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『ちょっと一杯のはずだったのに』ネタバレ解説 志駕晃【著】

ちょっと一杯のはずだったのに (宝島社文庫 「このミス」大賞シリーズ)

 

秋葉原FMの人気パーソナリティの西園寺沙也加が殺された。彼女に最後に会ったのは、ラジオディレクターで沙也加の恋人でもある矢嶋直弥だった。死体の首には、矢嶋が沙也加から貰ったものと同じネクタイが巻かれており、警察は矢嶋を疑う。矢嶋は否定するも、泥酔して記憶がない。さらに殺害トリックを暴けない警察からは「お前が作った密室現場の謎を解け!」と迫られ…。

【「BOOK」データベースより】

 

2018年11月に北川景子さん主演で映画化されることが決まった『スマホを落としただけなのに』の作者・志駕晃さんの作品です。

ちょっと一杯と言いますが、泥酔して記憶を無くすほど飲み、気が付いたら恋人が殺害されていて、その容疑者として主人公の名前が挙がってしまい、何とか事件を解決しようと試みるという内容です。

 

先日、ドラマ化された『がん消滅の罠 完全寛解の謎』もそうですが、宝島社文庫のミステリーはエンタメ性に振り切れていて、個人的にはとても好きです。

ご都合主義な部分も多々ありますが、非常にテンポが良く、まるで二時間ドラマを見ているような感覚で読むことが出来ます。

 

この記事では、そんな本作の魅力をあらすじや個人的な感想を交えながら書いていきたいと思います。

ネタバレになりますので、未読の方はご注意ください。

 

 

 

 

 

泥酔している間に事件は起きていた

 

ある日、ラジオ局のディレクターである矢嶋直弥は番組スタッフとの飲み会で飲みすぎてしまい、気が付くと自宅で寝ていました。

スマホには上司の石丸編成部長と恋人であり矢嶋の担当番組のパーソナリティである漫画家・西園寺沙也加、本名・西山沙綾からの着信が残っています。

 

沙也加からは大事な話があると言われ、その日に向かいましたが、泥酔していたためこれでは話にならないと言われた記憶がかすかにあります。

大事な話とは生理が遅れていることだと思っている矢嶋は、売れっ子で忙しいから仕方ないとあまり気に留めていませんでした。

 

ところが番組のオンエア当日、沙也加がラジオ局に現れません。

これ自体はよくあることだったため、矢嶋はラジオ局のある秋葉原に住む沙也加のマンションまで迎えに行きます。

 

管理人の森と共に部屋に行きますが、何度呼びかけても応答がなく、寝ているものと思った矢嶋は、森に鍵を開けてもらい中に入ります。

しかし、そこで二人が見たのは下半身のみ下着を着けた沙也加の死体でした。

 

首には見覚えのある黄色いネクタイが巻き付けられていて、他殺だと思われます。

もはやラジオどころではなく、二人は警察を呼んで捜査が始まります。

 

捜査一課の瀬口、加藤が調べた結果、鍵は二本とも部屋の中にあり、にも関わらず玄関も窓も全て閉められている。

それはつまり、密室であることを示しています。

 

発見者である矢嶋は二人から取り調べを受けますが、状況はかなり不利でした。

二人の間には男女関係があり、矢嶋はプロポーズを断られています。

 

また沙也加の死体には争った形跡がないことから親しい人間の犯行であり、マンション住民にはそういった関係の人物はいない。

さらに凶器として使われたネクタイは、矢嶋が沙也加からプレゼントされたものにそっくりで、矢嶋が自宅をいくら探してもそのネクタイは見つかりません。

 

証拠が揃いすぎていることだけが疑問ではありますが、瀬口たちは矢嶋が酔っ払った拍子に犯行に及んだと考えていました。

 

 

漫画家・西園寺沙也加の正体

 

一方、沙也加不在の番組をどうしようかと考える石丸と矢嶋のもとに、沙也加から遺言の録音されたCDを預かっているという手塚という弁護士が現れ、その内容は番組内でオンエアされます。

そこでは、沙也加ががんに罹っていたが手術をして回復し、また西園寺沙也加というペンネームは、沙綾と妹・瑠加の二人で名乗っていた名前であることが告白されています。

 

瑠加はオンエア当日、ラジオ局で立ち合いますが、失語症であることが判明し、漫画は瑠加一人で続けても、ラジオは継続できそうにありません。

また瑠加の存在を知っている人物はほとんどなく、その一人が担当編集者である井沢でした。

 

手塚の話によると、一年前にすでに沙也加から遺言を預かってしましたが、最近になって同様の内容のCDを渡され、メッセージの後にハングル語のようなノイズが入っていましたが、誰にも内容は分かりません。

 

 

 

物的証拠

 

瀬口はあまりに状況証拠が揃いすぎていることに疑問を感じていましたが、現時点で矢嶋以外に犯人は考えられず、ネクタイのDNA検査を行います。

すると見事に矢嶋のDNAが検出され、ますます矢嶋の犯行である証拠が増えてしまいます。

 

最初は犯行を否定していた矢嶋でしたが、だんだんと自分に自信がなくなり、心が折れそうになります。

一方、監視カメラの映像から犯行の翌日であれば井沢、瑠加、石丸がそれぞれ沙也加の部屋を訪れたことが判明しますが、死亡推定時刻から考えても彼らの犯行とは考えられません。

 

すると、ここで矢嶋はネクタイについてあることを思い出します。

それはとある飲み会に着けていった日を境に見なくなったということです。

 

他の関係者に確認したところ、確かに矢嶋がそのネクタイをしていて、さらに外したことは確認できましたが、誰が持って帰ったかまでは確認がとれず、普通に考えれば矢嶋が持って帰ったと思うのが自然です。

どうあがいても矢嶋の犯行であることを否定する材料は出てこず、瀬口たちは逮捕状を請求するためにこれまでの調書にサインさせようとします。

 

矢嶋はサインしかけますが、寸前のところで鍵の謎について話し始めます。

部屋は密室であり、矢嶋の沙也加の部屋の鍵を持っていないため犯行に及ぶことはできません。

 

これには瀬口たちも反論できず、ならば沙也加の死体を発見した時に部屋に投げ入れたのだと主張しますが、矢嶋はきっぱりと否定します。

犯人を特定するためには、どうしても密室の謎を解く必要がありました。

 

 

関係者からの事情聴取

 

瀬口たちは事件の翌日に沙也加の部屋を訪れた石丸、井沢、瑠加、それから弁護士である手塚、管理人の森に対して事情聴取を行いますが、多少不自然な行動があるとはいえ、全員にアリバイがあり、一向に犯人が見えてきません。

矢嶋が不利なままです。

 

そんな時、彼の力になったのが弁護士の手塚でした。

 

 

弁護士・手塚の推理

 

手塚はミステリーが好きで、好奇心からこの事件を調べます。

彼いわく、いくら酔っているとはいえ普段の行動から逸脱した行動はとれないといい、矢嶋のことを擁護します。

 

しかし、考えているだけでは埒が明かず、矢嶋と手塚は犯行の行われた沙也加の部屋に向かいます。

すでに立ち入り禁止は解除されていて、二人は中に入ります。

 

真面目かと思えばふざけたことも言う手塚に対して矢嶋は不安を覚えますが、当の手塚はなんと密室の謎を解いたのだと言います。

しかし、それだけでは犯人が特定できないということで、二人はあるアイディアを実行に移すことにします。

 

 

真相

 

調査に進展が見られず、再度矢島の逮捕状を請求しようとする瀬口たち。

すると、そこに一本の電話が入り、相手は西園寺沙也加を名乗り、犯人が分かったから明日の一時に事件現場に来るよう指示し、電話は終わります。

 

茫然とする瀬口。

死んだはずの沙也加がどうして?

 

生死は不明ですが、何か事件の糸口になるかもしれない。

瀬口は加藤を連れて翌日の一時に現場に向かいます。

 

すると瑠加が待っていて、瀬口は実は瑠加が話すことが出来て、瑠加が電話をかけてきたのだと考えました。

しかし、瑠加も同様に呼び出された一人であり、後から森、石丸、井沢も集まります。

 

約束の一時になりました。

すると、部屋の固定電話が鳴り、加藤が代表してとります。

 

スピーカーに切り替えるよう指示され、言われた通りにして、電話の声が全員に届きます。

相手はまたしても沙也加であり、真犯人が分からない一同に代わって自分が突き止めるのだといいます。

 

一同が混乱する中、沙也加は床に置かれたお掃除ロボットとヒモが密室を解く鍵だとして、自分の推理を披露します。

そして、部屋を密室にした理由は、アリバイを偽装するためだといいます。

 

さらに死亡推定時刻について、こちらも室内のエアコンを最大に熱くすることで死後硬直などを早め、殺害時刻を 偽装したのだといいます。

ここまで話を聞いたところで、井沢がベランダに飛び出し、向かいのマンションに向かって叫びます。

 

そこには変装した手塚がスマホを片手に立っていました。

彼は助手として、室内の電話にかけてきているのです。

 

しかし、そこに沙也加の姿はありません。

一同はわけが分かりませんが、それでも受話器から沙也加の声が聞こえ、エアコンについての推理を続けます。

 

井沢は推理について反論しますが、沙也加は見事に切り返し、犯人だけしか知らないであろう事実を口にした井沢を逆に追い詰めます。

そう、井沢が沙也加を殺害したのです。

 

その頃、矢嶋はラジオ局でミキシング卓を操作していました。

先日、手塚からもたらされた沙也加の遺言から声をサンプリングし、それを電話口に流していたのです。

 

こうして、事件は無事に解決するのでした。

 

 

結末

 

その後の取り調べで井沢は沙也加殺害を自白します。

井沢は沙也加と男女関係にあったが、矢嶋と付き合うと同時に別れを告げられたのです。

 

すると今度は瑠加と付き合い始めますが、 彼は瑠加の高い才能を見抜いていて、沙也加さえいなくなれば、漫画家・西園寺沙也加を独り占めできると考えたのです。

しかし、沙也加は井沢との交際を反対し、またライバルの漫画出版社に過去の作品を含めた版権を移すことを考えていました。

 

そこで井沢は犯行を決意します。

凶器に使われたネクタイは、沙也加がぞんざいに扱われていたことに腹を立て、飲み会の日に自宅に持ち帰っていたのです。

 

こうして無事に事件は解決されましたが、残された謎がただ一つあります。

それは、沙也加の遺言の最後にあった謎のメッセージです。

 

手塚はこれを逆再生されたものではないかと言い、矢嶋は問題の部分を逆再生します。

そこには、がんが再発してもう助からないかもしれないから、プロポーズは受けられない、再発していなければ受けていたという内容が吹き込まれていました。

 

そして、最高の密室のアイディアを思いついたが、井沢にすでに教えてしまった。

だから、殺されてしまうかもしれない、と本気とも冗談ともつかない口調で残していたのです。

 

つまり矢嶋を言った大事な話とはこのことであり、彼女は自分が残した言葉通りに殺されてしまうのでした。

 

 

最後に

 

いかがでしたでしょうか。

エンターテイメントとして非常に良く出来たミステリーだと思います。

 

読書が苦手な方にも読みやすい内容になっていますので、ぜひ読んでみてください。

 

ちょっと一杯のはずだったのに (宝島社文庫 「このミス」大賞シリーズ)

ちょっと一杯のはずだったのに (宝島社文庫 「このミス」大賞シリーズ)