百本文庫~1年で100冊ご紹介します!~

書評書いてます。年間100冊の紹介が目標。好きなジャンルはミステリー、恋愛、青春。

徹底ネタバレ解説!『満願』あらすじから結末まで!

満願 (新潮文庫)

 

「もういいんです」人を殺めた女は控訴を取り下げ、静かに刑に服したが…。鮮やかな幕切れに真の動機が浮上する表題作をはじめ、恋人との復縁を望む主人公が訪れる「死人宿」、美しき中学生姉妹による官能と戦慄の「柘榴」、ビジネスマンが最悪の状況に直面する息詰まる傑作「万灯」他、全六篇を収録。史上初めての三冠を達成したミステリー短篇集の金字塔。山本周五郎賞受賞。

【「BOOK」データベースより】

 

米澤穂信さんの作品は青春もあれば戦慄の走るホラーもありますが、本作はまさしく後者にあたります。

六つの短編から成り立つ本作ですが、とにかくどれも粒ぞろいで、外れなしです。

 

さらにNHKにて、「万灯」「夜警」「満願」がドラマ化されることが決まり、今後さらに話題になることが予想されますね。

 

個人的には、特に『柘榴』が気に入っています。

米澤さんの『儚い羊たちの祝宴』を読んだ時のような戦慄が走り、何度も読み返してしまいました。

 

色々と感想はありますが、その魅力は解説の方で書いていきたいと思います。

ネタバレを多大に含みますので、未読の方はご注意ください。

 

 

 

 

 

夜警

 

川藤浩志巡査の葬儀から物語は始まる。

彼は、とある事件の中で命を落とした。

 

その事件とは、妻から夫である田原勝(五十一歳)が暴れていると一一〇通報が入り、そこに警官三人が駆け付けますが、田原が短刀で切りかかってきたため、川藤が計五発発砲。

田原はその場で死亡したが、川藤も切り付けられた傷が原因で死亡した。

 

多少賛否はあったものの、適正な銃の使用だったという見方が強かった。

しかし、川藤の元上司である柳岡巡査部長は、彼は警官に向いていなかったと考えていた。

 

以下、川藤が死ぬまでを辿る回想。

 

川藤は警察学校を出て、最初の配属先として緑1交番に配属される。

そこの交番長を務めていた柳岡は川藤にあまり良い印象を持っていなかったこともあり、自分の目の届く範囲に置こうと川藤と組むことにし、もう一人、二年後輩にあたる梶井と三人で勤務にあたることにした。

 

当時、警官がトイレに銃を置き忘れるという事件が起き、管理徹底を聞かされていた。

また川藤の評価について、スナックでの客同士のトラブル程度で拳銃のある腰に手を当ててしまうなど、やはり警官としては厳しいという見方が梶井からも出た。

 

また川藤にはミスを浅知恵で誤魔化そうとする気があり、それが柳岡をますます不安にさせる。

しかも柳岡は過去に三木という部下を間接的にとはいえ、自分のせいで殺したという罪悪感があり、もう部下を殺したくないと考えていた。

 

そして、川藤が殉職した当日。

その日は朝からおかしなことが続いていた。

 

交番に行くと、常連の通報者である田原美代子が待っていて、話を聞くと、旦那である田原勝に殺されるかもしれないと言い出した。

いつものことであったため、話を聞いて帰ってもらったが、田原には前科もあるため、一応警戒するという話になった。

 

午前中、柳岡と梶井は警邏に出て交番に戻ると、川藤から工事現場で交通整理の誘導員が倒れたという報告を受ける。

ヘルメットに小石が当たって派手な傷がついていたが、特に怪我はなかった。

 

しかし、柳岡の質問に対する川藤の反応は不自然なほど挙動不審で、何かを恐れているようだった。

夜までは普段通りだったが、午後十一時四十九分、署に一一〇番通報が入った。

 

そこで回想は一度途切れ、柳岡は川藤の兄である隆博を訪れていた。

三木の死にも疲れていて、川藤のことを話してしまいたかったからだ。

 

話は、また事件の日に戻る。

 

通報に従って現場である田原美代子の自宅に向かう柳岡たち。

自宅からは美代子の悲鳴が聞こえる。

 

本部に判断を仰ぐも、突入しようという川藤の発言、そして夫の勝が刃物を持っているという情報から急を要すると判断し、三人は中に突入する。

中では、勝が美代子の首に刃物を当てていた。

 

説得を試みる柳岡だが、川藤が緑一交番だと叫ぶと、勝は豹変。

貴様が美代子を、と言って突っ込んでくる。

 

それぞれ対処しようとするが、そこで銃声が一続きで何発分も響いた。

弾は勝に当たったが、勝は止まらずに川藤に当たり、川藤は首から血を噴き出していた。

 

回想が終わり、美代子の事情聴取の話になるが、美代子は結果として浮気していなかった。

また川藤は即死ではなく、『こんなはずじゃなかった』『上手くいったのに』と言い残していた。

 

さらに不思議なことに、川藤は五発のうち四発を勝に命中させていたが、残りの一発は庭に落ちていたという。

状況から考えて、威嚇として空に向けて撃ったとしか考えられないが、柳岡はそれを自分の目で見ていない。

 

この事実に納得のいっていない柳岡だが、そこで隆博は川藤が交番で一人でいた日、『とんでもないことになった』というメールがきたことを話す。

これまで川藤は兄に尻ぬぐいしてほしい時に同様の内容のメールを送っていることが分かり、そこで柳岡は真実が分かりかけていた。

 

川藤が一人で交番にいた日、何かの理由で拳銃を発砲してしまい、誘導員の頭をかすめてしまった。

幸い、怪我はしていなかったが、すぐに銃弾を紛失したらまずいという事実に辿り着きます。

 

兄にメールを送るが、助けが期待できない今回。

川藤は、暴発を隠すには発砲すればいいという結論に至る。

 

事件を誘発するために、川藤は妻が緑1交番の警官と浮気しているという電話を勝にし、予想通り、勝は激高して事件を起こした。

川藤は考えの通り、四発を発砲して、暴発した弾を地面に踏みつけることで、暴発の事実を隠蔽しようとした。

 

しかし、唯一予想外だったのが、人間の執念を甘く見たことだ。

そして、隆博はおそらく弟の何をしたかを気付いていて、柳岡は自分も警官に向かなかったと警察を去ることを予感していた。

 

 

 

死人宿

 

主人公は、恋人の佐和子を追って人知れぬ温泉宿にやってきた。

職場のことで悩む佐和子の気持ちを理解してやれなかったことを後悔し、戻ってくるよう説得するためだ。

 

佐和子とは二年ぶりの再会だったが、彼女は主人公が来ることを予期していたようだった。

温泉宿は佐和子の叔父の家で、けっこう繁盛しているが、不幸な事故が起きることでも有名な温泉だった。

 

そのせいで、死にたい人間の間で評判になっていて、もし叔父に何かあれば、佐和子がこの宿を引き継ぐのだという。

この『死人宿』を。

 

事実を知っても泊まる気はあるかと尋ねられ、主人公は泊まることにした。

最初は元気になった佐和子の姿を見ているだけで良かったが、だんだんと連れ戻したいという欲求に駆られるようになっていた。

 

風呂に入り、夕飯までの時間を過ごしていると、突然、佐和子が部屋にやって来て、相談があるという。

それは、露天風呂の脱衣所に遺書の落とし物があり、持ち主を探してほしいというものだった。

 

今日の宿泊客は三名いて、若い男性に髪が長く痩せた女性、そして短い髪を紫に染めた女性だ。

主人公は警察に通報することを提案するが、死人が出ていない状態では対応してもらえないという。

 

宿帳の筆跡からも特定が出来なかったため、三人の顔を直接見るために、主人公も作務衣に身を包み、従業員のふりをして佐和子についていくことにした。

三人を観察する中で、紫の髪の女性の手首にリストカットをしたような傷跡があることに気が付く。

 

状況を踏まえて自分の意見を言う主人公だったが、それは二年前と変わらない答えで、佐和子を失望させるものだった。

そこで改めて自分の失態に気が付き、常識では計れない可能性も含めて再度遺書の持ち主を考える。

 

主人公は二年というワードを違う視点から考え、生命保険が目的であることに辿り着く。

免責期間が二年あり、それが過ぎて自殺することで保険金を借金にあてようと考えているのだと。

 

しかし、名前と日付がない。

これは遺書が一枚ではないことを表していて、署名が入ったものは気に入らないため誰にも見られない場所に捨てたのだと考えた。

 

そこで主人公は川に捨てた書き損じを探し、すぐに見つけることができた。

遺書は細かく破られていたが、一枚の断片から『丸太』という名前を見つけることが出来た。

 

宿に戻って男性に確認すると、彼が遺書の持ち主であることが判明し、翌朝、お礼を残して宿を去って行った。

そして、佐和子も主人公にお礼を言い、二年で少し変わったと言った。

 

ところがその直後、自殺した紫の髪の女性の死体が発見され、主人公はようやく気が付くことになる。

彼女の部屋には備え付けの浴衣とは別の浴衣があり、それが死装束だったということに。

 

 

柘榴

 

皆川さおりはとびきりの美人で、そのことを自覚した上で謙虚に振る舞える女性だった。

さおりは大学のゼミで佐原成海と出会う。

 

彼は美男子というわけでもなかったが、誰もが好きにならずにはいられない男性で、さおりもその一人だった。

ゼミでは彼を巡って暗闘が繰り返されたが、さおりは見事に成海を勝ち取り、在学中に婚約した。

 

母は賛成し、父は反対したが、さおりにとって成海はトロフィーだった。

あれだけの競争で勝ち取った栄誉なのだから、最高のものでないはずがないと信じ切っていた。

 

結局、子供を身ごもったことで父も折れ、娘を産んだ後の夕焼けの鮮烈な赤を覚えていたことから、娘の名前を『夕子』にした。

その二年後に二人目も産み、病室から見えた月が印象的だったことから、二人目の娘を『月子』と名付けた。

 

これまでは何の疑問も持たなかったが、お産に成海が姿を見せなかったことで、初めて彼と暮らす人生に疑問を覚えることとなった。

しかし、今までの人柄が嘘のようにさおりは娘たちを愛し、幸せな日々を送っていた。

 

ところが、成海は定職に就かず、怪しい連中ともつるみ、週に一、二日しか帰ってこないようになっていた。

しかし、それでもまださおりはこの生活を信じていたが、それも長続きしなかった。

 

子供のことを考えるとどうしてもお金が必要で、その点において成海はダメだった。

そして、夕子が高校受験を控えた年に離婚を決断し、成海もそれに同意した。

 

ここで視点が夕子に入れ替わる。

 

夕子は両親の離婚を知り、またどちらも親権を譲るつもりがないことを知って、自分で本を読んで親権について勉強していた。

月子から見ても、どう考えても親権は母のものだった。

 

場面は変わり、放課後の教室。

窓の外のが真っ赤に染まる中、裁判所でうまく話すための相談をするために、教室で月子と待ち合わせをしていた。

 

夕子は本を読むのが好きで、中でも一番読みたかった物語は覚えてしまっていて、柘榴の話だった。

夕子は小学校六年生の夏、父と柘榴がなっているところを見に行こうと約束し、秋に二人きりで見に行ったことがあった。

 

月子がやって来た。

彼女は母譲りの美しさに加えて、時に抱きしめたくなるような弱さも備えていた。

 

彼女たちは人気がなくなったことを確認すると、誰も来ない空き教室に向かい、父のためにお互いを真鍮製の靴べらで叩き合おうとしていた。

まずは夕子が打たれるといい、上半身裸になり、月子に背中を打たせた。

 

視点は変わって、さおりに戻る。

 

さおりは家庭裁判所で審判の結果を聞かされるが、まさかの親権は成海のものだった。

信じられないさおりは審判官を問い詰めるが、理由はさおりが娘たちに暴力をふるっているという身に覚えのないものだった。

 

しかし、実際に夕子と月子の背中には自宅にある真鍮製の靴ベラで叩かれ跡があり、特に月子の傷はひどいという。

前の夕子のパートで語られているが、これは二人が母のDVをでっち上げるために自分たちでつけた傷である。

 

さおりは娘たちの自作自演であることに気が付いていたが、それ以上に娘たちの気持ちを理解できていなかったことにショックを受け、涙をこぼすのだった。

 

視点はまたまた変わり、夕子に。

 

成海と秋に二人きりで柘榴を見に行った時に起こっていたこと。

夕子は、成海と肉体関係を持っていた。

 

彼女にとってもまた、成海はトロフィーなのだ。

そのためには母であるさおりは美しすぎるため邪魔で、離婚はまたとないチャンスだった。

 

夕子は月子に母を陥れることを提案して、月子はそれを受け入れるが、そのことで月子も成海を一人の男として狙っていることが分かった。

母娘で似るのも当然だし、姉妹で似るのもまた当然だった。

 

母を排除した今、夕子にとって邪魔になる美しい人は月子だけだった。

まだ幼くて自分に適わないが、それも今だけの話で、いずれ脅威になることを恐れていた。

 

夕子が親権を成海にとらせるためにお互いに背中を打たせた理由。

それは、月子が美しくなる前に少しでも傷をつけて、成海を自分だけのものにしたかったからだ。

 

月子は罪悪感に負けて途中で打つことをやめてしまうが、夕子は容赦しない。

結果として、月子の背中には大きな傷が残り、彼女の美しい背中は失われてしまったのだ。

 

 

万灯

 

 井桁商事に勤める伊丹は、入社三年目でインドネシア支社に派遣され、天然ガスの事業に取り組んでいた。

そして、二年前にバングラデシュへの異動を命じられ、伊丹はそれを快諾した。

 

伊丹は開発室長という肩書きで高野という部下も持ち、意気込んでいた。

しかし、来て早々事務所の電気の供給を止められ、賄賂目的もあるがインフラの不十分さを目の当たりにする。

 

またバングラデシュは気候も大変厳しく、事業を成功させるのは並大抵のことではなかった。

しかし、技術も進歩し、これまでは採掘可能な油田はないと言われていた北東部の低地域に可能性を見出だし、高野含めて意気込んでいた。

 

ところが、調査に出ていた高野一行は転落事故を起こし、高野は左腕を切断。

また、バングラデシュ人スタッフも重症を負い、何かあった時にすぐ対応できるよう開発地帯の近くに拠点を設ける必要性に迫られた。

 

高野は帰国し、伊丹は新しい部下を補充され、悲しみに暮れる間もなく事業を継続する。

拠点として、雨季にも陥没しない地域、かつ政治的に安定していることを条件に探していた伊丹は、ボイシャク村に目をつけた。

 

ボイシャク村との交渉には新しい部下で高野の同期の斎藤が担当することになった。

彼はこういった交渉の経験もあって、間違いのない人選だった。

 

しかし、一週間後、斎藤は傷だらけで戻ってくることになった。

ボイシャク村の住民は、外国人をひどく嫌っていたのだ。

 

斎藤はその時の詳細を話し始める。

村の住民は最初は好意的で、マタボールという村の長老に会わせてもらえないかという申し出も快諾してくれた。

 

マタボールのアラム・アベットも斎藤を歓迎し、和やかな雰囲気が漂っていたが、開発に来たことを知った途端に態度が豹変。

斎藤は粘ろうとするがそれで怒りを買ってしまい、暴行されたのだと言う。

 

斎藤を病院に行かせる伊丹だが、内心ではひどく苛立っていた。

このトラブルが長引くことを、伊丹はすでに予期していた。

 

ボイシャク村以外を再検討してみるが、どこにしてもボイシャク村を通らざるをえない。

また、斎藤は怪我人ゆえに強盗に狙われ、高野の二の舞はごめんだと辞表を提出し、日本に帰国してしまった。

 

人員も補充されず、伊丹が話を進めようとしてもうまくいかない。

そんな状況が変わったのは、十一月のことだった。

 

ボイシャク村から手紙が届き、重要な協議があるから一人で来いと言ってきたのだ。

話の信憑性、仕事が重なっているなどの問題もあったが、伊丹は一人でボイシャク村に行くことを決意した。

 

ボイシャク村の前まで案内人に連れてきてもらうと、案内人からアラムと他のマタボールたちが争っていることを教えてくれた。

しかし、伊丹に他の選択肢はなく、ボイシャク村に足を踏み入れた。

 

伊丹は住民に案内され小さな家に入ると、そこにはOGOというフランスのエネルギー企業の新規開発課の森下が待っていた。

彼らも天然ガスを狙っていることが分かった。

 

アラムが入ってくる。

アラムは他のマタボールからの頼みで伊丹たちと会っているが、歓迎していないのは明らかだった。

 

何としてもその理由を知りたい伊丹は質問を続けると、アラムはバングラデシュの未来のために天然ガスが必要であり、他国に渡したくないことを明かす。

森下は説得を試みるが、全くの無駄に終わってしまった。

 

社に報告するために帰ろうとすると、老人が呼び掛けてきて、マタボールたちが会いたいと言っていると告げた。

連れていかれた先にはアラム以外のマタボールたちが待っていた。

 

そのうちの一人、シャハ・ジンナーが話すマタボールたちの意思。

彼はアラムを危険視し、排除しようとしていた。

 

そこで、拠点を置くためにシャハが出した条件。それはアラムを殺せば喜んで土地を提供するというものだった。

判断に迷う伊丹だったが、森下はすでに覚悟を決めていて、今さら後戻りなど出来なかった。

 

 二人の覚悟を認めると、シャハは事故を装ってアラムを車でひき殺すよう提案する。

日本であればすぐに看破される恐れがあったが、バングラデシュの警察であれば疑われずに済むと。

 

暗闇の中、アラムどう識別するかという課題もあったが、森下の提案により、アラム以外がケミカルライトを持つことでこの課題はクリアした。

使う車は、事故を起こしたあとも誤魔化しがきく森下のジープに決まり、運転は伊丹が担当することになった。

 

二人は長く重たい時間を過ごし、予定時刻になると車を走らせた。

予定通り、ケミカルライトを身に付けていないアラムに車をぶつけ、念のために死んだかどうかを森下に確認させようとするが、森下にはそれができなかった。

 

そこで伊丹は、森下は信じるに値しない男だということに気が付く。

別れてから少しして、森下の様子を確認するためにOGOに電話する伊丹だが、森下はすでに退職していた。

 

焦った伊丹は森下のいるホテルをなんとか聞き出すと、日本にあるメーカーと会社に疑われない口実のためのアポイントをとりつけ、すぐに日本に帰国する。

飛行機の中で伊丹は熱をだし、それが理由で成田空港で検疫を受ける。結果は二、三日で出るという。

 

伊丹は黒いセダンをレンタルすると、途中のホームセンターで森下を殺すために必要な道具を揃え、ホテルに向かった。

ロビーで森下を待ち、もし時間までに現れなければ殺すのをやめようとまで思ったが、森下は現れた。

 

伊丹はアラムのことで森下を呼び出し、ホテルの地下駐車場に停めてある車まで誘導する。

森下が誰にもこのことを言っていないことを確認すると、伊丹は金槌で森下を撲殺。

 

そのままアポイントをとった吉田工業に向かい、適当に面会を済ませると、房総半島の山に向かい、彼を埋めた。

誰にも伊丹の犯行と気付かれない、完全犯罪になるはずだった。

 

ところが、事態は急変する。

伊丹は検疫の結果、何の問題もなかったが、テレビでは横浜で女性と男児がコレラにかかったというニュースが流れていた。

 

感染源を行方不明だったが、伊丹にはそれが森下だとすぐに分かった。

ボイシャク村でコレラに感染し、横浜在住で、イルミナホテルに滞在してきた女性にうつしてしまった。

 

これだけであれば何の問題もなかったが、この時点で伊丹は吐き気を覚えていて、コレラに感染したことを示唆してきた。

それは、失踪前の森下と会っていたことを意味する。なぜなら、入国時点では何も感染していなかったからだ。

 

感染源は、殺害時にこぼれた吐瀉物と思われた。

このまま症状が進み、病院にかかることがあれば、森下との関係を疑われるのは必須。

 

絶望した気持ちで、ホテルから見える夜景を眺める伊丹。

彼は、万灯の前で裁きを待っている。

 

 

 

関守

 

フリーライターの主人公は、取材のために桂谷峠近くにある店に取材に訪れていた。

桂谷峠は『死を呼ぶ峠』などの名称で都市伝説のように語られていて、近年、奇妙な事件が多発していたからだ。

 

ネタとしてちょっと弱いと思っていると、依頼主である先輩は本物ではないかと弱腰になっていた。

しかし、主人公はすでにこの記事を都市伝説として仕立て上げることに決めていた。

 

コーヒーを注文し、店主である老婆に取材を進める主人公。

特に危ない道ではないが、なぜか四台の車が転落し、五人が亡くなっていた。

 

そのうちの一人は、静岡県庁職員の前野拓矢といった。

彼は新しい資源を探すためにこの店にも足を運んだことがあったという。

 

その前の事故では、田沢翔という男性と藤井香奈という女性が亡くなっていた。

田沢は峠の先にある豆南町の出身で、彼らもまたこの店に立ち寄ったことがあった。

 

彼は不機嫌で、ビールを飲んでいった。

そのせいで事故の原因は飲酒運転ということになった。

 

さらにその前の死亡者の話になり、その人は大塚史人という若い男性だった。

彼もまたこの店に立ち寄ったことがあった。

 

彼はフィールドワークで訪れていて、桂谷の関所が目的だった。

しかし、そこにはすでに柱の一つも残されていないという。

 

主人公は渡された豆南町の観光マップに目を通していくが、これといった事故の理由を見出だすことができず、ホンモノである可能性を少しだけ考えはじめていた。

 

老婆は主人公がこの件を記事にする意志があることを確認すると、一番最初に亡くなった人、高田太志について話し始めた。

 

高田は、老婆の娘の二人目の夫で、一人目の夫よりもさらに悪い男だった。

娘は暴力を奮われていて、子供を守るために娘はこの店に逃げてきますが、高田は追ってきて子供を連れていこうとする。

 

娘はこれに抵抗し、手近な石で高田を殴り殺した。

しかし、使った石とは店の前にある石仏で、その首は折れてしまった。

 

事実を隠蔽するために、老婆の夫は接着剤で首をくっつけて安心するも、何も知らずに真実に近づいてしまう人間がいた。

大塚はその石仏を見て割れた跡に気が付くと、豆南町役場でいつ割れたかを聞くと言い出したため、睡眠薬の入った飲み物を飲ませ、事故死を誘発させた。

 

田沢の場合、彼が蹴った拍子に石仏の首がとれてしまい、しかも田沢はそれが接着剤でつけてあることを見抜いてしまう。

それが理由で、ビールに睡眠薬を混ぜて同じように事故死させた。

 

前野の場合、彼は石仏が観光資源にならないかと検討し、持ち帰って調べたいとまで言ってきたため、同じ手段をとった。

そして、この矛先は取材のためににも向けられていた。

 

去年の秋頃、先輩が調査していたことを主人公のことだと勘違いされ、反論しようとするも、すでに睡眠薬によって意識は朦朧としていた。

老婆は関守として、娘の事件を隠し続けていたのだ。

 

意識が落ちる寸前。

老婆は笑っていた。

 

 

満願

 

藤井にとって、鵜川妙子の裁判は弁護士として独り立ちしてから初めて取り扱った殺人事件だった。

三年がかりで控訴審まで進んだが、被告人である妙子の希望で控訴を取り下げ、懲役八年の一審判決で決まった。

 

藤井はまだ戦う余地があると思っていたが、妙子はそれを許してくれなかった。

そして、出所した妙子の電話から物語は始まる。

 

以下、回想。

 

藤井が二十歳の時、下宿先が火事に遭い、新しい下宿先として先輩から紹介されたのが鵜川家だった。

そして、出迎えてくれたのが、当時二十七、八歳の妙子だった。

 

鵜川家は先代から畳屋を営んでいて、夫である重治と妙子の二人暮らしだった。

藤井は二階をあてがわれ、家賃は近辺の相場から見れば安くはなかったが、二部屋借りられること、そして食事つきで申し分なかった。

 

その日、重治とも対面するが、彼は藤井を家に上げることが不快だということを隠そうともせず、家賃を期日までに払うことだけを言い残した。

本格的に引っ越してからも重治はいい顔をしなかったが、それ以外は問題はなく、勉強もずいぶんと捗った。

 

また、勉強が滞ると妙子が話を聞いてくれ、それが藤井の大きな励ましになった。

しかし、重治の家業の評判はあまりよくなく、先代から懇意にしてくれている常連が怒っていることも少なくなかった。

 

おまけに中古の畳まで扱うようになり、しかもそれを新品と偽って売ろうとする魂胆が見えた。

藤井は吸わせてもらっている手前、そんなことは言わなかったが、下宿した二年の間で家業は右肩下がりだった。

 

夏、藤井は実家に戻らずに日雇い仕事と勉強に集中していると、妙子に呼ばれて西瓜を堪能する。

そこで藤井は古い掛軸に気が付いた。

 

聞くと、妙子の先祖が島津のお殿さまからもらった我が家の家宝だと教えてくれた。

しかし、ここでいう我が家とは鵜川家ではなく、妙子の実家のことだ。

 

妙子は藤井に学があることの大切さを説き、よく勉強するよう何度も言った。

 

ここで場面は代わり、妙子が矢場英司を殺した時の状況が明かされる。

矢場は金融業者で、鋭い刃物で腹を刺されたことによるショック死とされていた。

 

藤井は弁護士として調査していく中で、矢場があまり良い評判でないことを知る。

警察は矢場への借金返済が滞っている人物から鵜川の名前に行き着くが、重治は体を壊して入院していて、妙子の振る舞いに不審を覚えた警察が家宅捜索。

 

妙子は殺人罪と死体遺棄罪で起訴されることになった。

 

凶器である文化包丁は、妙子がいつも台所で使っていたもので、死体を運んだリアカーは重治が仕事で使っていたのものだった。

また客間に隠されていた座布団、床の間から回収された掛軸、棚にあった達磨には血痕が残っていて、殺害現場が鵜川家であることを証明していた。

 

達磨には一見して血痕は見当たらなかったが、その背に血痕があることが判明した。

 

今度は藤井が鵜川家に下宿して二年目の春の場面に変わる。

勉強に音を上げていた藤井を、妙子は買い物に連れ出した。

 

藤井は記憶したことを忘れないようにとぶつぶつ呟いていたが、妙子に言われて見上げると、そこには美しい白木蓮が咲いていた。

そこで悩みを打ち明ける藤井。

 

藤井の実家は千葉で漁師をやっているが、不漁によってこれ以上の学費を出すことはできなかった。

そのため大学を出てからも勉強するような余裕はなく、司法試験を一発で受からないといけなかった。

 

しかし、司法試験は二十年で受かれば強者と呼ばれるほど難関なもので、藤井は見えないプレッシャーに負けそうになっていた。

そこで妙子は藤井の願掛けのために達磨を購入し、また自分の分も購入することにした。

 

達磨を買ってから願いが通じたのか、藤井は択一式試験を無事に通過。

しかし、両親からの仕送りは滞り、また試験のために日雇いに出られないため、重治に家賃の延長をお願いしなければならなかった。

 

一度、重治の酒に付き合うことがあったが、そこで切り出すことが出来ず、それ以降、重治と話す機会はなかった。

やむを得ず、妙子に相談すると、彼女は事件で血痕がつくことになる達磨を後ろに向かせ、へそくりから一ヶ月分のお金を渡してくれたのだ。

 

藤井はありがたくこれをいただき、それで下宿代を払い、仕送りが入ると妙子に同額を返した。

そして、翌月、司法試験最大の難関、論文試験に合格した。

 

また場面は変わり、借金の話になる。

重治は矢場に借金をしていたが、肝硬変で倒れると、矢場は妙子に借金の返済を迫った。

 

検察は、妙子が返済を逃れるために矢場を文化包丁で殺した悪質な計画殺人だとしたが、藤井は確かに妙子が藤井を殺したが、それは矢場から関係を迫られたための正当防衛であり、計画性はないと主張した。

厳しい戦いになり、藤井は何とか検察の主張を退けていくが、反撃の糸口はなかなか見つからなかった。

 

妙子が関係を迫られたことを証言してくれれば、裁判の結果は変わったかもしれないが、妙子はそれを拒んだ。

結局、争点は矢場の殺害が計画的なのかそうでないのか、その一点だった。

 

藤井は裁判で、掛軸について焦点を当てる。

普段はしまっている家宝とも言うべき掛軸。それを矢場が来るということで居間に飾ったが、そんな大事なものを前にして殺人など出来るのかと主張する。

 

すると、第一審判決は懲役八年の実刑判決だったが、犯行の計画性については言及されず、その点は妙子に有利に働いていたのだ。

藤井は第二審に向けて準備を進めたが、妙子は控訴を取り下げ、それは重治の死を聞いた日だった。

 

場面は変わり、藤井が大学を卒業して四年後、妙子が殺人事件の容疑者として逮捕され、藤井と再会する場面に切り替わる。

藤井は妙子の身を案じたが、妙子は重治の様態、そして借金がどうなっているのかを知りたがった。

 

調査した結果、返済のために家も家財も差し押さえられ、しかも重治の病状は重く、もう長くはないということだった。

妙子にそれを伝え、妙子が弁護士費用を払えないことも考慮して、藤井が弁護人となった。

 

さらに場面は変わり、重治が死んだ時の話になる。

葬儀に参加した藤井だが、親戚ですら重治の死を悼むものはなかった。

 

妙子に訃報を伝えに行くと、妙子は静かに泣き、それから重治の保険金で借金を返済してくれるよう藤井に依頼。

幸いにも、借金は重治の保険金でまかなえる金額だった。

 

最後に藤井はもう少し裁判を頑張らないかと訴えるが、妙子は控訴を取り下げるの一点張り。

泣く妙子に、藤井はそれ以上言う事ができなかった。

 

さらに場面は変わり現代。

 

妙子の裁判を思い出す藤井。

鑑識の結果から、達磨は犯行当時、後ろを向いていたことになるが、それに違和感を覚えていた。

 

達磨に後ろを向かせたのは、この事件以外だと、藤井にへそくりから下宿代を貸してくれた時だ。

あれは、視線を嫌っていたのではないかと藤井は推察する。

 

それはつまり、達磨に見せられないようなことが起きることを、妙子が知っていたことになる。

そこで考えを改める藤井。

 

妙子は家財を差し押さえられたが、掛軸は殺人現場を証明する証拠品として、検察の下にあった。

矢場は時にお金だけではなく、欲しいものを手に入れるために金を貸すことがあった。

 

今回はそれがあの掛軸だったのではないか。

そして、殺人の結果として掛軸に血が飛んだのではなく、血を飛ばすことが殺人の目的だったのだと藤井は気が付く。

 

血痕は表装の地の部分にのみついていて、肝心の絵の部分にはついていない。

犯行現場に血のついた座布団があったのは、絵の部分を座布団でおさえ、血の付いた包丁を振ったのではないかと考える藤井。

 

それなら、妙子が控訴を取り下げた理由が分かる。

重治が死んで保険金が下り、借金を返済することが出来たので、掛軸を奪われる心配もなく、また裁判を長引かせて、掛軸を証拠品として保管させておく必要もなくなったからだった。

 

肝心の掛軸はまだ返ってこない。

還付を希望するのであれば、弁護士の力が必要だと、真実を知ってもまだ妙子の力になろうとする藤井。

 

妙子に思いを馳せる。

彼女は五年の服役の果てに、満願成就を迎えられたのだろうか。

 

 

最後に

 

いかがでしたでしょうか。

人間の黒い感情が見え隠れし、時にそれ相応の罰が下る。

 

冴え渡るブラックユーモアは健在でした。

 

もし未読の方がいれば、ぜひ読んでみてください。

最初から最後まで目が離せないでしょう。

 

満願 (新潮文庫)

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