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徹底ネタバレ解説!『ツナグ』あらすじから結末まで!

ツナグ (新潮文庫)

 

一生に一度だけ、死者との再会を叶えてくれるという「使者」。突然死したアイドルが心の支えだったOL、年老いた母に癌告知出来なかった頑固な息子、親友に抱いた嫉妬心に苛まれる女子高生、失踪した婚約者を待ち続ける会社員…ツナグの仲介のもと再会した生者と死者。それぞれの想いをかかえた一夜の邂逅は、何をもたらすのだろうか。心の隅々に染み入る感動の連作長編小説。

【「BOOK」データベースより】

 

2012年度で一番読まれた新潮文庫であり、辻村さんの名前をより一層世間に知らしめた名作でもあります。

『生』と『死』という難しいテーマをかかげ、使者(ツナグ)を通じて読者に自分ならどうするかと問いかけてきます。

 

ファンタジー要素が含まれているにもかかわらず、そこは話の肝ではなく、生者、そして死者の心情が深く心に届くところに感心させられました。

これから辻村さんを知ったきっかけになった作品を聞いた場合、この作品が挙げられることが多くなるかもしれません。

 

この記事では、そんな本書の魅力をあらすじや個人的な感想を交えながら書いていきたいと思います。

ネタバレになりますので、未読の方はご注意ください。

 

 

 

 

 

アイドルの心得

 

この物語の主人公は、地味なOLの平瀬愛美。

彼女はある思いを秘め、人と会います。

 

指定された病院の中庭にやってきたのは高校生くらいの男の子で、彼は自分が使者(ツナグ)だといいます。

使者とは死んだ人間と生きた人間を会わせる窓口のような役割を持つ人のことで、愛美はネットで知り合った人を辿ってようやく彼に行き着きました。

 

都市伝説だと思っていたのに、使者は本当に実在した。

愛美はなかなか目の前の少年が使者だと信じられませんが、彼はかまわず古びたノートを見ながらルールを説明します。

 

使者は生者から依頼を受け、会いたい対象となった死者と交渉し、面会する意思があるのかどうかを確認する。

原理は教えられないが、死者は面会の時だけ実体を持ち、話すことも触れることもできる。

 

愛美が会いたいと願うのは、水城サヲリという女優でした。

元売れっ子キャバ嬢という経歴から芸能界を駆け上がり、急性心不全で三十八歳という若さでこの世を去った人物。

 

愛美はサヲリの単なるファンに過ぎませんが、それでも面会を望んでいました。

しかし、使者からさらなるルールを言い渡されます。

 

一人の死者に対して、会うことが出来る人間は一人だけで、生者もまた一生で会える死者は一人だけ。

もし死者が会いたい人物がいれば、唯一の機会をつぶされたくないと面会を拒絶される可能性もある。

 

ただし、死者から生者に会いたいと使者を経由して依頼することはできないため、死者はひたすら待つほかにない。

もし会うことが出来たら、会えるのは一晩の間だけで、基本的には夜の長い満月の日を選ぶ。

 

サヲリほどの女優であれば、すでに大勢の人間が面会を望み、もう会っているかもしれない。

それでも会いたいという意思だけでも伝えようと思い、愛美は使者に依頼します。

 

後日、返事がくるということで、この日はこれで別れます。

愛美は、実は一度だけサヲリに会ったことがありました。

 

会社の飲み会で飲み潰れ、同僚に置いていかれて一人で路上でうずくまっていると、一人の女性が声を掛けてきます。

それがサヲリでした。

 

サヲリは過呼吸を起こした愛美を介抱し、世の中は不公平で当たり前、酒は飲んでも飲まれるなと言い残し、その場を去ります。

サヲリからはバラのような香りがして、愛美は帰り道、サヲリが使用しているという香水を買って帰りました。

 

それからことあるごとにファンレターや手作りのお菓子などを送りましたが、当然、彼女から返事はありませんでした。

そんな状況だったため、愛美はサヲリに会えるなどど思っていませんでしたが、ある日、使者から電話があり、サヲリは愛美に会ってくれるのだといいます。

 

愛美はサヲリとの面会場所になる高級ホテルに行くと、使者からは部屋の鍵を渡され、一人で会いに行くことになります。

ドアを開けると、そこには死んでいるとは思えない、生前と変わりないサヲリが座っていました。

 

サヲリは愛美のことを平ちゃんと呼び、自分が死んだことをいまいち実感できていませんでした。

そこで愛美は持ってきた週刊誌などを見せ、サヲリは死んでも悲しんでくれる人が大勢いたことを喜びます。

 

愛美は面会したのが自分で申し訳ないと謝罪しますが、残念ながら使者にサヲリとの面会を申し出たのは愛美だけでした。

たとえ女優だとしても、その程度だとサヲリは気にしていません。

 

愛美は四年前に助けてもらったことのお礼を言いますが、サヲリは覚えていませんでした。

それでも愛美がたくさんの手紙やプレゼントを送ってくれていたことは知っていて、愛美に手紙の返事を伝えるために面会してくれました。

 

送られてきた手紙には愛美が死にたいということが書かれていて、大金がかかるかもしれない使者にお願いするということは、もう何も惜しくないのだと嫌な予感がして、会いに来てくれたのです。

サヲリは来ちゃダメ、こっちは暗いと言い、それだけを伝えたかったのだといいます。

 

それから愛美とサヲリは夜が明けるまで話し、気が付いた時にはサヲリはいなくなっていました。

ロビーに行くと使者が待っていて、感想を求められます。

 

愛美は「アイドルって、すごい」と口にし、サヲリが明るい場所に行ったのだと信じるのでした。

 

 

 

長男の心得

 

この物語の主人公は、畠田靖彦。

亡くなった彼の母親は、約二十年前に使者を通じて亡くなった父親と会っていて、長男である靖彦にだけ使者の連絡先を残していました。

 

今回、畠田家が所有する山を売りたいが、その権利書が見当たらないため、母親に会いたいのだと使者にお願いする靖彦。

現れたのが高校生くらいの青年だったため怪しみますが、返事を待つことにします。

 

翌週、母親の三回忌で集まる親戚一堂。

母親から跡取り、長男として厳しくしつけられた靖彦は他人の良いところを認めることができず、息子の太一や弟の久仁彦、その娘の美奈に厳しくあたってしまいます。

 

一方で、母親の病名を亡くなる間際まで自分、久仁彦、妻の祥子だけの秘密にしていたため、太一や親戚から責められ、そのことを今でも気にしていました。

そんな時、使者から連絡が入り、母親は会ってくれるといいます。

 

そして指定の日、ホテルの指定された部屋にいくと、そこには着物を着た、入院前の姿をした母親がいました。

母親を前にしても素直になれない靖彦ですが、口が悪いが優しいと見抜かれ、少しずつ会話を重ねます。

 

まだ事情を伝えたわけでもないのに、母親は山の権利書の場所を伝え、それが今回の目的でないことも見抜いていました。

実は靖彦は場所を知っていて、そもそも山を売るつもりなどなかったのです。

 

彼の目的、それは母親が自分の病名を知っていたかどうかを聞くことでした。

聞かれた母親は言葉を失います。

 

久仁彦の反対を押し切り、本人や親族に告知しないことを決めたのは靖彦です。

理由は、長男だから。

 

しかし、太一たちにそのことを責められ、もし母親が知っていれば、それ相応の過ごし方があったのではないかと後悔していたのです。

教えなかったことを謝り、許してもらい、叱ってほしかったのです。

 

しかし、母親は涙を流し、あんたは口は悪いし頑固だけど優しいと言います。

そして、幸せな人生を送れたと言います。

 

靖彦は、太一は頼りないと心配していましたが、母親は靖彦とは違うけど自分や祥子に似た自慢の孫だと褒めてくれます。

また母親は、父親と会った理由は教えてくれませんが、人の親ならいずれ分かると言い残し、消えました。

 

一階のロビーに行くと、使者が待っています。

感想を求められ、本物だと騙されそうになったとつい憎まれ口を叩いてしまいますが、自分の工務店の名刺を渡し、何かあったら頼ってほしいと感謝の気持ちも見せます。

 

それから数年後。

ようやく靖彦にも母親が父親に会った理由が分かりました。

 

お店を継いだ太一が結婚することになり、部屋の整理をしていたところ、古い日記帳を見つけます。

そこには、当時二歳の太一を会わせることができて本当に良かったと書いてありました。

 

急に使者への依頼を思い立った理由。

それは畠田家の跡を継ぐ、靖彦の長男に会わせたかったからです。

 

母親は生前、太一に使者のことを教えるか迷っていました。

あれは、太一は二歳頃に一度父親に会っているため、もうその機会がないのではと思ったからでした。

 

靖彦は父親が太一の小さな頭を撫でる姿を思い浮かべ、自分もいつかそうなるだろうかと、将来の自分に思いを馳せるのでした。

 

 

親友の心得

 

この物語の主人公は、高校生の嵐美砂。

彼女は親友で、先日事故で亡くなった御園奈津の会いたいと願っていました。

 

ここからは回想。

御園は同学年のアユミという少年のことが好きで、ジュンヤワタナベのコートがかっこいいと教えてくれますが、嵐は彼にもファッションにも特段興味はありませんでした。

 

二人は高校の演劇部で出会い、御園は嵐のわがままを許してくれ、いつでも嵐を立てる子でした。

そんな御園が命を落とすことになったきっかけとして、通学途中に近道として利用していた道の途中にある『水飲み場』と呼んでいた一軒家があります。

 

夏の厳しい練習の最中に二人はそこでこっそり水を飲んだことがあり、それ以降、そう呼んでいます。

二年の秋口、水飲み場の水道の蛇口が緩んで水がアルファルトを濡らしていたことがあり、坂道だから濡れて危険だということは二人とも認識していました。

 

しかし、そんなこともすぐ忘れ、秋、年明けの公演の配役を決めることになり、『鹿鳴館』の朝子役に嵐だけでなく御園も立候補し、嵐は驚きます。

自分に敵うと思っているのかと、面白くありません。

 

御園は嵐とライバルになることが気まずいともらす一方、嵐がいない時に周囲に『わたしには、敵わないよ』と言っているのを聞いてしまい、今までの友情はなんだったのかと欺かれた気持ちになります。

だから嵐は御園を全力で潰そうとオーディションに臨みますが、選ばれたのは御園でした。

 

御園さえいなければ、自分が主役だったはずなのに。

そう思った嵐は、御園が怪我をしないかと願い、寒い十二月に入ると、あの水飲み場のことを思い出します。

 

嵐は学校の帰り道、水飲み場の前を通りかかると、ほんの軽い気持ちで蛇口をひねり、水を出したままその場を後にします。

誰かに見られている気がしたし、御園に見られたら一発で真意がバレることが分かっていて、でも凍るわけない、家の人が蛇口を締めてくれると自分に言い聞かせます。

 

しかし翌朝、御園はその坂の途中で自転車ごと滑り落ち、下の道で車に衝突して亡くなりました。

自転車のブレーキが問題だと言われていますが、御園は病院に運ばれるまでの間に『嵐、どうして』と口にしていて、本当は道が凍っていたせいかもしれないと嵐は考えていました。

 

もしかしたら、あの時の視線は御園のもので、見られていたのかもしれない。

全てをはっきりさせるために、嵐は前に御園から聞いた使者の話を思い出し、依頼します。

 

すると、指定された場所に現れたのは、同じ学年の渋谷歩美でした。

嵐は前に御園に教えてもらった通りに彼のコートを褒め、それから御園に会いたいことを伝えます。

 

彼女は会いたい理由は親友だからとしましたが、本当はそうではありません。

使者を通じ、御園が誰かに自分が亡くなった原因を話す機会を潰すために、彼女は世界一気まずい親友と会うことを決めたのです。

 

後日、御園が会ってくれると歩美から連絡が入り、嵐は指定されたホテルで御園に会います。

御園は使者が歩美であったことに興奮していて、嵐が彼と話したことを羨ましそうにします。

 

二人は気まずいことなどなかったように話し、御園はBL本や同人誌の混ざった漫画本を親に内緒で処分してほしいといい、嵐は何だか拍子抜けして了承します。

そのまま事故のことは謝らずに、最後に歩美に伝言ある?と聞くよう伝え、嵐はその場を後にします。

 

少し時間を残して歩美のもとに戻った嵐。

嵐は御園に言われた通り、伝言があるかを聞きます。

 

すると、歩美は『道は凍ってなかったよ』と伝え、嵐は凍り付きます。

歩美はおそらく意味は分かっておらず、御園から伝えられたままに話したのでしょう。

 

御園は、嵐がわざと蛇口を開けて水を出していたのを知っていたのです。

しかし事故当日、周囲の証言から水は出ていなかったことが分かりました。

 

ところが、御園はそのことを知らないため、嵐のせいで自分が死んだと思うはず。

嵐はその誤解を解きたくて、気まずくても今日、ここに来ました。

 

しかし、先ほどの会話を思い出して、真実に至ります。

御園は自分であの夜、蛇口を締めた。でなければ、怖くて自転車で坂を下るなどできないはず。

 

そして、嵐とこの話題を話すのが気まずくて、歩美を通じて彼女にそのことを伝えた。

それが彼女の優しさなのか、それとも嵐を糾弾したくて言ったのか、もはや誰にも分かりません。

 

彼女たちは心の内を明かす機会を失い、もう親友に戻ることはないのです。

以前、御園が言った『私には、敵わない』。あれは『わたし』ではなく、『あらし』だと周囲の人間は言っていました。

 

嵐はずっと自分が見たいようにしか周りを見ない子供で、せっかく御園がくれた親友に戻れるチャンスも自ら潰してしまったのです。

そうであれば、御園が会いたかったのは自分ではなく、歩美であるはずなのに。

 

嵐は自分のしてしまったことを誰にともなく謝り、せめて御園が安らかな場所に行けるよう祈るのでした。

 

 

 

待ち人の心得

 

この物語の主人公は、土谷功一。

彼は七年前に失踪してしまった婚約者・日向キラリ(ひむかいきらり)を忘れられずにいました。

 

土谷がキラリと出会ったのは九年前。

会社の同期で親友の大橋に誘われた合コンの帰り、繁華街でボストンバッグを持って佇むキラリを見つけます。

 

その時、彼女は体勢を崩して立て看板に額からぶつかり、血を流してしまいます。

土谷は駆け寄って看病し、救急車に引き渡すはずでした。

 

ところがキラリからついてきてほしいと言われ、土谷は病院まで付き添います。

そこで連絡先を交換し、後日、キラリに誘われて食事に行きます。

 

彼女は二十歳で、東京で職を見つけるために埼玉から上京してきたのだといいます。

それからも二人の交流は続きますが、キラリはほとんどをお金を持っておらず、映画館にあるポップコーンを本当においしそうに食べるなど純粋なところがあり、土谷は惹かれていきます。

 

そこで二人は一緒に暮らすことになり、大橋夫妻にも紹介し、幸せな時を過ごします。

ところが七年前、土谷がプロポーズした後に友人と旅行に行くと言って出ていき、それきり帰ってきませんでした。

 

大橋にいくら言われてもキラリのことを忘れられない土谷ですが、ある日、過労で通院している病院の中庭で一人の老婆に出会い、使者のことを教えてもらいます。

土谷はにわかに信じられない話だと思いましたが、どうしてもキラリに会いたくて使者に依頼し、歩美と会います。

 

土谷はキラリが失踪中で生死は分からないこと、残されていた実家の住所はデタラメで名前すらデタラメかもしれないことも含めて事情を話し、返事を待ちます。

後日、キラリは会ってくれると歩美から連絡がきます。つまり、キラリはすでにこの世にいないのです。

 

彼女の本名は鍬本輝子といい、七年前、乗っていたフェリーが事故に遭って亡くなっていました。

土谷は当日、キラリに会おうと指定されたホテルに向かいますが、途中で会ってしまったらキラリの死を認めてしまうと怖くなり、近くに喫茶店に逃げ込みます。

 

しかし、歩美が彼を見つけ、キラリが待っていることを伝え、会わないと後悔すること、キラリも迷っていたけれど土谷と会うことを決心したことを教えます。

その言葉に土谷は勇気づけられ、キラリと対面します。

 

そこで土谷は、本当のことを教えてもらいます。

出会った当時、キラリは本当は十七歳で、思い付きで実家のある熊本から家出して、土谷に本当に惚れていました。

 

彼女がフェリーに乗った理由。

それは仲違いした両親と話し、土谷と会わせる準備をするためでした。

 

土谷は何もしてあげられなかったと後悔していましたが、そんなことはありません。

キラリは土谷といられて本当に幸せだったのです。

 

忘れてほしくなくて会うのを躊躇したけれど、七年待っていてくれたことを聞けたから十分。

もう待たなくていいと言います。

 

そして最後に、備え付けのクローゼットの底が二重になっていて、そこにあるクッキーの缶に大事なものを入れてあるから、両親に郵送してほしいとお願いし、彼女はいなくなりました。

土谷は歩美に何度もお礼を言うと、後日、クッキーの缶を見つけます。

 

中から色々なものが出てきますが、土谷が一番驚いたもの、それは映画館で食べたポップコーンのカップでした。

キラリが感激したあの言葉は嘘ではなく、こうして大事なものとして保管されていたのです。

 

土谷はこの缶を自分の手でキラリの両親に返しに行くことを決めます。

キラリのことを伝えられるのは、自分しかいないから。

 

 

使者の心得

 

歩美がいつも待ち合わせ場所に指定する病院。

そこに祖母が入院していて、彼は頻繁にお見舞いに来ていました。

 

ある日、祖母は歩美に仕事を引き継いでほしいと頼み、それが使者の仕事でした。

元々は占いなどで生計を立てている大叔父の秋山家の仕事でしたが、今は祖母が引き継いでいました。

 

にわかには信じられない話でしたが、歩美は引き継ぐことを決め、祖母と一緒に使者の仕事をすることになります。

渡された古びたノートには使者のことがびっしりと書かれていて、また引き継ぐと祖母は使者の力を失ってしまう前に、会いたい人がいたらその前に言うよう言われます。

 

歩美が会いたい人。

それは十一年前父親に殺害された母親、もしくは母親を殺害した父親でした。

 

両親のことはあまりよく覚えていませんでしたが、仲は良かったはずで、そうなった理由はいまだに分かりません。

そして歩美は叔父に引き取られました。

 

ここから歩美は使者の仕事を手伝うことになりますが、初めての依頼者は本書の冒頭に登場する平瀬愛美です。

歩美がノートを見ながら話していたのは内容をまだ把握していなかったからで、病院の中庭を待ち合わせ場所に指定したのは、病室が祖母がその様子を観察できるようにするためでした。

 

死者との交渉は祖母がするものの、依頼人と死者の思いを通じて歩美は次第に使者の心得というものを身に付けていきます。

最初は死者と本当に会えたことに驚く歩美ですが、嵐の一件で心を大きく揺さぶられます。

 

知り合いということもそうですが、会って後悔に縛られてしまうこともあるということを知ります。

また御園と会った時、彼女がコートを褒めてくれて、嵐も同じことを言っていたことを伝えると、御園の表情が消えます。

 

歩美にはその理由が分かりませんでしたが、負の感情が込められていることだけは分かります。

御園は自分が死んだ後も、さも自分の言葉のように御園の言葉を使う嵐のことが気に食わなかったのでしょう。

 

そこで御園は嵐と胸の内を打ち明けることを諦め、歩美に伝言を託したのです。

歩美はこの一件で、使者の仕事の難しさを知りますが、後日、嵐の演劇を見て気持ちが変わります。

 

あんな結末を迎えても、嵐の中にはずっと御園の姿があって、彼女によって嵐は舞台に立つことができる。

それは他の人も同じで、胸の中に死者が生き続けるのだと。

 

そして次の土谷の依頼からは、死者に依頼するところも祖母と一緒に行います。

死者を呼び出すアイテムとして教えられたのが、手のひら大の青銅の鏡でした。

 

使者はこの鏡を使って死者を呼び出すが、それは所有者にのみ許されたことで、力を引き渡す時、新しい死者は鏡と契約を結ぶ。

そして、その時から古い契約者は使者としての資格を失う。

 

さらに契約者を失って新しい死者が鏡と契約を結ばないと、使者の力が途切れてしまう。

また所有者以外の人間が鏡を覗き込むと、見た人間と所有者の両方が死んでしまう。

 

そこまで教えられ、土谷の会いたいという日向キラリを呼び出します。

すると発光する蛍のような光が集まり、やがて女性の姿が現れます。

 

本名ではなかったため時間がかかってしまいましたが、無事に呼び出すことが出来ました。

しかし、歩美はそれは死者の魂ではなく、まるでこの世に残ったかつて彼女だったものと感じるのでした。

 

土谷の依頼を終え、病院の中庭を散歩する歩美と祖母。

歩美は祖母の意図に気が付きます。

 

祖母が歩美に死者を引き継ごうと思った理由。

それは、親のいない歩美を使者にすることで秋山家の一員にして、何かあれば助けてもらえる状況にするためでした。

 

そして、古びたノートを見て気が付きます。

祖母が一度、父親に同じ理由で使者の力を譲り、母親が鏡を見てしまったために二人は亡くなってしまったのです。

 

つまり、事件ではなく事故でした。

祖母は当時、すぐに事態に気が付き、使者の力を取り戻しました。

 

それ以降、母親にも使者のことを教えなかったことを後悔し、そうしていたら浮気を疑われることもなかったと考えていました。

しかし、歩美の考えは違います。

 

父親はちゃんと母親に使者のことを話していた。

ただし、鏡をのぞいたら死ぬという恐怖を与えないために、そのことだけは内緒にして。

 

そして、母親は父親の代わりに鏡を使って、父親の会いたい人と会わせようとした。

だから二人は死んでしまった。

 

祖母は自分が勘違いしていたことを知り、涙を流します。

歩美は決心します。

 

会うなら、祖母がいい。

次の人に力を譲り、その人に会わせてもらうから今はいい、と。

 

これまでの経験を踏まえ、歩美は使者の力を引き継ぐことを決意し、引き継ぎの儀式を行うのでした。

 

 

最後に

 

いかがでしたでしょうか。

依頼人と使者、それぞれの視点から見てようやく完結される物語。

 

初めの印象が、歩美の視点を通して変わるのが面白く、また生死についての考え方がとても素敵でした。

特に嵐と御園について、後悔が残っても意味があるのだと教えてくれました。

 

辻村さんの新しい名刺代わりとなる本書。

ぜひ読んでみてください。

 

ツナグ (新潮文庫)

ツナグ (新潮文庫)

 

 

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