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徹底ネタバレ解説!『ユートピア』あらすじから結末まで!

ユートピア (集英社文庫)

 

【第29回 山本周五郎賞受賞作】

善意は、悪意より恐ろしい。

足の不自由な小学生・久美香の存在をきっかけに、母親たちがボランティア基金「クララの翼」を設立。
しかし些細な価値観のズレから連帯が軋みはじめ、やがて不穏な事件が姿を表わす――。
湊かなえが放つ、心理サスペンスの決定版。

地方の商店街に古くから続く仏具店の嫁・菜々子と、夫の転勤がきっかけで社宅住まいをしている妻・光稀、移住してきた陶芸家・すみれ。
美しい海辺の町で、立場の違う3人の女性たちが出会う。
「誰かのために役に立ちたい」という思いを抱え、それぞれの理想郷を探すが――。

【Amazon内容紹介より】

 

湊さんの描くユートピアと聞いて、ユートピアなはずないと思って読むと、予想通りというか、予想以上の壮絶なユートピアが描かれていました。

初期作品に通じる物語全体を覆う不気味な予感、そして最後の告白。

 

この記事ではそんな本書の魅力について、あらすじや個人的な感想を交えながら書いていきたいと思います。

ネタバレになりますので、未読の方はご注意下さい。

 

 

 

 

 

構成

 

本書は、主要な三人の女性の視点から語られるパート、インタビューの誌面、誰かのする噂話が絶妙に混ぜ合わさって構成されています。

そのため平穏な日常の裏では不穏な影が蠢いているなど、物語に緩急が出来て目が離せない仕上がりになっています。

 

 

お祭りの復活

 

舞台となるのは人口七千人、太平洋を望む港町、鼻崎町です。

町としては小さいですが、日本有数の食品会社、八海水産、通称ハッスイの国内最大工場を有しています。

 

堂場菜々子はこの町の出身で、一度は町を出ますが、同じ町出身でハッスイで働く修一と結婚し、再びこの町に戻ります。

菜々子は義父の重雄を亡くし、義母の道子が五年前に失踪したため彼らの残した仏具店を切り盛りしなければならず、また七歳の娘・久美香は交通事故に遭い、車イスでの生活を余儀なくされていました。

 

鼻崎町では十五年ぶりに商店街祭りが復活することになり、菜々子実行委員に選ばれます。

久美香のこともあって断ろうとしますが、今回のお祭りは商店街に若い人たちを呼び込むことを目的とした新しいイベントであり、菜々子のような若い人が適任なのだと押しきられてしまいます。

 

菜々子にとってはストレスでしありませんが、義母から教えてもらった花のモチーフをひたすら編んで心を鎮め、実行委員の定例会に出席します。

実行委員は菜々子含めて男女三人ずつの計六人ですが、半分以上が鼻崎町出身の人ではありません。

 

いかにも田舎に憧れる都会の人という雰囲気に菜々子は違和感を感じますが、そこで菜々子は星川すみれと相場光稀と出会います。

光稀の娘は久美香と同じ小学校に通う四年生の彩也子で、それがきっかけで二人は仲良くなります。

 

すみれは祭りの提案者。

全体の代表は宮原健吾という男性で、『はなカフェ』と隣の雑貨店『はな工房』のオーナーで、すみれのパートナーなのだといいます。

 

菜々子は自分に務まるか不安でしたが、すでにほとんど決まっていて、すみれの進行表に従えば良いだけなので安心します。

一方すみれは、『岬タウン』という海が見渡せる高台の区画に住み、鼻崎町こそユートピアだと感じていました。

 

ハッスイで働く学生時代からの恋人である健吾に誘われてここに移り住み、周囲にはここの良さが分かるアーティストしか住んでいない。

彼女は自分の芸術を理解してくれない人から逃げ、自分の手で鼻崎町の良さを広めるのだと自分に酔っていました。

 

光稀に関して、彼女は夫の明仁がハッスイに勤めていることから社宅に住み、そこの仲間で『プティ・アンジェラ』という雑貨とリサイクルの店を開き、今年で二周年を迎えます。

しかし、かつてのメンバーがいなくなっては新しく人が入り、価値観の違いなどから次第に光稀はここに残り続けたことを後悔するようになりました。

 

 

 

火災

 

お祭り当日、菜々子が久美香を連れて光稀のお店を訪れ、彩也子は久美香の車イスを押して無料の料理が振る舞われる食堂に向かいます。

菜々子、すみれ、光稀の胸中に複雑な思いがありながらもお祭りは順調に進みますが、突然、火事だ!という声が聞こえます。

 

菜々子は久美香のことが真っ先に思い浮かび走り出しますが、不幸なことに出火場所は久美香たちが向かった食堂でした。

菜々子が到着した頃には消化されていて、食堂に入ると消火器をかかえたすみれがいました。

 

原因は天ぷら油への引火でした。

 

すみれが言うには傷の手当てのために『はなカフェ』にいると教えられ、向かうと久美香がいました。

ケガをしている様子はありませんが、一緒にいた彩也子は救急車で運ばれたのだといい、菜々子は事情を聞きます。

 

光稀は菜々子よりも先に駆け付けていて、その時には彩也子は額と両足から血を流していました。

久美香をおんぶして避難している最中に転んでしまったのだといいます。

 

結果として彩也子の額にはツキノワグマのような傷が残ってしまいました。

 

 

クララの翼の設立

 

お祭り後、火災の鎮火に貢献したとは思えない人が表彰され、光稀は彩也子のことを思って腹立たしい気持ちでいましたが、新聞に彩也子が国語の授業で書いた『翼をください』という作文が掲載されているのを見つけます。

そこには久美香がが歩けないことが書かれていて、人間には片方だけの翼があり、仲良く手を取り合うことで飛べるのだとまとめられていました。

 

光稀は彩也子を褒め、周囲からも称賛されます。

一方、菜々子と光稀はすみれに誘われ、ランチを一緒にとることに。

 

そこですみれは新聞で彩也子の作文を見つけ、ぜひ自分のウェブサイトに掲載させてもらえないかと二人に相談します。

さらに彩也子と久美香の写真も載せたいといい、すみれは二人を利用して自分の商品をより広めようと考えていました。

 

しかし、菜々子と光稀は渋り、すみれは無遠慮にその理由を聞きます。

すると五年前、鼻崎町の岬タウンで殺人事件が起き、犯人はまだ捕まっていないのだと打ち明けられます。

 

売名行為のために曰く付きの場所に住んでいるのではないか。

そんな誤解を受け、そこに彩也子と久美香の写真を掲載するなんてとんでもないと二人は考えたのです。

 

すると彩也子が載せてほしいと光稀を説得し、さらに菜々子を説得してこの話は了承され、彩也子の作文と二人の写真がすみれのウェブサイトに掲載されます。

するとあっという間にこの話は広がり、光稀のつてのおかげで雑誌などにも取り上げられます。

 

次第に目的は久美香のような車イスで生活する人たちへの支援へと変わり、三人は『クララの翼』を設立し、売り上げの一部を支援団体に寄付することに決めました。

全てが順調にいったように見えましたが、クララの翼が原因となり、様々な噂が飛び交うようになります。

 

 

 

クララの翼が全国に広まる一方で、菜々子は今更になってネットに久美香の情報が拡散されることのリスクを理解し、この活動から離れたいことを伝えます。

そんなことなどお構いなしにすみれはテレビ取材を受けますが、今度は彩也子の額の傷が目立つせいでクララの翼のコンセプトがぶれるという理由で出演を断られ、光稀は憤慨します。

 

すみれはいちどは断ると言いますが、結局目先の利益にとらわれ、一人でテレビに出演します。

しかし、これらの活動が岬タウンの住人からは偽善行為だと陰口をたたかれ、ストレスをためていきます。

 

そのことを菜々子に相談すると、編み物を編むと良いと教わり、健吾の前であの花のモチーフを編んでストレスを発散するのでした。

しかし、今度は高校で美術を教える岬タウンの仲間・サブローから女子高生たちの交わす噂を聞き、すみれは驚愕します。

 

一方、菜々子のもとに健吾が訪れ、絵のモデルになってほしいと頼まれ、それを断ります。

 

 

クララの翼の解散

 

菜々子の仏具店に深刻な顔をしたすみれと光稀が訪れ、大事な話があると菜々子を連れ出します。

二人は、実は久美香が歩けて、同情を引くためにそれを隠しているのではと考えていましたが、菜々子はきっぱりとそれを否定します。

 

なぜこんなことを聞くのかというと、火事の時、食堂にいた女子高生たちが、立ち上がる久美香を見たのだといいます。

すると菜々子の口から久美香が歩けないのは心因性の原因だと明かされ、二人はどうして言わなかったのかと苛立ちます。

 

しかし時すでに遅し。

ネット上にも久美香が歩いていたという書き込みがされてしまうのでした。

 

さらに小学校でも久美香が実は歩けるのではないかという疑惑が上がっていて、このままではクララの翼は詐欺団体になってしまいます。

三人それぞれ、これからのクララの翼の運営について考えます。

 

一方、断ったにもかかわらず健吾はまたしても絵のモデルの話を菜々子に持ち掛けてきます。

さらに義母の失踪についてもしつこく聞いてきて、菜々子には意味が分かりません。

 

彼が言うには、岬タウンで殺人を犯した芝田という男の目撃情報が上がったのだといいます。

普通であれば犯行現場に戻ってくることなどあり得ませんが、芝田は奪った金を現場近くに埋めていて、それを掘り起こしに来たのだと噂されていました。

 

健吾は気にしないでと立ち去りますが、菜々子は改めて事件と義母の失踪の関連性を考えるのでした。

 

光稀は彩也子から火事の時の状況を聞き、久美香が立ったというのは見間違いだと感じました。

しかし、このままでは誤解が続くと感じ、すみれにクララの翼を解散しようと提案します。

 

しかし、ここで実はすみれは売り上げをどこにも寄付していないことが判明し、光稀は怒って解散して寄付しようと宣言し、すみれも従わざるをえませんでした。

 

 

 

誘拐と二度目の火災

 

すみれは光稀に言われた通り、寄付をしてクララの翼を解散させますが、誹謗中傷は止まらず、中には彩也子、光稀へのものを多くあります。

光稀は自分たちが何をしたのだと悩みますが、お店で働く同僚に思わず励まされ、地元民かどうかなど小さいことでこだわっていた自分を馬鹿らしく感じました。

 

それで持ち直し、クララの翼がなくなっても菜々子と久美香との交流を続けたいと思う光稀。

そんな時、夫の明仁から話があると言われ、最近のすれ違いから離婚を言い渡されるのだと覚悟します。

 

光稀は彩也子のことを菜々子にお願いし、仕事が終わると自宅に戻りますが、その時、菜々子から電話が入り、久美香と彩也子が帰ってこないのだと言います。

彩也子は放課後、久美香を連れて図書館に寄ることになっていましたが、菜々子が迎えに行くと、二人は図書館には来ていませんでした。

 

菜々子が自宅に戻ると、FAXが届き、それは脅迫状でした。

二人は預かった、返して欲しければ金を持って鼻崎灯台に来い、警察には知らせるなというものでした。

 

光稀と明仁も合流し、三人は金額が書いていないことに気がつきます。

すると菜々子は、金とはお金のことではなく、金(きん)のことではないかと言い出します。

 

彼女には思い当たる節がありました。

この家には、金があるのです。

 

すると奥から夫の修一が現れ、指名手配を受けている芝田が残した金を持っていることをあっさりと明かします。

小さいものですが、それでも百万円単位の価値があることが推測されました。

 

それは失踪した義母が残したものなのだといいます。

義母が本当の犯人ではないかという意見も出ますが、今は久美香たちの安全が最優先だと切り替え、どうするかを考えます。

 

一方、すみれは東京で行われた友人の結婚式に出席していました。

そこで大学時代の友人であり、そのビジュアルもあって芸術家として有名になった小梅と再会し、軽井沢に建てた工房を引き受けてくれないかと打診を受けます。

 

その時、岬タウンの仲間から連絡が入り、すみれの工房が燃えていることを聞かされ、すみれは急いで鼻崎町に戻ります。

一方、菜々子たちも火事のことを聞きつけ、久美香たちがいるのではと四人で現場に向かいます。

 

人だかりを掻き分けて現場に近づくと、久美香の声が聞こえ、菜々子と光稀は燃えているすみれの工房に近づきます。

すると、家の裏手から彩也子と久美香が現れるのでした。

 

火は消えますが、肝心の犯人は分からず、また健吾が行方不明になっているとが判明しました。

 

 

結末と真実

 

明仁が光稀に伝えようしていたこと。

それはベトナムに転勤になったことでした。

 

明仁は二人のことを考え、離婚して自由に暮らしてほしいと言いますが、光稀は強くそれを拒否します。

彼女はこの数ヶ月で本当に必要なものに気が付いたのでした。

 

次はすみれについて。

放火のあとで健吾が失踪したことで、彼女は健吾の行方について執拗に聞かれます。

 

しかも焼けた家の地面から芝田の死体が見つかり、五年前に起きた殺人事件の共犯者は健吾だったのではというのが警察の見方でした。

警察にはある手紙が届き、それは五年前に殺害された男性と駆け落ちするはずだった女性からの匿名のものでした。

 

女性が待ち合わせ場所に行くと、殺害された男性と二人の男性が口論しているのを聞き、二人が駆け落ちするはずだった男性を殺害したことを知ります。

彼女は恐怖から逃げ出し、後日、芝田がテレビで指名手配されるのを見て安心し、忘れるよう努めました。

 

しかし、すみれの工房の火事のニュースでもう一人の男、健吾の顔写真が報道されていることに驚き、今度こそは勇気を出さなければいけないと思い立ち手紙を書いたのでした。

さらに手紙が嘘ではないと証明するために、駆け落ち前に持たされたという金のプレートが添えられていました。

 

すみれは最初、カフェと工房を立て直そうと考えますが、岬タウン全員の家が被害者から奪った金で建てられた家なのではと誹謗中傷され、小梅の所有する軽井沢の工房に逃げることを決めます。

これがダメ押しとなり、岬タウンの仲間からは二度と帰ってくるなと言い渡されるのでした。

 

次に菜々子。

火事の日、久美香が一人で歩くのを目撃します。

 

警察から彩也子と久美香がなぜ現場にいたのかを聞かれると、彩也子が事情を説明します。

あの日、健吾に絵のモデルを依頼され、彼の工房に行ったのだといいます。

 

途中まで健吾は一緒にいましたが、はなカフェに用事があるといい、二人に待っているよう言って出ていきます。

しかし、健吾は帰ってこず、気が付くと焦げ臭いにおいが漂い、窯が破裂した音が聞こえて初めて火災を知ったのだといいます。

 

避難をしようにも車イスは玄関に置いてあり、彩也子は久美香をおぶって家の裏手から逃げますが、途中で岩に足をとられてひねってしまい、どうしようもなくなって助けを呼ぼうと叫んだのだといいます。

さらに母親たちの声が聞こえると、久美香は自分で立ち上がり、二人は手を繋いで歩いたのだといいます。

 

菜々子たちもこの件について聞かれますが、光稀と相談し、子供たちのことを考えて脅迫状のことは黙っていました。

菜々子にとって、これがきっかけで久美香が歩けたのだから良かったと、そう思うことにしました。

 

しかし、その二週間後、焼け跡から芝田の白骨死体が見つかり、警察からは届いた手紙が義母の筆跡かどうか確認してほしいと言われます。

その筆跡には見覚えがあり、金が同封されていたことで確信します。

 

ここからは菜々子の推測になりますが、義母はかなりの財産を持って、今もどこかで生きている。

そして、寝たきりの義父を残していくのを後ろめたく思ったから、金を残していったのだろうと。

 

それから健吾について、彼は芝田の死体を隠し、金を盗んだ人物を探すために岬タウンに家を建てたのです。

そこにすみれが菜々子から教わった花のモチーフを見せ、義母が目撃現場から逃げる際に落としたストールを思い出したのです。

 

そこで健吾はかまをかけるために久美香たちを誘拐したのです。

菜々子は再び健吾が金を盗みにくる不安を感じましたが、それよりも彼がもう戻ってこない予感を強く感じ、今の幸せを享受するのでした。

 

事件から三ヶ月後、光稀がベトナムに行ってしまう前に三人はもう一度会い、それ以降はもう二度と会わないのでしょう。

そして、菜々子は改めて自分の現在の状況を振り返り、ユートピアを一番求めているのは自分なのではないかと思うのでした。

 

しかし、実はまだ隠された真実があります。

それを知っているのは彩也子でした。

 

彩也子と久美香が知り合った頃にはすでに久美香は歩くことが出来て、食堂の家事の時に少し歩いてしまったのです。

さらに久美香が歩けることを健吾に見抜かれ、三人は誘拐を計画し、逃げ出す時に久美香が歩けるところを披露しようと考えました。

 

健吾はこの計画を利用し、金を回収しようとしたのです。

しかし、健吾が脅迫状を出そうと家を空けた時、彩也子はマッチが使えるようになったことを久美香に見せようとし、誤って家に火をつけてしまったのです。

 

これは彩也子の日記帳に書かれていて、彼女はおでこの傷がなくなるまで、友情の証として内緒にしようと心に決めるのでした。

 

 

最後に

 

いかがでしたでしょうか。

オチであるマッチによる放火についてはちょっと無理があると思いましたが、久しぶりに表面上は穏やかに、でも実際はドロドロとした人間の内面を楽しむことが出来ました。

 

初心者の方にも、それから湊さんの作品が好きな方にもおすすめです。

 

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