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徹底ネタバレ解説!『山女日記』あらすじから結末まで!

山女日記 (幻冬舎文庫)

 

こんなはずでなかった結婚。捨て去れない華やいだ過去。拭いきれない姉への劣等感。夫から切り出された別離。いつの間にか心が離れた恋人。…真面目に、正直に、懸命に生きてきた。なのに、なぜ?誰にも言えない思いを抱え、山を登る彼女たちは、やがて自分なりの小さな光を見いだしていく。新しい景色が背中を押してくれる、感動の連作長篇。

【「BOOK」データベースより】

 

様々な事情を抱えて山に登る女性たちを描く物語で、国内外の山が登場します。

また主人公の違う短編が集まっているように見えて、別の話にもその人物が登場するので長編にも感じられ、次は誰が出るのだろうと楽しく読むことができます。

 

この記事では、そんな本書の魅力をあらすじや個人的な感想を交えながら書いていきたいと思います。

ネタバレになりますので、未読の方はご注意ください。

 

 

 

 

 

タイトルの意味

 

タイトルにある『山女日記』。

これは作中に登場するウェブサイトの名前です。

 

ここには山好きの女性、通称・山ガールが集い、山に関する情報を交換したり、悩み相談をすることができます。

登場人物たちは年齢、住んでる場所こそ違いますが、『山女日記』というサイトを通じて繋がっていて、それが本書の各物語を繋いでくれています。

 

 

妙高山

 

この物語の主人公は、来月三十歳になる江藤律子。

彼女は丸福デパートに勤務し、一つ年上で小さい頃から登山が趣味だという牧野しのぶの提案で、同期の梅本舞子、芝田由美と一緒に新潟県にある妙高山、火打山に登ることになります。

 

ところが、当日になって熱を出して舞子が来れなくなってしまい、仕方なく由美と二人で行くことに。

しっかりした律子と何事にもルーズな由美はあまり相性が良くなく、これまでは舞子が間を取り持ってうまくやってきましたが、今回の登山はそういうわけにはいきません。

 

おまけに由美は上司である元原部長と不倫をして、本人は気が付かれていないと思っていますが、律子はそれに気が付いていて、彼女のことを軽蔑しています。

しかし、そんな状況でも律子が山に登る理由、それはこの旅が終わるまでに恋人の野村堅太郎と結婚するか決めたかったからです。

 

同じ職場で知り合った堅太郎とは式場の仮予約まで済ませていましたが、彼の両親に挨拶に行くなり、いずれ同居することを母親から言われ、帰りに律子は堅太郎を問い詰めます。

しかし彼は悪びれる様子はなく、律子は堅太郎のことが信じられませんでした。

 

人生は長いし、こんな気持ちを抱えて結婚することはない。

相手は堅太郎でなくてもいいはずだ。

 

そんな気持ちを抱えながら登山は始まります。

ところが考え事以前に、由美は登山にふさわしくない恰好で現れ、猛毒のあるトリカブトにも平気で触ろうとするなどいちいち律子を苛立たせ、来なければ良かったと何度も後悔します。

 

やがて由美が不倫していることを知っているとカミングアウトし、気まずい雰囲気になりますが、その上で彼女は自分の気持ちを伝え、律子もまた自分が本当に結婚したいのかどうか考えます。

そして、ついに頂上に辿り着きます。

 

頂上では行きのバスで乗り合わせたおばちゃんたちが先に着いていて、二人にコーヒーを勧めてくれます。

由美も持ってきたお菓子を出し、雄大な風景を前に律子は贅沢な気分に浸ります。

 

どこがゴールなのか、何がゴールなのかは分からない。

けれど、結婚するかどうかはゴールではないと思い直し、これから下山する間にも結婚のことを考えるのでしょう。

 

 

火打山

 

この物語の主人公は、西山美津子。

彼女はバブル全盛期、田舎から上京して大手証券会社の事務職につきますが、そこでバブル特有の身だしなみ、振る舞いを強要され、後に会社は倒産。

 

現在は田舎に戻り、職安で見つけた老人ホームの事務につき、月給が手取りで 十二万。

しかし、周囲からはバブルから抜け出せていない女として認識されていて、彼女はそれが不満でなりませんでした。

 

それなりにモテていた美津子ですが、四十歳になるとお見合いもぷつりとなくなり、婚活パーティーで相手を探すことになり、そこで神崎秀則と出会います。

美津子は彼に誘われ、自分が山岳部に在籍していたことは内緒にして火打山に登山にきていました。

 

登山で器用に立ち振る舞う神崎に安心する一方で、彼もまた美津子にバブルの影を見出していて、それがいちいちひっかかります。

途中で前章の『妙高山』に出てきた律子、由美とも出会いますが、彼女たちからも高級志向そうだと言われます。

 

途中、なぜ山に誘ったのかと聞く美津子。

彼女の読みでは、普段はあまり冴えない神崎も、山では男らしいところを見せられるから、その姿を自分に見せたいのではないかと思っていました。

 

ところが、彼の答えは違います。

神崎が美津子の誕生日プレゼントに登山用の靴を選んでいる時、美津子には意外と山が似合うのではないかと感じ取っていたのです。

 

美津子は自分の隙間からもれる本当の自分に気が付いてくれたことを嬉しく思い、ついに神崎に本当のことを伝えます。

かつて山岳部に所属していて、今はもうバブルの頃ような贅沢は出来ない、ただの庶民的な女なのだと。

 

すると、神崎もまた派手で綺麗な美津子に嫌われないよう無理していたことを告白し、かつて美津子が登った山に自分も一緒に登っていいかと聞きます。

二人は本当の姿をさらけ出し、前に進むことを決めたのです。

 

遅れて律子、由美が頂上に到着すると、日本海側に向かって思いの丈を叫びます。

 

律子は同居は嫌であること、結婚してやると。

由美は部長のバカ、離婚しろと。

 

それを見ていた美津子は過去を脱ぎ捨てる覚悟が決まり、二人に倣って何かを叫ぶのでした。

 

 

 

槍ヶ岳

 

物語の主人公は、牧野しのぶ。

彼女は律子たちの職場の一つ上の先輩で、幼い頃から父親に登山を教えられ、大学では山岳部に所属していました。

 

ところが、部員の誰かがこれ以上進めなければ下山を余儀なくされる集団行動に嫌気が差し、退部。

また社会人になってから父親と槍ヶ岳に登りましたが、父親のアクシデントのせいで頂上には到達できず。

 

これでしのぶは以後、一人で山に登ることを心に決め、槍ヶ岳に三度目の挑戦します。

ところが、道中、宿泊しているホテルで知り合ったのだという本郷という男性、木村という女性と出会い、ひょんなことから一緒に頂上を目指すことになります。

 

ところが、木村は初心者であり、だんだんと二人より遅れ始めますが、夫を見返すのだと言っても聞かず、しのぶは苛立ちを募らせます。

アドバイスをしても、最新の知識や道具は軟弱だと受け入れてもらえず、何度も一緒に行動していることを後悔します。

 

しかし、途中で本郷と話が合い、それは父親が幼い頃に自分に教えてくれていたおかげだということに気が付き、余裕のなさが未熟な証拠なのだと気が付きます。

誰もが初めは初心者であり、初めから上手くいく人なんていません。

 

三人は協力してなんとか槍の肩に到達すると、本郷から君のおかげだと感謝され、今度は家族みんなで登りたいと思うようにまでなります。

 しかし、それでも山頂には一人で登りたいと、しのぶは本郷たちと別れ、一人山頂を目指すのでした。

 

 

利尻山

 

この物語の主人公は、宮川希美。

彼女は一度は東京に出るも、親の面倒を見るために田舎に戻り、畑仕事のかたわら翻訳家としての仕事も細々としていました。

 

そんな彼女には美幸という姉がいて、今は医者の夫と結婚して性を天野に変え、七花という娘と三人で暮らしていました。

美幸は父親の年金で暮らしている希美を軽蔑している節があり、希美もそのことに気が付いているので、姉妹仲はあまりいいとはいえません。

 

ところが、美幸から二人で旅行に行かないかと話を持ち掛けられ、なぜか利尻山に登ることになります。

希美は、美幸が自分に人生を見つめ直すよう説得するために山に連れてきたのだと考えていて、いつ話を切り出されるのかと身構えます。

 

しかし、美幸はそんな話はせずに、希美の帽子を褒めてくれます。

それは希美の大学時代の友人、立花柚月が手作りした帽子で大人気、今では注文しても半年から一年は待たないといけないのだといいます。

 

さらに登ると美幸 はついに将来のことを聞いてきたので、つい希美はムキになってしまいますが、美幸が希美を誘ったのには別の理由がありました。

彼女には考えたいことがあって、一緒にいてラクな相手を想像した時に、希美しかいないと思ったのです。

 

美幸の考えていること。

それは夫に離婚しようと言われ、これからどうするかを考えていたのです。

 

美幸が詳しいことを話してくれないまま、祠が見えて二人は一気に登り切ります。

その頃にはわだかまりが消え、仲良しとは言えないけれど、普通の姉妹の姿がそこにはありました。

 

「晴れた日は誰と一緒でも楽しいんだよね。でも……」

 

美幸はその先を言いませんが、希美には分かっています。

雨が降っても一緒にいたいと思える人であることを、彼女は誇りに思うのです。

 

 

白馬岳

 

この物語の主人公は、天野美幸。

『利尻山』から二か月後、今度は希美に加えて娘の七花を連れ、三人で山登りに訪れていました。

 

美幸は娘が成長しているのを嬉しく思い、何より山を楽しんでくれていることを喜んでいました。

一方で、はしゃぐ希美と七花の姿を視界に入れながらも、頭の中では離婚のことを考えていました。

 

美幸は真面目な性格ゆえに、自分の気持ちを殺してでも七花にベストな選択をとりたいと決めていました。

ところが、次第に疲労は蓄積し、考え事どころではありません。

 

希美と七花についていくだけで精一杯であり、経験者としての知識など何の役にも立ちません。

ここに希美がいてくれていることを深く感謝します。

 

途中、七花は携帯電話で山の景色を撮影すると、すぐに夫にメールで送ります。

離婚を知らない七花にとって、この美しい景色を父親と共有したいのです。

 

先に進むと風が強くなり、危うく七花が飛ばされかけます。

美幸はロープと自分と七花の体を結んで先に進みますが、体力ももう限界。

 

ついに七花のペースについていけなくなり、足が止まってしまいます。

すると七花は自分がママを引っ張ってあげると言い出し、美幸が何かに悩んでいることに気が付いている様子。

 

それでも娘に負担をかけられないと強情を張る美幸ですが、たまらず希美が思っていることをぶちまけます。

すると今度は七花が美幸の味方となり、希美と口喧嘩します。

 

ここにきてようやく七花が守られるだけの存在ではなくなったのだと理解した美幸は、七花に引っ張ってもらい、頂上を目指します。

すると、夫からまずそうに焼けた目玉焼きの写真が送られてきて、返事の代わりに目の前を歩く七花の写真を撮ります。

 

自分を引っ張りながら歩く娘のたくましい姿を。 

 

 

 

金時山

 

この物語の主人公は、律子と由美の職場の同期である梅本舞子。

彼女は妙高山の登山以来、自分なしでも律子と由美がうまくやっていることにモヤモヤしていました。

 

また、舞子は日本一の響きから富士山に登りたいと思っていましたが、登山から帰ってきた二人から富士山はつまらなそうと否定され、恋人の小野大輔の前でつい愚痴ってしまいます。

すると大輔は一緒に行こうと言ってくれますが、今回は富士山の予行練習ということで別の山に登ろうと提案してきます。

 

名前は内緒。

けれど、富士山と縁がある。

 

舞子は少しがっかりしながらも、大輔と一緒に箱根に向かいます。

大輔の言っていた山は金時山といい、偶然にも舞子は小学生の時、『金太郎のキンちゃん』というあだ名で呼ばれていました。

 

大輔に気を遣われながら山を登る舞子ですが、高校時代はバレーボールに打ち込んでいて体力には自信があったため、むしろ余裕すぎるほどでした。

金時山はあまり標高は高くなく、自分の望んでいた登山はこれではないと、舞子は内心がっかりします。

 

山頂に着くと、少しのあいだ目を瞑ってほしいと言われ、舞子は大輔の誘導に従って移動します。

そして目を開けた先、そこには美しい富士山の姿がありました。

 

金時山は、富士山のベストスポットとしても有名だったのです。

そして、食事をとりながら大輔は言います。

 

舞子は数字にばかり囚われていて、それでは富士山の本当の魅力には気が付けない。

それに数字に踊らされるほど馬鹿馬鹿しいことはないと言い、舞子がこれまで踏み込めなかった自分の過去を明かしてくれます。

 

今でこそバイトを掛け持ちながら劇団員をしている大輔ですが、かつては大手証券会社に勤めていました。

ところが、数字の桁を一つ間違えたことで会社に大損失を与えてしまい、依頼退社扱いのクビ。

 

それでも頭の中から数字が離れず、息苦しい日々を送っていました。

そんな大輔を救ってくれたのが、演劇だったのです。

 

これまで嘘をついていたことを謝まる大輔ですが、舞子は彼の言葉に感銘を受け、自分の生き方を見つめ直します。

なりたい自分を思い描く、まずはそこから始めよう。

 

あれだけ富士山にこだわっていたのが嘘みたいに、舞子にとって最高の登山デビューになったのでした。

 

 

トンガリロ

 

この物語の主人公は、希美の友人で帽子を製作している立花柚月。

彼女にはかつて吉田という恋人がいて、彼女の職場が海外ということもあってニュージーランドで合流し、トンガリロでトレッキングします。

 

自由奔放な吉田に呆れることもありましたが、トンガリロの火口を一緒に眺め、美しい景色を共有する。

誰よりも吉田と分かり合えていると思っていました。

 

そこで彼は今の会社を辞め、国際ボランティアに応募し、発展途上国で働きたいことを打ち明けます。

柚月は彼の意見を肯定し、応援するつもりでした。

 

ところが、一年後に帰国しても吉田はまだ会社を辞めていませんでした。

一方、柚月は帽子作りを本格的に勉強したいと思い、帽子作りの専門学校に通うことを吉田に報告します。

 

しかし、吉田にはそれがただの逃避にしか映らず、その後、彼の口からは聞きたくない言葉が次々に出てきて、二人は破局。

そして十五年後、その思いに決着をつけたくて、柚月は一人でトンガリロ・クロッシングのツアーに申し込みます。

 

すると、ツアーに参加した面々に、これまでの物語に登場した人物が多く登場します。

神崎と美津子はあの後結婚していて、夫婦で参加していました。

 

またしのぶ、そして大学の山岳部の友人である太田永久子も参加していました。

柚月は参加者がそれぞれ旅を満喫する姿を目の当たりにしながら、吉田との思い出をなぞっていきます。

 

美津子は柚月の作ったワインレッドの帽子をかぶっていて、途中で柚月が製作者であることに気が付き、実際に自分の帽子をかぶっているお客さんに会った柚月はうまく反応できませんでした。

しかし、自分の帽子で喜んでくれる人を目の当たりにし、自分の選択は間違っていなかったのだと胸を熱くします。

 

一行はエメラルド・レイクに到着。

すると、美津子はあることに気が付きます。

 

自分のかぶっている帽子はレッド・クレーターと同じ色で、柚月のかぶっている帽子はこのエメラルド・レイクと同じ色をしている。

だから、柚月は前にもここに来たことがあるのではないか、と。

 

それに対して柚月は、ここは自分の原点であり、この旅は再確認なんだと話します。

永久子は帰ったら柚月に帽子を注文すると言うと、しのぶは自分からのプレゼントにしたいと言い、これから一緒に登山はできなくなるかもしれないけれど、渡す帽子にいろんなところを見せてあげてほしいと口にします。

 

そこで柚月は、自分の作った帽子は自分の知らない景色を見ることができ、誰かの自由な時間に寄り添えることに気が付き、そろそろ新しい景色を切り取りに行こうと、過去の思いに決着をつけ、前に向かって進みだすのでした。

 

 

カラフェスに行こう

 

この物語の主人公は、希美。

結局姉の美幸は離婚を回避し、家族三人の幸せな時間を過ごしています。

 

一方、希美はあの後も何回か一人で山に登りますが、孤独での登山を楽しむことが出来ず、仲間が欲しいと思いました。

すると『山女日記』にクマゴロウという二十代の女性が希美と同じような悩みを打ち明けているのを見つけます。

 

すると山フェスに参加してはどうか?という書きこみがあり、希美もヤマケイ涸沢フェスティバル、通称カラフェスに参加することを決めます。

仲間を作ろうと勇気を振り絞って声を掛けますが、なかなかうまくいかず、希美は意気消沈してしまいます。

 

すると今度は女性に声を掛けられ、初フェスであることを伝えると、その女性もまた初フェスでした。

年下にも関わらず、話せば話すほど気の合う女性に心を許した希美が名前を聞くと、彼女こそがクマゴロウ、本名・熊田結衣だったのです。

 

すっかり意気投合した希美と結衣は一緒に北穂高を登り、希美は結衣が気持ちのいい『空気』の人だと確信し、彼女とまた山に登りたいと思います。

そして一年後、再び希美は結衣と再会し、今度は槍ヶ岳を目指すのでした。

 

 

最後に

 

いかがでしたでしょうか。

山登りへの憧れが募るのはもちろんですが、山頂に行き着くまでに変化する心の動きがとても見事に描かれていて、とても晴れ晴れとした気持ちになりました。

 

僕も一緒にいたいと思う誰かと山に登りたい。

そう思わされる素晴らしい作品でした。

 

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山女日記 (幻冬舎文庫)

山女日記 (幻冬舎文庫)