親への取材は断られてしまいます。

 

しかし、みずほは院長に頼みがあると言い、何かを言ってから病院を後にします。

ここでようやくチエミの元カレである大地と連絡がつき、会うことになります。

 

 

見えてきた動機

 

約二年ぶりに会う大地。

彼は同時期に今の妻と交際していて、チエミの方が浮気相手でした。

 

しかし、彼はそのことについて反省する気などなく、むしろ自分の本性を教えなかったみずほが悪いと嘲笑します。

みずほは怒りを募らせますが、聞きたいことは他にもありました。

 

彼は結婚してからチエミとは会っていないと言っていましたが、みずほは頭を下げます。

大地のようなタイプは、こういったことを武勇伝として話したがると。

 

すると、大地は嬉しそうに話します。

みずほの結婚式のあった三月に会ったといい、それは事件の一ヶ月前でした。

 

そして、性交もしたと。

みずほの中でバラバラだったピースが結びつきます。

 

それと同時に、辛い思いをしていたチエミを、自分の結婚式に招待したこと。

全てではないけれど、自分が彼女の背中を押したのだとみずほは確信しました。

 

 

閉鎖と隠されていた真実

 

チエミの捜索を続ける中で、信じられないニュースを目の当たりにします。

天使のベッドが十一月に閉鎖されるというのです。

 

みずほは慌てて病院に電話しますが、それは事実でした。

そして、このタイミングで事件後、チエミと会ったという彼女の小学校時代の恩師・添田紀美子が天使のベッドのある高岡育愛病院のある富山県の出身だと知り、みずほは知っていることの全てを明かす決心をします。

 

二度目となる紀美子との面会。

会ってすぐ、みずほは言います。

 

先生は、チエミが妊娠していることを知ってるんですね、と。

紀美子は目を見開き、知っていたことは明白でした。

 

そして、チエミが目指していた天使のベッドが閉鎖された今、チエミがどこに向かっているのか教えて欲しいといいます。

みずほがこの発想に至った理由。

 

それは、事件前にチエミから送られてきた『あの約束、覚えてる? 来年の三月までなら大丈夫だよ』というメールでした。

初め、みずほはこの約束を勘違いしていましたが、後に気が付きます。

 

『同じ年の子のお母さんになろうよ』。

昔の約束のことを言っていたのです。

 

メールのあった四月の時点で兆候があったということは、子どもが生まれるのは年内に間違いない。

そして、母親を殺害してしまった今、生まれた子どもを預けられるのは天使のベッドしかないと。

 

紀美子はチエミと会ったあの日のことを語ってくれます。

チエミは母親を殺害したことは伝えず、出産を反対されていることだけを紀美子に伝えていました。

 

紀美子は子どもの父親と一緒に母親と話し合うべきだと説得しましたが、父親が誰なのかは分かりませんでした。

しかし、今のみずほなら分かります。

 

三月にチエミは大地と会って性交をしている。

つまり、父親は大地です。

 

子どもを産むといって聞かなかったチエミは、紀美子に高岡市内にある彼女の実家を貸してほしいとお願いし、紀美子は了承しました。

その後、事件のことを知って何度も実家に戻りましたが、チエミがここに来た形跡はありませんでした。

 

紀美子も、チエミの行方を追っているのです。

また当時、チエミは足に怪我をしていたことが判明します。

 

そして、ここでみずほが高岡育愛病院の院長にお願いした内容が分かります。

チエミのことを伝え、彼女が来たら力になってほしいというもので、確かに天使のベッドはなくなってしまいましたが、今でも来れば全力でサポートすると言ってくれたのでした。

 

 

再会

 

甲府市内を車で走っていると誰かに名前を呼ばれたような気がして見渡すと、母親がこちらに走ってくるのが見えました。

みずほは、母親と決定的に関係がダメになってしまった日のことを思い出します。

 

成人式の日の前日、みずほはタンスから母親が占い師に宛てた手紙を見つけ、読みます。

そこには、娘が幼い時に虐待してしまい、それがどのように記憶されているのか分からなくて困っているということが書かれていて、その占い師は今は感謝の気持ちに変わっていると答えていました。

 

これを見てみずほは、愕然とします。

母親は、自分のしてきたことが虐待だと分かった上でやっていたのだと。

 

それ以来、母親は何も知らずに接していますが、みずほは距離を置くようになっていました。

しかし、今、こうして遠くから見ただけで自分を見つけたところに母親というものを見出し、みずほはチエミを止めるのだと改めて決意し、母親からチエミの父親の連絡先を聞き出します。

 

自分は母親を許していないけれど、それでも一生彼女は母親なんだと自覚し、それと向き合って生きていくことを決めるのでした。

 

 

 

チエミの見てきたもの

 

ここからは視点が変わり、チエミから見た事件当時の様子、その後の生活ぶりが描かれています。

 

母親を殺害後、チエミは血を流しながら高岡市を目指していると、大学生の山田翠と出会い、咄嗟に神宮寺みずほと名乗ってしまいます。

翠は理由も聞かずにチエミを家に泊めてくれ、チエミは居候を始めます。

 

しばらくして天使のベッドを目指していることを伝えると、翠は友人から車を借りてくれて、二人で見に行きます。

『あかちゃんに、なにかをのこしてあげて』というメッセージを読み、チエミは『なにか』を考えます。

 

それから翠が初恋をし、チエミは自分にできるアドバイスをし、信じられないような穏やかな日々を送ります。

しかし、そんな日々も長くは続きません。

 

十一月になり、ガソリンスタンドで医師を名乗る見知らぬ男性に声を掛けられ、神宮寺みずほを知っているかと聞かれます。

この人は、みずほが面会した瀬尾です。

 

チエミは咄嗟に誤魔化しますが、指名手配されているのがバレたのだと思い、これ以上翠に迷惑をかけてはいけないと離れる決意をします。

しかし、そのことを伝えると、翠は『チエミさん!』と本名で読みます。

 

翠は初めからチエミのことを知っていて、それでも匿ってくれたのです。

天使のベッドがないなら、逃げる意味がない、ならうちにいなよ。

 

これに対し、チエミはあえて突き放すように翠の全てをちょうだいといい、翠は答えることができません。

チエミは翠から離れて歩き出すと、誰かに見つけてほしいと逃亡に疲れ果てていました。

 

そして、大地じゃないとダメな理由。

それは彼がみずほの友達だからであることが明かされます。

 

 

結末

 

ようやく明かされる事件当日のこと。

チエミは父親が旅行に出かけている隙を見計らい、母親に妊娠したことを伝え、相手とは結婚できないけど産みたいといいます。

 

しかし、母親は猛反対し、キズモノになった娘を情けなく思い、中絶しなさいと聞く耳を持ちません。

生まれて初めて猛反対されたチエミはショックで泣き、疲れて眠ってしまいます。

 

起きると母親は穏やかないつもの母親に戻っていましたが、考えは変わりませんでした。

チエミは言う事を聞いてはいけないと家を出ていこうとしますが、母親は台所から包丁を持ってくると、産むなら自分を殺していきなさいと体を張ってチエミを止めます。

 

揉み合いになり、包丁がチエミの太ももを傷つけたことで、母親は止まります。

チエミは態勢を崩し、母親が支えようとし、次の瞬間、包丁は母親の脇腹に刺さっていました。

 

チエミは声を上げますが、母親は指紋がつかないよう娘に包丁は触らせず、逃げるよう指示しますが、チエミは思わず包丁を抜いてしまいます。

すると大量の血が流れ、母親は死ぬ直前でした。

 

母親は最後の力を振り絞って産んでもいいといい、カード類を持たせたのでした。

 

場面は変わり、翠の家を出て歩くチエミ。

怪我の後遺症から、引きずるように歩いています。

 

すると自分を呼ぶ声が聞こえ、それはみずほでした。

彼女は真実を知っていました。

 

カードの暗証番号は母親に聞いたこと、逃げるように言ったのも母親だと。

みずほは、チエミと父親と会っていたのです。

 

カードの暗証番号。

ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。

 

それはチエミの誕生日でした。

 

父親は事件の真実を分かっていて、待っているとチエミにいうみずほ。

みずほがチエミのお腹に手を当てると、チエミは『ねぇ、私、何にもない』と口にします。

 

実は事件後、強い覚悟がほしいとチエミは妊娠検査薬を何度も使用しましたが、結果は全て陰性。

下腹部は痛み、血が流れ、流産したことを知ります。

 

それは偶然にも、赤ちゃんがうまく育たなかったみずほと同じ結果でした。

母親が命をかけて時間をくれたのに、自分には産むはずだった子どもはもういなく、何もない。

 

それに対してみずほは、チエミとの約束を話し、チエミはみずほの言葉を思い出します。

小学校の運動会で、チエミの母親が羨ましい、大好きだと言ったことを。

 

みずほのせいで、チエミの覚悟は消え失せ、母親をなくした喪失感から大声で泣き、みずほは彼女を強く抱きしめます。

帰ろう、チエ。

 

チエミは『お母さんに会いたい』とこぼします。

母親にもらった猶予の時間は、朝日の下で溶けていくのでした。

 

 

最後に

 

いかがでしたでしょうか。

最後の後、チエミがどうなったかは分かりません。

 

彼女はみずほのおかげで母親の大切さを思い出し、自分のしたことを後悔するでしょう。

でも、それは決して悲劇ではなく、彼女の身籠った命の未来に繋がる、そんな人生になってくれればと切に願います。

 

ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。 (講談社文庫)

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