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『スカラムーシュ・ムーン』ネタバレ解説!あらすじから結末まで!

スカラムーシュ・ムーン (新潮文庫)

 

新型インフルエンザ騒動で激震した浪速の街を、新たな危機が襲う。今度は「ワクチン戦争」が勃発しようとしていた―霞が関の陰謀を察知した異端の医師・彦根新吾は、ワクチン製造に必要な鶏卵を求めて加賀へ飛び、さらに資金調達のために欧州へと旅立つ。果たして、彦根が挑む大勝負は功を奏するのか?浪速の、そして日本の医療の危機を救えるのか。メディカル・エンタメの最高傑作!

【「BOOK」データベースより】

 

僕にとって久しぶりの海堂尊さんの作品です。

単発ものかと思いきや、続編かつ世界観をバチスタの頃からずっと共有しているということで、所々で分からない話もありましたが、そんなこと気にならないくらい最高に面白かったです。

 

序盤でまどかたち大学組の青春のお手本のようなやりとりを見せておきながら、中盤からは医療の枠を一気に超えて政治が絡んでくるという海堂さんのもはやお家芸のような展開。

そして、それらが一つに合わさる時、読者は最高の快感を得ることができます。

 

六百ページ越えの物語をあっさりと読ませる文章力と構成、何よりそれぞれに付けられた通称など、読んで損はありません。

この記事では、そんな本作の魅力についてあらすじや個人的な感想を交えながらご紹介したいと思います。

 

ネタバレになりますので、未読の方はご注意ください。

 

 

 

 

 

インフルエンザワクチンと有精卵

 

名波まどかは加賀にある養鶏ファーム・ナナミエッグの一人娘で、就職が決まらず、地元の加賀大学大学院に進学したものの、いつかこんな田舎を飛び出し、都会でOLをすることを夢見ています。

まどかの所属する『地域振興総合研究室』は新設された研究室だが、特に何をするわけでもなく、定年間際の野坂教授を筆頭にのんびりとしてます。

 

さらにF1ドライバーを夢見るも事故で夢を早々に断念した真砂拓也。

実家の鳩村獣医院を継ぐために獣医学部に入学した鳩村誠一。

 

この二人を加えて、物語は進行していきます。

ある日、ナナミエッグのアンテナショップである『たまごのお城』でバイトをしていると、閉店間際、彦根新語という男が来店します。

 

差し出された名刺には『浪速大学医学部社会防衛特設講座 特任教授』というよく分からない肩書きが書かれていました。

ナナミエッグの広報も務めているまどかは彦根を中に案内し、社長であり父である龍造と会わせます。

 

彦根の目的。

それは、インフルエンザワクチンを製造するために有精卵を一日十万個用意し、浪速大ワクチンセンターに納品してほしいというものでした。

 

報酬としては申し分なく、技術的にも可能でしたが、唯一、食用にこだわる龍造にとってワクチンを作るために卵を使用するなど言語道断でした。

龍造は断ろうとしますが、近年悪化する経営を考えたまどかが待ったをかけて、一旦保留となります。

 

まどかはナナミエッグのために仕事を受けようと考えますが、龍造はナナミエッグを畳もうと考えていて、継ぐつもりがないなら口出しをするなと厳しく当たります。

それでもまどかが食い下がろうとすると、彦根が挑発し、まどかはそれにまんまと乗せられて、依頼を引き受ける方向で話を進めることになりました。

 

ただし、龍造は納得しているわけではないため、説得する必要があります。

そこでまどかは拓也、誠一と一緒にこの課題を考え、実際にワクチンセンターに視察にも行きます。

 

そこで得た知識、熱意を龍造に伝え、話は順調に進んでいきます。

費用の問題もありましたが、そこは野坂がこの課題を研究室のテーマにしたため、研究費としていくらかは請求できるようになりました。

 

また出来るだけの資金援助も依頼しようとワクチンセンターでプレゼンもし、樋口副総長から許可を得ます。

しかし、一方でワクチンを作るにあたり割られていく卵のことを考えると、まどかは依頼を断ろうと考えます。

 

すると、そこに現れたのがワクチンセンターの総長である宇賀神でした。

彼はまどかが断るなら、別の養鶏場をあたるだけだから結果は同じだと言い、それを聞いたまどかは依頼を受けるかどうか改めて考えます。

 

 

 

まどか社長の誕生

 

三人でこの課題について考えていると、実は野坂は龍造の恩師であり、三人のために龍造に協力してほしいとお願いします。

これには龍造も腹をくくり、なんとナナミエッグを分社化し、その新会社の社長にまどかを任命します。

 

こうすることによってリスクを分散させるのが狙いでした。

これにまどかも決心を固め、新会社『プチエッグ・ナナミ』の社長して新たなスタートを切ります。

 

 

ワクチン戦争の予感

 

浪速では、インフルエンザキャメルでの騒動の影響が残っていて、この件については過敏になっていました。

そんな中、キャメルに関する講演会が開かれ、浪速診療所の創設者である菊間徳衛、息子の祥一が参加します。

 

演者は彦根で、内容はキャメル騒動は第一波に過ぎず、これから第二波であるワクチン戦争が起こるというにわかには信じがたい内容でした。

厚生省は弱毒のキャメルに対して過剰な対応をとってしまい、消してしまいたい汚点を残していました。

 

そこで失態を隠すために、キャメルの予防は重要だという風説を流し、一方でワクチンの供給を絞り、浪速市民を混乱させようというのです。

それを未然に阻止するために、彦根はまどかたちに有精卵の用立てを依頼したのでした。

 

しかし、彦根の狙いはそれだけではありません。

彼は村雨浪速府知事を祭り上げ、日本医師会本部を浪速に移動させ、日本を東、中央、西の三分することを企んでいました。

 

話を聞けば聞くほど信じられないものでしたが、参加した面々は彦根の迫力に何かを感じとっていました。

 

 

軍資金の調達

 

村雨陣営は、彦根と浪速地検特捜部の副部長・鎌形によって支えられています。

さらに問題もあり、それは多額の軍資金でした。

しかし、それに対し彦根は問題と言い放ち、ただちに行動を開始します。

 

資金の柱は三本。

一本目は、ウエスギ・モーターズの上杉会長からの手術代の回収。

 

二本目は、モナコに隠された天城医師の残した通称アマギ資金。

三本目は、モナコに企業を誘致し、モナコに移住する一億円を浪速府が肩代わりすることで所得税がかからなくなり、本来の所得税の半分を浪速に納付してもらうというもの。

 

どれも夢物語のような話でしたが、スカラムーシュ(大ほら吹き)の異名を持つ彦根の巧みな話術によって全て実現させます。

アマギ資金はモナコから持ち出せない幻の金ですが、これを見せ金に企業をモナコに誘致すれば、企業からの所得税の半分の納付という本物の金にすり替えることができます。

 

これで村雨陣営は、四百億円近い資金の目途が立ちました。

 

 

霞が関の動き

 

一方、霞が関でも動きがあります。

東京地検特捜部の副部長である福本から、警視庁の『無声狂犬』斑鳩に鎌形潰しの特命が下ります。

 

斑鳩は原田雨竜をともない、この件にあたりますが、この雨竜が彦根に対抗しうる切れ者なのです。

この物語は際限なく拡大していきますが、裏で糸を引いているのはこの二人に他なりません。

 

どれだけ先を読み、壮大な青写真を描けるかがカギになってきます。

読者はこの二人の策士の存在を事前に知ることで、今後のやりとりについて常に二人の姿を思い浮かべることになります。

 

 

雨竜vs.彦根

 

まどかたちの次なる課題として加賀ーワクチンセンターの五百キロの運送をどうするかがありましたが、これは真砂運送を分社化し、『真砂エクスプレス』をプチエッグ・ナナミに特化させることで解決します。

当然、真砂エクスプレスの社長は拓也です。

 

拓也はお荷物社員であった柴田と共に、ドライバーとして会社を支える決意をします。

問題も山積みでしたが、柴田の的確なアドバイスによってなんとか期日までに有精卵を納品できるようになりました。

 

一方、彦根に対する斑鳩、雨竜の攻撃はありましたが、村雨に対する支持率は高止りし、彦根の思う通りに話が進んでいきます。

しかし、雨竜も彦根の考えをしっかりと見抜いていて、それを阻止するためにワクチン戦争を仕掛けます。

 

ところが、これも彦根は予想済みで、浪速府独自にワクチンを備蓄していたことで村雨の評価はさらに上昇し、このタイミングで新党『日本独立党』の結成を宣言します。

流れは村雨陣営にありました。

 

これまで圧勝しかしてこなかった雨竜にとって、これは大きな誤算であり、しかし対等な存在を見つけた喜びもありました。

ここから雨竜の反撃が始まります。

 

まずは冤罪をふっかけ、鎌形を逮捕し、村雨陣営を揺さぶります。

さらに知り合いの記者から紹介された記者がワクチンセンターの樋口の妹で、そこからナナミエッグの存在を知り、妨害しようとします。

 

最初は運送側を攻めましたがうまくいかず、標的を『プチエッグ・ナナミ』に定めます。

ある晩、鶏舎の見回りに来たまどかを雨竜は手にかけようとしますが、これを彦根、柴田に阻止されます。

 

彦根と柴田は医師時代の友人で、柴田は彦根から事情を聞き、雨竜の悪事を未然に防いだのです。

これで雨竜の手は防がれ、新党お披露目も問題なく済むように思えました。 

 

 

結末

 

新党お披露目パーティ当日、まどかや拓也も参加し、会は進んでいきます。

しかし、そこで最後のどんでん返しが起きます。

 

なんと雨竜が壇上に上がり、彦根が用意した軍資金がどれも確実ではない、虚像だと言い放ったのです。

これで彦根の目論見も打破され、結果として村雨の未来は絶望的でした。

 

これで痛み分けとなり、雨竜は表舞台に勝手に出たことでマサチューセッツ大学情報解析研究室室長への異動が決まり、彦根は村雨の元を去ることになりましいた。

雨竜が旅立つ間際、空港で再び対峙する二人。

 

雨竜は異動を喜んでいましたが、マサチューセッツ大学に派遣されるよう根回ししたのは彦根であり、これで雨竜は何もできないようになりますが、この時点で雨竜はまだ知りません。

結局は、彦根の勝ちでした。

 

シオンと合流した彦根は、桜宮で打ち砕かれ、浪速で叩きつぶされたから、次は九州に都落ちしようといい、シオンもそれについていきます。

 

 

最後に

 

いかがでしたでしょうか。

要約しようと思えばこの程度になりますが、ここに名前の出ている登場人物は全体の半分程度で、面白さでいえば半減以下です。

 

やはり海堂作品の面白さはその掛け合いにあると思いますので、内容を整理した今、改めて本作の面白さを再確認するのはいかがでしょうか?

 

スカラムーシュ・ムーン (新潮文庫)

スカラムーシュ・ムーン (新潮文庫)