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徹底ネタバレ解説!『人魚の眠る家』あらすじから結末まで!

人魚の眠る家 (幻冬舎文庫)

 

「娘の小学校受験が終わったら離婚する」。そう約束していた播磨和昌と薫子に突然の悲報が届く。娘がプールで溺れた―。病院で彼等を待っていたのは、“おそらく脳死”という残酷な現実。一旦は受け入れた二人だったが、娘との別れの直前に翻意。医師も驚く方法で娘との生活を続けることを決意する。狂気とも言える薫子の愛に周囲は翻弄されていく。

【「BOOK」データベースより】

 

東野圭吾さんがデビュー30周年を記念して執筆し、2018年11月に篠原涼子さん、西島秀俊さんらによって映画化の決まった作品です。

以前から東野さんの作品は好きでしたが、本書を読んで改めてその魅力に気が付くことが出来ました。

 

よく練られた設定に、洗練されて無駄のない文章。

万人受けというと浅いようなイメージがあるかもしれませんが、東野さんの作品はどんな人も惹きつけ、確かな衝撃を残す作家さんなのだと強く感じました。

 

そして本書では、脳死が疑われる娘に対して母親が出来ることは何か、という非常にデリケートで難しい問題が取り上げられているのですが、これが見事に書き上げられています。

内容については後述しますが、誰にでも勧めたい一冊です。

 

この記事では、本作の魅力をあらすじや個人的な感想を交えながら書いていきたいと思います

ネタバレになりますので、未読の方はご注意ください。

 

 

 

 

 

プロローグとタイトルの意味

 

宗吾は小学校の帰りにとある屋敷を見つけ、帽子が風で飛ばされて中に入ってしまいます。

恐る恐る近づくと、いつも閉ざされている門が開いていて、中に入ります。

 

帽子はすぐに見つかりますが、カーテンが開いた窓から中の様子が見え、いけないことと分かりながらも宗吾は中を覗き込みます。

部屋の中には赤いバラが飾られ、車椅子に乗った同い年くらいの少女が眠っていました。

 

宗吾は屋敷を後にしますが、それ以来少女のことが忘れられず、一度だけわざと紙飛行機を屋敷に飛ばして取りに行きます。

しかし少女はおらず、屋敷を出る時にそこに住む女性と車椅子に乗ったあの少女と出くわします。

 

足が悪いのかと聞くと、女性は否定しつつも車椅子に乗っている理由を教えてくれません。

そして、宗吾が屋敷に行ったのはこれが最後になりました。

 

宗吾はそれ以来、少女のことを思い出すと足がないから歩くことの出来ない人魚を連想するようになります。

屋敷は、人魚の眠る家。

 

以後、エピローグになるまで宗吾は登場しませんが、女性は薫子、車椅子に乗った少女が瑞穂であることはすぐに判明します。

 

 

おそらく脳死

 

播磨という離婚間近の夫婦がいました。

夫の和昌は祖父が創業したハリマテクスの社長として仕事に勤しみ、BMI(ブレーン・マシン・インターフェース)の研究を進めて脳と機械を信号で繋ぎ、人間の生活が大きく改善することを目指しています。

 

一方、妻の薫子は夫の浮気で愛想を尽かし、子供の受験が終わるのを機に離婚することを見据え、別居しています。

しかし、二人の子供を一人で育てることへの不安から眠れなくなり、クリニックで睡眠薬を処方してもらいます。

 

そこで出会ったのが医師の榎田博貴でした。

包容力のある彼に次第に夫との離婚のことを相談するようになり、肉体関係こそないものの、定期的に食事に行き、いつ恋人になってもおかしくない状況にありました。

 

そんな二人に、ある悲劇が襲い掛かります。

長女・瑞穂の受験の面接の予行練習をするためにとある教室を訪れた二人。

 

そこに瑞穂がプールで溺れたという連絡が入り、二人は病院へ向かいます。

病院には薫子の母・千鶴子と妹・美晴がいて、気が動転している千鶴子に代わって美晴が当時の状況を説明してくれます。

 

瑞穂は美晴の娘・若葉と一緒に泳いでいましたが、突然姿が見えなくなり、探したところ、排水溝の網に突っ込んだ指が抜けずに溺れていたのだといいます。

ICUに運び込まれて心臓は動き出しますが、しかしそれだけでは蘇生したとはいえません。

 

長引くことが予想されたため、二人は千鶴子たちを帰し、二人だけで病院に残って瑞穂の無事を祈ります。

夜になって治療が終わり、医師の進藤から瑞穂の容態を聞かされます。

 

明言こそしませんでしたが、脳が大きなダメージを受けていることが予想され、意識が戻らない可能性が高いのだといいます。

これ以上の治療は延命措置でしかないと前置きした上で、進藤がしたのは瑞穂の臓器を移植する意思があるかという話でした。

 

子供の意思表示がない場合、親にその権利があり、断っても一向に構わない。

臓器移植に承諾すれば、二度の脳死判定をして、死亡が確認できれば必要とする子供たちに臓器が移植されるのだといいます。

 

突然のことに言葉が出ず、回答を後日するとして帰宅する二人。

考え抜いた末、優しかった瑞穂ならこうすると考え、二人は臓器移植に同意することを決めます。

 

翌日、親戚一同が瑞穂に別れを告げようと彼女の手に触れた時、かすかに動いたように見えました。

驚く和昌と薫子。

 

薫子はその時、瑞穂が生きていると確信し、治療の継続を望みます。

長男・生人には姉が眠る病気になったのだと嘘をつき、家で介護できるように薫子は母の千鶴子と一緒に介護の練習をします。

 

ある日、瑞穂が倒れて以来、薫子は久しぶりに榎田と会い、全ての事情を話した上で瑞穂のために和昌と離婚しないことを告げます。

それに対し、榎田は彼女の意思を尊重するのでした。

 

 

 

娘を生かす方法

 

薫子と違い、和昌は瑞穂が生きているとは到底思えずにいました。

そんな時、部下の星野祐也から横隔膜ペースメーカーについて教えられます。

 

気管切開して人工呼吸器を装着しなくても、手術によって埋め込めば呼吸することが出来る画期的な機器。

ただ非常に高額であり、意識のない人間に施術しても日常生活が向上するわけではないので意味はないように思えましたが、瑞穂に少しでも可哀想な思いをしてほしくないという一心で手術を決めます。

 

すると手術は無事に成功し、薫子は娘が苦しい思いをしないで済むのだと喜び、介護にさらに力を入れます。

自宅に瑞穂を連れて帰り、その生活にも慣れてきた頃。

 

今度は和昌が自宅に星野を呼び、薫子に対してとある説明をさせます。

それは、脳が機能していなくても脊髄を電気で刺激することによって瑞穂の体を動かすという装置のことでした。

 

色々なデータを見せられ、薫子は瑞穂のために導入を即決します。

体を動かせば、筋肉が鍛えられて体のあらゆる機能が向上するはず。

 

すでに医師からもありえない状況だと言われていますが、薫子はまだまだ満足していません。

瑞穂が目を覚ますその日に向けて、出来ることは何でもやる覚悟でした。

 

星野は恋人の川嶋真緒をほったらかし、週に何回も播磨家を訪れては機器を操作して瑞穂の体を動かします。

社員からは死体を動かしているだけだと批判の声もありましたが、星野は気にしません。

 

薫子の喜ぶ様子に自分が正しいことをしているのだという実感を覚え、また薫子に惹かれていくのでした。

 

 

守りたい世界

 

久しぶりにデートをする星野と真緒ですが、星野は素っ気なく、仕事だと言って早い時間にタクシーで帰ってしまいます。

何かあると思った真緒は別のタクシーで尾行すると、到着したのは播磨家でした。

 

その日は中に入る度胸はありませんでしたが、真緒はそこに星野が守りたい世界があるのではないかと考えました。

そして別の日、仕事の帰りに播磨家を訪れると、偶然薫子と遭遇し、中に通されます。

 

自分が星野の恋人であることを明かすと、星野には内緒とした上で瑞穂のことを紹介し、実際に機器を使用して体を動かして見せる薫子。

驚く真緒ですが、本当の驚きは薫子が席を外したその時でした。

 

機器をいじっていないにも関わらず瑞穂の体が動き、真緒は恐怖のあまりその場から逃げ出してしまいます。

第二の父親として、そして神としてこの家に君臨する星野に耐えられなくなり、別れを切り出すのでした。

 

一方、薫子は真緒に申し訳ないと思いつつも、瑞穂のために星野を手放すわけにはいかないと思うのでした。

 

 

娘と語り合う

 

正式には死亡とされていないため、特別支援学校に入学した瑞穂。

二年生になると、一年生の時の担任・米川に代わって新章房子が定期的に家を訪れ、瑞穂に読み聞かせをしてくれることになりました。

 

薫子は米川の働きぶりを知っているからこそ、この行為に意味があるのかと思っていそうな房子には不信感を抱いていました。

そんなある日、江藤雪乃という少女が移植手術するために必要な資金を募る団体に房子が現れ、活動に参加します。(後に名前を偽った薫子だと判明)

 

薫子は活動に参加する一方で、移植を国内でほとんど行えない法律に異議を申し立て、周囲の人間に問題提起をします。

結局、雪乃は移植する前に亡くなってしまいますが、薫子は雪乃の両親の言葉に胸を打たれ、涙するのでした。

 

その後、房子のもとに団体から連絡が入り、薫子が偽っていたことが発覚しますが、房子はそれを責めません。

薫子に事情を聞くと、瑞穂がああなってしまったから、相手の立場になって物事を考えたいと思い募金活動に参加したのだといいます。

 

しかし、房子はその必要はない、誰に何と言われようと、論理的でなかろうと自分の生きたいように生きれば良いのだと教えてくれます。

また薫子からとてつもなく高い要求をされていることを分かった上で、自分が瑞穂のために出来ることが本の朗読でした。

 

薫子は房子のことを誤解していたことに気が付き、絶対の信頼の元、これからも彼女に本の朗読をお願いするのでした。

 

 

 

娘の生を証明する方法

 

日に日に薫子と星野の行動はエスカレートしていき、和昌は手を引くよう薫子にも星野にも言います。

自分が言い出したにも関わらず、あの日から一歩も前に進んでいないのではという錯覚に陥っていました。

 

和昌は久しぶりに進藤を訪ねて瑞穂の状態について聞きますが、やはり状態は生きる方へ改善しておらず、今でも脳死判定を受ければ脳死が確認できるだろうと言われ、ある決意をします。

一方、薫子の狂気じみた介護に周囲は正気を疑い、それが原因で生人はいじめられそうになり、瑞穂は死んでいることにしていました。

 

美晴や若葉も口には出していませんでしたが、同じ気持ちでした。

そして、それが薫子の知るところとなり、以来疎遠となります。

 

またここで、瑞穂が溺れた原因は、若葉が当時気に入っていた指輪が外れてしまい、それを拾いに行ったことであることが判明します。

そして、物語は終わりに向けて動き出します。

 

生人の誕生日会が行われるということで、自宅に向かった和昌、美晴、若葉、薫子の両親、星野。

しかし、時間になっても生人の友達は現れず、不思議がっていると、生人がそもそも招待していなかったことが判明します。

 

理由を聞くと、死んだも同然の瑞穂を平気な顔で紹介されるのが嫌なのだと話し、薫子は怒って生人の頬をはたきます。

耐えかねた和昌は自分の価値観を押し付けるなと薫子の頬をはたき、進藤から言われたことを告げます。

 

テストを受けていないだけで、瑞穂はすでに死んでいるのだと。

その言葉に薫子はショックを受けますが、すぐにとんでもない行動に出ます。

 

台所から包丁を持ってくると、夫が刃物を振り回していると言って警察を呼んだのです。

警官は到着しますが、実際に包丁を持っているのは薫子で事態が把握できません。

 

そこで薫子は、自分が瑞穂を殺せば殺人罪が適応されるのかと問います。

もし適応されるのであれば、溺れたあの日から今日まで瑞穂は生きていたのだと証明できる。

 

これに対し、誰も答えを出すことが出来ません。

薫子は本当に瑞穂を殺そうとします。

 

その時、若葉は泣きながら瑞穂がこうなった原因が自分に会ったことを告白し、瑞穂を殺さないでと懇願します。

それで気の抜けた薫子は包丁を下ろし、若葉や美晴のことを許すのでした。

 

警察は退散し、薫子はもう来なくて良いと星野に告げます。

そして、生人とも仲直りし、誕生日会の続きを始めるのでした。

 

しかし、瑞穂の話はもう学校でしなくていいと薫子が言うと、瑞穂が寂しげに笑ったように見えたのでした。

 

 

最後の時

 

薫子から離れ、憑き物が落ちたように以前の元気を取り戻した星野。

別れ際に真緒が播磨家を訪れていたことを教えられ、別れを切り出されたことに納得します。

 

そしてようやく真緒の大切さに気が付き、ダメ元で彼女を呼び出します。

すると待ち合わせ場所に彼女は現れ、その顔には笑みが浮かんでいました。

 

一方、瑞穂を連れ出していた薫子は榎田と会うとお互いの近況報告をし、自宅に戻ります。

すると、家の前に宗吾がいて、冒頭に繋がります。

 

しかし、そんな日々も終わりを告げます。

瑞穂が四年生になる三月三十一日、薫子が夜中に目を覚ますと、すぐそばに瑞穂が立っているような感覚がし、別れを告げているようでした。

 

その後、瑞穂の容態は急変し、病院に運び込まれます。

そして、薫子から和昌に対して、臓器移植に同意しようという提案がされます。

 

ようやく瑞穂の死を受け入れることができるようになった薫子。

しかし、死亡時刻は二度目の脳死判定が終わった瞬間という規定がありますが、薫子は瑞穂が自分のところに現れた深夜だと主張します。

 

結局、死亡診断書は規定通りに書かれますが、葬儀の時の命日は薫子の希望通り、三月三十一日となりました。

そして、奇跡的にも瑞穂の臓器に問題はなく、それを必要とする子供たちの体の中で生き続けるのでした。

 

 

エピローグ

 

プロローグで登場した宗吾ですが、彼はあの後に重い心臓の病を発症し、移植を必要としていました。

しかし、国内で移植できる可能性は皆無に等しく、海外で手術を受けるにも莫大な資金が必要になります。

 

そんな時、奇跡的にドナーが見つかり、手術は無事に成功。

もちろん瑞穂が残してくれた心臓です。

 

宗吾はリハビリも終え、初めて瑞穂と出会ってから数年の時を経て、あの屋敷に向かいます。

しかし、そこにもう屋敷はなく、ふっと薔薇の香りを感じます。

 

宗吾は心臓の持ち主のことは知りませんが、きっと深い愛情と薔薇の香りに包まれ、きっと幸せだったのだろうと信じていました。

 

 

最後に

 

いかがでしたでしょうか。

『この世には狂ってでも守らないといけないものがある』という帯の文句に惹かれて手に取りましたが、想像以上の深い愛情に思わず涙してしまいました。

 

読むにつれて薫子の印象が変わり、最後にはこれ以上ない母親だと思えたのは、自分が子供を持つ親だからかもしれません。

何が正しいのかではなく、何がしたいのか。

 

その大切さを教えてくれる、間違いなく名作でした。

 

人魚の眠る家 (幻冬舎文庫)

人魚の眠る家 (幻冬舎文庫)