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『神の値段』ネタバレ解説!あらすじから結末まで!

神の値段 (宝島社文庫)

 

マスコミはおろか関係者すら姿を知らない現代芸術家、川田無名。ある日、唯一無名の正体を知り、世界中で評価される彼の作品を発表してきた画廊経営者の唯子が何者かに殺されてしまう。犯人もわからず、無名の居所も知らない唯子のアシスタントの佐和子は、六億円を超えるとされる無名の傑作を守れるのか―。美術市場の光と影を描く、『このミス』大賞受賞のアート・サスペンスの新機軸。

【「BOOK」データベースより】

 

 

 

ミステリ作品に飢えていた時期があり、個人のブログで紹介されているミステリのおすすめを見ている中で見つけたのが本書です。

感想として、アートの世界が想像と違って面白かったです。しかし、ミステリとしては及第点というところかな?

 

謎解き要素こそありますが、それは本書の肝ではなく、核となるのは「アートとは何か?」を学んでいくところにあると感じました。

それが想像を遥かに超えた面白さだったので、結果として満足しています。

 

今回は、そんな本書の魅力をお伝えしたいと思います。

ネタバレが多大に含まれますので、未読の方はご注意ください。

 

 

 

 

誰も知らない芸術家、川田無名

 

田中佐和子は永井唯子に素質を見出され、唯子が代表を務めるギャラリー(作家の代理となって作品を売る組織)で働いています。

このギャラリーは、川田無名という芸術家から作品を唯一委託されていて、国内外から多くの人間が彼の作品を集めて訪れます。

 

時に自身のコレクションとして、時に転売のために。

ギャラリーは作品の価値を落とさない、さらに高めるために、適切な人間に作品を販売する必要があります。

 

無名は墨を使った作品が特徴で、二十歳の時にニューヨークで注目を集めますがそれは一過性のもので、逃げるように日本に帰国します。

しかし、この十年で中国を中心に爆発的な人気となり、今や芸術に関わるものであれば、誰もが彼の作品を欲しがります。

 

ところが、彼は長らく人前に姿を現したことがなく、その神秘性もこの人気に拍車をかけていました。

彼に会うことができるのは唯子と、作品を保管しているアトリエを統括しているディレクター、土門だけでした。

 

佐和子は後輩の松井(元作家志望、ゲイ)と共に日々唯子に絞られながら、多忙な毎日を過ごしています。

 

 

無名の過去の名作『1959年』

 

ある日、ギャラリーに梱包された作品が届き、唯子はただならぬ様子でそれを開封します。

それは、タイトルのつけられていない、『1959年』に無名が描いた幻ともいえる作品でした。

 

過去に同じような作品が六億円で落札されていて、現在の人気であれば、その倍でもおかしくないほどの作品。

それを唯子は、自分と佐和子、松井だけの秘密だと言いました。

 

佐和子は唯子の態度にただならぬ事情を感じながらも、一方でその作品の持つ圧倒的な魅力に震えていました。

 

 

無名の右腕である唯子の死

 

ところが突然、アトリエのある品川の倉庫で唯子が死んでいるのが発見されました。

呆然とする佐和子。タイミングから考えて、『1959年』と何らかの関係があるのは明白でした。

 

しかし、悲しんでばかりはいられません。

唯子なき今、ギャラリーを取り仕切るのは唯子の夫である佐伯章介であり、専門外の彼をサポートできるのは佐和子だけでした。

 

警察からの取り調べを受けながらも、なんとか日々の業務をこなしていきます。

しかし、どこからか『1959年』の存在が漏れ、世界中の人間から狙われるようになってしまいました。

 

そこで佐伯が考えたのは、香港の大物コレクターであるラディに『1959年』を売ることでした。

佐和子は突然の話に戸惑いますが、とりあえず交渉をしながら考えることにしました。

 

 

『無名の作品の正体』と『謎』

 

事件の捜査も進展しない中、アトリエの職人である師戸(もろと)から折り入って話があると言われ、深夜のアトリエに佐伯と佐和子は向かいます。

そこでまず見たのは、憑りつかれたように電話をする土門の姿でした。

 

彼は無名と電話しているように話していますが、電話の相手など存在しません。

彼は実際のところ、無名の居場所を知らされておらず、その悔しさから妄想を作りだすにまで至っていました。

 

その様子を見られた土門は気が動転し、階段から落下して病院送り。

しかし、師戸が見せたいのはこれだけではありませんでした。

 

師戸たちは実は無名から毎月メールで指示をもらっていて、その緻密な指示通りに作品を生み出しているのでした。

そして、それを写真で送って無名が作品としてどうか判断し、世に送り出しているのでした。

 

しかし、最後に作品にサインを入れる際、無名の作業に立ち会うのは許されていたのは唯子だけでした。

そして、最近届いたメールの中に不可解な記号がありました。

 

それが『DREM A』でした。

 

 

 

オークション

 

調べるうちに、『DREM』が『1959年』のことを指し、『A』が『オークション』を指すことに気が付きました。

つまり、無名はこの作品をオークションにかけてほしかったのです。

 

佐伯とも相談し、無名の意思を尊重することを決め、ラディとの交渉を打ち切り、香港で行われるオークションに出品されることになりました。

その結果、ラディではなく、謎の人物の代理人が二十七ミリオン(日本円で約三十億円)で落札されました。

 

もちろん、アジアのオークション市場最高金額です。

 

 

事件の真相

 

アトリエは閉廊することになりました。

全てが終わったように見えましたが、佐和子の元に送られてきたCD-Rと『1959年』。送り主は無名でした。

 

それが決め手となり、佐和子は唯子殺害の真相に気が付きます。

唯子を殺害したのは、夫である佐伯でした。

 

佐伯は資金難に陥り、ラディと共に不正な金融取引をしていることを唯子に知られてしまい、ラディからは見放されていました。

また正義感の強い唯子は、ラディにもう無名の作品を売らないことを決めていました。

 

この状況をなんとかしたい佐伯は、あることを思いつきます。

それは、『1959年』をラディに売ることで彼の信用を取り戻そうとしたのです。

 

そのために邪魔者である唯子を殺害しました。

しかし、数々の証拠によってもう言い逃れはできず、海外に逃亡する一歩手前で警察に逮捕されました。

 

そして、無名が『1959年』を自身で買い取ったこと、それ自体が無名と唯子による長年の計画でした。

歴史に名を刻むほどの金額で購入することによってアートの世界を知らしめ、マーケットを広げたかったのです。

 

ここで物語は終わりますが、最後に佐和子の元に無名から一言だけの電話がありました。

そう、無名は今も生きているのです。

 

 

『神の値段』とは

 

タイトルについて。

これは、最後に佐和子の父が語っていました。

 

価格と値段には違いがあり、価格は需要と供給のバランスに基づき、客観的なルールから設定されるもの。

対して値段は、本来価格をつけられないものに価格をつけたもの。

 

そして、ここらはあくまで個人的な見解ですが、無名の『1959年』にはこれまでの芸術を圧倒する存在感、魅力があり、それはまさしく神とも呼べる存在でした。

だから今回のオークションの落札金額は、そんな神の値段となったわけです。

 

 

最後に

 

いかがでしたでしょうか。

ミステリーとして考えた場合、提示された条件で真相に辿り着くことが難しく、また真相がある程度予想できてしまうので、冒頭で及第点だと偉そうに書かせていただきました。

 

しかし、僕はこの作品を通じて芸術の価値を決めるもの、そこに価値を見出して情熱を注ぐ人たちの姿に強く感動しました。

それは他の作品では得ることの出来なかった大切な感情です。

 

未読の方がいらっしゃったら、ぜひご自身の目でその感動を味わってみてください。

 

神の値段 (宝島社文庫)

神の値段 (宝島社文庫)