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『夢の検閲官・魚藍観音記』ネタバレ感想 筒井康隆【著】

夢の検閲官・魚籃観音記 (新潮文庫)

 

女が眠りにつき、夢の法廷が開廷する。入ってくるのは、彼女の安眠を妨げ、悲しませる者たちばかり。検閲官と書記は今夜も苦心する…。やさしさに満ちた感動の名品「夢の検閲官」。孫悟空と観音様が禁断の一線を越える!?究極のポルノ「魚籃観音記」。小説版は文庫初収録となる「12人の浮かれる男」など、夢想の迷宮に読者を捕えて逃さない珠玉の10編。豊饒な小説世界を堪能する傑作短編集。

【「BOOK」データベースより】

 

今さら初めて筒井先生の本を読みました。
短編と思って気軽に読もうと思っていましたが、その作風の幅広さ、そして自由な発想に基づいた文章には本当に驚かされました。

 

空想の世界から始まり、SF、エロス、馬鹿らしいことまで、同じ作者が書いたとは思えないような作品が詰まっていて、これ一つでも筒井康隆という人物がどういった人なのか垣間見えた気がします。
いつもであればあらすじを書きながら感想を書いていくのですが、内容的にどう書いて良いのか困ってしまうものばかりで、困ってしまいました。

 

そこで今回は標題となった『夢の検閲官』『魚藍観音記』についてあらすじや感想を書いていきたいと思います。
ネタバレになりますので、未読の方はご注意ください。

 

 

 

 


『夢の検閲官』


舞台は、とある女性の頭の中
夢を見る時、夢法廷というものが開かれ、検閲官がその人物にとって眠りを妨げるものであれば姿形を歪曲、修正して、眠りを良くするものはより良いイメージのものに変換して夢という舞台に送り出していました。

 

この女性は二ヶ月前に息子を亡くしていて、その悲しみから夢法廷には息子を連想させるものばかりが集まります。
息子が通っていた中学校の校舎であったり、担任の教師だったり、クラスメイトたちだったりです。

 

検閲官はこれを彼女の記憶にあって、かつ息子を連想させないようなものに置き換えて夢に送り出します。
校舎なら故郷の家に作り替え、担任の教師なら名前の同じ叔父を呼びつけ、クラスメイトたちは坊主頭から黒いトウモロコシに変換するといった具合です。

 

そうやって夢を作り上げて彼女の眠りを守る検閲官ですが、最後に息子が登場して頭を悩ませます。
眠りを妨げないという意味ではこのまま夢に出すわけにはいきませんが、本人の苦悩を解消するという役目も夢にはあります。

 

夢に息子が出てくれば女性は起きて泣くかもしれませんが、それがやがて彼女を安らぎに向かわせてくれるかもしれません。
そう考え、検閲官は息子を夢に送り出します。

 

それに対して息子は、通してくれてありがとうとお礼を言うのでした。

 
 


『魚藍観音記』


これを標題に持ってくるあたりに強いこだわりというか、信念を感じました。
冒頭には読みながら手淫(オ○ニー)すれば、結末間近で大きな快楽が得られるという説明書き。この時点で、読者はどういう読み物なのか想像がつくかと思います。

 

物語は西遊記に登場する孫悟空が観音菩薩に頼みをしに行くところから始まるのですが、この観音菩薩、登場時点ですでに裸に近い服装なのです。
悟空はその美しさに劣情を催すもなんとか理性を働かせて我慢しますが、そんなことはとうにお見通しの観音菩薩は彼をそそのかし、性交するに至ります。

 

この描写が細かく、また悟空はじらされ我慢を強いられるので、冒頭のことわり通りに読んでいる読者はその瞬間が今か今かと待つことになります。
そこに猪八戒が現れ、女犯は罪だと悟空を責めますが、逆に観音菩薩から邪魔するなと怒られ、二人の行為を眺めながら何度も絶頂する始末。

 

そうして行為を楽しみ、ついに絶頂を迎えた悟空と観音菩薩。
ここまで我慢のできた読者は、筒井の想定していた大きな快感を得られるはず。

 

しかし、ここで話は終わらず、さらなるオチが。
生も根も尽き果てた様子の悟空に気が付き、猪八戒に問いただす三蔵法師ですが、猪八戒は先ほどまで見ていた光景を事細かに説明するのです。

 

すると、それを聞いていた三蔵法師、沙悟浄は猪八戒と同じく、何度も絶頂を迎えてしまうのです。
しかも悟空を𠮟責するはずの三蔵法師の方が、より多く絶頂してしまう始末。

 

そして最後に、次回作もこれから執筆するから期待していろとまさかの続編の予告。
これに歓喜した読者も少なくないのかもしれません。

 


最後に

 

いかがでしたでしょうか。
本書を読んで思ったのですが、筒井さんは発想だけでなくそれを心行くまで書く信念のある作家のようです。

 

こういった作家に出会うと、自分がいかに固定観念に縛れているのかがよく分かります。
まあ、それが良いのか悪いのかは別にして。


しかし、本書と出会ったことによって、今まで読んだことのないジャンルの本を手にする良いきっかけになったかもしれません。

 

夢の検閲官・魚籃観音記 (新潮文庫)

夢の検閲官・魚籃観音記 (新潮文庫)