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徹底ネタバレ解説!『母性』湊かなえ【著】

母性 (新潮文庫)

 

女子高生が自宅の中庭で倒れているのが発見された。母親は言葉を詰まらせる。「愛能う限り、大切に育ててきた娘がこんなことになるなんて」。世間は騒ぐ。これは事故か、自殺か。…遡ること十一年前の台風の日、彼女たちを包んだ幸福は、突如奪い去られていた。母の手記と娘の回想が交錯し、浮かび上がる真相。これは事故か、それとも―。圧倒的に新しい、「母と娘」を巡る物語。

【「BOOK」データベースより】

 


 

 

タイトル通り、『母性』がテーマに挙げられた作品なのですが、かなり読み進めることが辛い作品でした。
『母性』というと、母として子を慈しむ、そんな風に僕は捉えてきましたが、本作を機に改めて考えさせられました。

 

母性とは、女性の中に元々備わっているのか?
そうでなければ、どのように形成されているのか?

 

それがある事件を通じて、浮かび上がってきます。
すれ違う母娘から導き出された『母性』とは?

 

この記事では、そんな本作の魅力をあらすじや個人的な感想を交えながら書いていきたいと思います。
ネタバレになりますので、未読の方はご注意ください。

 

 

 


事件

 

とある新聞記事。

市内の県立高校に通う十七歳の女子生徒が四階にある自宅から転落して、県営住宅の中庭で倒れているところを母親が発見します。


警察は事故と自殺の両方で原因を詳しく調べているとのこと。

母親は『愛能う限り、大切に育ててきた娘がこんなことになるなんて信じられません』と言葉を詰まらせたという。

 

今朝見たこの記事がひっかかる女性教師は、母性について考え始めます。
すると、同僚の国語教師の前任校が今朝の新聞に載っていた女子高生と同じ学校だったことが判明し、二人は仕事終わりに飲みながら事件について話すことにします。

 

向かった店は女性教師の行きつけだという『りっちゃん』というたこ焼きが売りの飲み屋。
おたふくソースが似合いそうな女店主に出迎えられ、二人は事件について考えてきます。

 

後になって判明しますが、女性教師がこの事件を気にする理由。
それは妊娠中で、母性に関係するこの事件に興味を持ったからです。

 

しかし、この二人のやりとりはわずかであり、物語のほとんどは母親の手記と娘の回想で構成されており、読者はこの二人の心情から事件を考えていくというスタイルになっています。
ところが、ここには大きな仕掛けがあるのですが、これは後述します。

 


夢の家

 

母親の名前は終盤まで出てきませんが、記事を書く都合上、ルミ子と先に出させていただきます。
ルミ子は二十四歳の時、当時通っていた絵画教室で知り合った田所哲史と結婚します。

 

ルミ子からしたら田所の絵は辛気臭いものでしたが、世界で一番愛する母親に見てもらったところ、母親はその絵を絶賛し、それからルミ子の田所の絵の見方が変わります。
ルミ子はその絵を譲ってもらおうと田所に会い、母親の田所の絵に対する感想を少しアレンジして伝えたところ、田所もルミ子に興味を持ち、二人はデートに行くことになります。

 

そして、三度目のデートでプロポーズされます。
ルミ子は即答せず、一度自分の母親に会って、それから決めたいと答えを保留します。

 

唯一、同じ絵画教室に通い、田所の同級生でもある仁美からは結婚を反対されますが、ルミ子は気にも留めませんでした。
そして、田所はルミ子の母親に気に入られ、またルミ子に対して『美しい家を築きたい』と語り、ルミ子は結婚を決意しました。

 

二人の新居は田所の両親が中古の一戸建てを用意してくれ、ルミ子は仕事を辞め、田所を支えることに専念します。
とはいえ、田所を送り出した後、実家に帰って母親に会うことも頻繁にありましたが、母親はそれを咎めませんでした。

 

結婚してから半年後、ルミ子の妊娠が発覚し、無事に娘が生まれました。
娘の名前は田所の義母が決めることになり、この名前も終盤まで明かされませんが、ここでは清佳と先に出させていただきます。

 

ルミ子は母親から受けた愛情をそのまま清佳に与えようと出来る限りの努力をします。
その甲斐あって清佳は人が望むことをしてあげられる子に成長し、母親もルミ子を褒めるのでした。

 

しかし、そんな幸せな生活にある悲劇が襲い掛かります。

 


 


悲劇

 

清佳があと半年で小学校に入学するという頃。
田所は仕事で月の三分の一は夜勤に出なければならず、不安なルミ子は田所がいない日だけ母親に来てもらうことにしました。

 

そんなある日、台風が訪れ、激しい雨風が家を襲い、夜の八時過ぎに停電が発生します。
ルミ子は台所と居間にろうそくを立て、灯りをともします。

 

それ以上のことは起きなかったため、一家は就寝しますが、ルミ子はそこで雨音が尋常じゃないことに気が付き、それから遠くから何十台の車のクラクションが一斉に鳴っていることに気が付きます。
この時点でルミ子が知るはずもありませんが、川が氾濫し、町中の車が浸水していたのです。

 

家全体が揺れる中、清佳が呼ぶ声がして向かうと、そこにはタンスに押しつぶされた母親と清佳の姿でした。
ルミ子は助けを呼びに行こうとしますが、なんとろうそくの火が原因で居間が燃えていたのです。

 

限られた時間の中、ルミ子は母親を助けようとしますが、母親は清佳を助けるよう懇願します。
しかし、ルミ子は母親である前に、娘であるという気持ちが一番だったのです。

 

その後、母親の必死の説得があり、ルミ子の記憶は曖昧ですが、おそらく清佳を助け出して外に出たのではないかと思われます。
この事故に関して、清佳の回想でも母親(祖母)の存在の大きさが語られ、無償の愛をくれた唯一の人と言っています。

 

つまり、ルミ子の愛情とは母親に褒めてもらうための感情であり、娘の清佳には届いていなかったのです。
こうして、幸せな日々は終わってしまいました。

 


田所家での暮らし

 

家は全焼し、三人は田所家に移り住むことになります。
ところが、この義母は明らかに迷惑がられ、それでもルミ子は必死に頼み込んで住まわせてもらいます。

 

ルミ子は義母に逆らうことができず、どんなに体調が悪かろうが家事に畑仕事とあらゆる作業をこなします。
それでも一切の給料はもらえず、哲史の給料だけでなんとか生活していくだけで必死でした。

 

そんな状況の中、田所家の次女、律子が家に戻ってきますが、律子はすぐに仕事を辞め、かつ頻繁に遊びに出掛けていくようになります。
しかも明らかに金目的であろうと黒岩克利という男に貢いでいたのです。

 

律子は一度黒岩を家に連れてきて家族と話し合いますが、家族の二人への不信感は高まり、黒岩は追い返され、律子はショックで部屋に閉じこもってしまいます。
また、律子が勝手に出て行かないように誰かしらが監視しておくことになりました。

 

そんなある日、清佳が律子を見張る日がありましたが、律子に買い物を頼まれた清佳が目を離した隙に律子はいなくなってしまったのです。
これについては、清佳の回想で律子と口裏を合わせた行動でしたが、律子は約束を破って帰ってきませんでした。

 

その後、律子がたこ焼きを売っているところを哲史が発見しますが、死んだ者として扱ってほしいと以後、律子との交流は断たれます。
すでにお気づきの方もいらっしゃると思いますが、冒頭に出てきた『りっちゃん』の店主とは律子です。

 

律子がいなくなった後、義母は意気消沈してしまいますが、問題はこれだけではありません。
どれだけ願ってもルミ子は二人目を妊娠することがなかったにも関わらず、母親が亡くなってから六年後、妊娠が発覚するのです。

 

これに対し、義母、長女の憲子がルミ子を責めます。
憲子は結婚して家を出ていましたが、半年前から毎日のように田所家に通うようになったのです。

 

理由は、息子の英紀の気性が荒く、手が付けられなかったからです。
義母も最初は娘と孫の来訪を喜びましたが、すぐに英紀の相手を仕切れなくなり、いつもルミ子が相手をさせられます。

 

あと一週間ほどで安定期に入るという頃合いで軽い出血があり、医者からは絶対安静を言い渡されてルミ子。
さすがの義母もそれを許し、ルミ子は離れで休んでいましたが、それでも構わず憲子は英紀を連れてきます。

 

清佳はそれに怒り、二人に怒鳴りますが、ルミ子はその汚い言葉に絶望し、怒るよりも先に英紀と散歩に行ってしまいます。
しかし道中、清佳からお腹に赤ちゃんがいることを知らされていた英紀は感情が昂り、ルミ子を突き飛ばして先に帰ってしまいます。

 

それがきっかけでルミ子は流産。
それ以来、憲子と英紀が来ることはなくなりました。

 

『桜』と名前まで決めていた子供を失い、心が空っぽになってしまったルミ子ですが、婦人会で知り合い、英紀に突き飛ばされたルミ子を見て救急車を呼んでくれた敏子が彼女を救います。
清佳が中学に上がると、ルミ子は手芸教室に通い始めます。

 

一年後、敏子は占いができるという姉の彰子を連れてきて、名前からそれぞれの性格などを言い当てます。
過去の事件のことを言い当てた彰子に、ルミ子は現状を包み隠さず話します。

 

すると、清佳にオルグと呼ばれる悪い気がまとわりついていると言われ、それを直すためにルミ子は高価な薬を購入し、清佳に飲ませます。
その甲斐あってか清佳の成績は上がり、委員会に立候補するようになりました。

 

しかし、義母に薬のことがバレてしまい、ルミ子は敏子たちと関係を断たざるをえませんでした。
一方、この薬は清佳にとって迷惑そのもので、もっと服を買ってもらったり普通の愛情を欲していました。

 

しかし、母親に認めてもらえない自分が嫌いな清佳は、必死でルミ子の気持ちに応えようと努力します。
ところが、それでも悲劇はさらに母娘を襲います。

 


 


あの夜の真実

 

高校生になった清佳は父の日記を見つけ、父親がどんな人生を送ってきたのかを知ります。
そんなある日、彼氏の中谷亨と会っている時、哲史の姿を見つけ、亨を置いて清佳は哲史の後を追います。

 

着いたのは、祖母が住んでいた、今は仁美に貸している家でした。
中から聞こえてくる二人の声から、哲史が不倫していることは明らかでした。

 

清佳はたまらず中に入り、二人を怒鳴りつけます。
哲史と仁美は学生時代、学生運動を共にし、その頃の気持ちを引きずっているのでした。

 

清佳は思いの丈をぶつけますが、仁美から思わぬ反撃を食らいます。
哲史が仁美と会っている理由、それは清佳とルミ子を見てられないから家に帰りたくないのだといいます。

 

清佳はルミ子に好かれようと必死だけれど、ルミ子は清佳を避けている。
それを見るのが、哲史は辛かったのです。

 

そして、話はなぜか祖母が死んだあの日のことになります。
実は祖母は焼け死んだのではなく、舌を噛み切って自殺したのです。

 

ルミ子に清佳を選択させるために、自分で命を絶ったのです。
そして、ルミ子は母親が自分ではなく清佳を選んだことが許せなかったのではないかと憶測を並べますが、その途中で清佳はワインボトルで仁美を殴打し、家から飛び出します。

 

そして帰宅後、ルミ子にこのことを伝えると、ルミ子に首を絞められて殺されかけます。
しかし、それではルミ子に罪を背負わせてしまうと考えた清佳は彼女を突き飛ばし、自ら首を吊って命を断とうとするのでした。

 


結末

 

清佳は首吊りでしたが、冒頭の事件では飛び降りで内容が異なっており、ここでようやく度々登場した母の手記と娘の回想が冒頭の事件と関係ないことが判明します。
それもそのはず。

 

事件に興味を持った女性教師こそ清佳なのですから。
彼女は結局亨と結婚し、子供を身籠ることになりました。

 

清佳の首吊り後、仁美は死んではおらず、哲史と一緒に逃げ出します。
哲史はルミ子の母親の自殺する現場を目撃しており、さらに実はその前に絵を持ち出していたのです。

 

もし絵を諦めていれば、母親も一緒に助けることができたかもしれない。
そう思った哲史は罪悪感からルミ子、清佳から目をそらしていたのです。

 

その後、仁美から別れを告げられた哲史は戻ってきて、ルミ子はそれを許しました。
これらの事件を通して、清佳は自分が母に望んでいたことを生まれてくる子供にしてあげたいと考えていました。

 

自分の全てを捧げる。
しかし、『愛能う限り』とは決して口にしない。

 

そして、清佳は母娘についてこう考えます。
愛を求めようとするのが娘であり、自分が求めたものを我が子に捧げたいと思う気持ちが母性なのだと。

 


最後に

 

いかがでしたでしょうか。
最後、あれだけ壊れていた一家がこのようにまとまることにある種のご都合主義を感じなくもありませんでしたが、結論にある意味とてもすっきりしました。

 

母性とは人それぞれであり、それがあるからといって子供が幸せであるという確証は得られないのです。
でも、母親とは自分を捧げて愛情を子供に注いでいくのですね。

 

改めて自分の母親のことを考え、とても愛されて育ったなと、母親への感謝が止まりませんでした。

 

母性 (新潮文庫)

母性 (新潮文庫)