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「サーカスの夜に」ネタバレ感想!あらすじから結末まで!

サーカスの夜に (新潮文庫)

 

両親の離婚でひとりぼっちになった少年は、13歳の誕生日を迎え、憧れのサーカス団・レインボーサーカスに飛び込んだ。ハイヒールで綱の上を歩く元男性の美人綱渡り師、残り物をとびきり美味しい料理に変える名コック、空中ブランコで空を飛ぶ古参ペンギンと、個性豊かな団員達に囲まれて、体の小さな少年は自分の居場所を見つけていく。不自由な世界で自由に生きるための、道標となる物語。

【「BOOK」データベースより】

 

 

 

今回、初めて小川さんの作品を手に取りましたが、絵本も書かれていた方なんですね。

それがこの作品にも表れていて、絵本にも通じる柔らかい雰囲気がとても気に入りました。

 

あと料理の描写がとても細やかで、まるで目の前で見ているかのようなリアリティと感動がありました。

ジブリの食べ物がおいしそうに描かれていると評判だと思いますが、あれに似た感動があります。

 

そんな魅力的な本作について、個人的な感想も入れながらご紹介したいと思います。

ネタバレを含みますので、未読の方はご注意ください。

 

 

 

 

外の世界を知らない少年の冒険

 

読み始めると、いまいち世界観が掴めない状態が続きます。

最初は日本が舞台と勝手に思い込んでいましたが、「グランマ」などの言い回しが外国を思わせ、途中に味噌汁(作中では「ミソシル」)が東洋の飲み物として紹介されていたため、外国が舞台であることが分かります。

 

主人公である少年は、最後まで名前が明かされません。

最後も本名ではなく、サーカスで生きていきための名前を名乗りますが、彼の境遇がなかなか辛い。

 

生まれつき深刻な病気を抱えていた少年。

彼はなんとかその病気を克服しますが、いつの間にか両親は彼の病気によってのみ繋がりを感じていたため、治ると同時に離ればなれになり、少年はグランマに引き取られることになりました。

 

しかし、このグランマとの間柄も確かではなく、父の父の再婚相手、もしくは母の父の再婚相手と曖昧に紹介されています。

どのみち血の繋がりはないとのことですが、優しいグランマの元で少年は暮らしていきます。

 

だが、少年は子供の頃に服用していた薬の副作用によって、ある時期を境に身長が伸びなくなってしまい、十三歳になっても見た目は十歳くらいでした。

グランマは大きくなるようにとたくさん食べさせてくれますが、それでも少年は大きくならず、少年は将来を想像して不安を感じていました。

 

そんな時、少年の心を揺さぶったのが「レインボーサーカス」でした。

昔、両親と一緒に「レインボーサーカス」に行った記憶があり、とても素晴らしいものでした。

 

少年はここで働きたいと決心し、グランマに伝えますが、いかがわしい人間が集まるところだと反対します。

結局、話は平行線を辿り、それでも少年は「レインボーサーカス」で働くことを決意し、グランマの家を出ました。

 

こうして、少年の冒険は始まりました。

 

 

あらゆる境界線から解き放たれた集団

 

これは「レインボーサーカス」の団長の言葉です。

正確には以下の通り。

 

「このサーカスは、自由だ。国籍、宗教、性別、肌の色、年齢、政治的信条、あらゆる境界線から解き放たれている。そして俺達は、平和を愛する」

 

その言葉の通り、このサーカスには様々な人がいます。

手のひらがくっついたまま生まれた双子の姉妹や、性転換して男性から女性になった人など、時に奇異の目で見られてしまう人たちも、このサーカスではありのままの自分でいることが出来ます。

 

小さいからという理由で、少年を馬鹿にする人間はここにはいません。

 

サーカス外の人間からは偏見を持たれたとしても、サーカスでは誰も差別しません。

そんな家族よりも強い絆で結ばれたサーカスの団員たちと触れ合い、少年は様々なことを学んでいきます。

 

ネット環境が発達し、人と人との触れ合いが減ってしまった、冷たいとも感じられる現代では味わえないような心温まる触れ合いが、ここにはあります。

ぜひ、この空気感を楽しんでください。

 

 

登場人物

 

作中では、数多くの人物が登場します。

しかも過去を捨て、好きな食べ物を名前にするという少々独特な習慣があります。

 

そのためどうしても名前とキャラが混同がちなので、ここでまとめてみました。

参考になれば幸いです。

 

ちなみにサーカス団員は団長の血縁者が多く、後は基本的に身寄りのない人や生まれてすぐ捨てられてしまった人で構成されています。

 

 

 

少年(ソリャンカ)

本作の主人公。ソリャンカはグランマの好物のスープで、ウクライナ料理の一つ。ということは、舞台はウクライナ?

 

ローズ

少年を保護してくれた女性。踊り子。薔薇がソウルフード。妊娠していて、作中で元気な男の子を出産する。

 

トロ

ローズの旦那。クラウンを演じる。団長と三代目のマダムとの子供。

 

団長

「レインボーサーカス」を仕切る。かつては誰もが認める猛獣使いだった。妻が今で三人いて、ナターシャが四人目。

 

コック

その名の通り、団員の食事を作っている。かつてはオペラ歌手だったが、ある日突然、声が出なくなってしまい、コックになった。

 

マダム

団長の現在の妻。三代目にあたり、「レインボーサーカス」の名物である「リングリングドーナツ」を作っている。

 

キャビア

サーカスの初めに登場し、生卵のジャグリングを披露する。とても痩せている。

 

チェリー姉妹

トリッパの娘。生後間もなく番外地に捨てられているところを保護された。生まれつき手のひらがくっついているが、あえて分離手術は受けていない。

 

トリッパ

団長と三代目マダムの間の娘。現場をすでに退いている。

 

ナットー

団長の次男で、初代マダムとの子供。二十歳の時に性転換して、女性になった。綱渡りにおいて右に出るものはいない。後に「スーパーサーカス」に移籍し、『ズフラ』と名乗る。

 

ナターシャ

団長の愛人。マダムの死後、四代目のマダムとなる。

 

テンペ

半世紀以上も黙っている菜食主義者。どんな時でもふんどし一丁で過ごしている。常にスマートフォンを持っていて、それで会話する。天空椅子の達人。

 

テキーラ

団長と初代マダムの間に生まれた長男。火吹き芸を担当する。

 

マカロン

キャビアの一人娘。少年に一目惚れされた。

 

クスクス

団長と二代目マダムの娘。優秀な鳥使いだったが、ある事件でライオンの一撃をくらい命を落とした。

 

テリーヌ

クスクスの親友。キャビアの奥さん。ある事件で象に蹴飛ばされ、美人だった顔は見る影もなくなってしまった。整形手術を何度も繰り返しある程度まで戻ったが、常に頭からスカーフをかぶっている。

 

 

以上です。

人数が多く抜けている可能性があるので、もし気が付いた方はご指摘いただけると助かります。

 

 

『生きる』ことが描かれている

 

冒頭で書いた料理の描写もそうですが、日々生きることがどれだけ大変で、その何気ないことがどれだけ幸せかが本作では描かれています。

普通の暮らしはつまらないという方もいるかもしれませんが、僕はそうは思いません。

 

大切な人と過ごし、おいしいご飯を食べ、温かい寝床で寝る。

少年がレインボーサーカスで勝ち取ったこれらは、彼にとってかけがえのないものになりました。

 

ぜひこう空気感を楽しんでもらえたらと思います。

 

 

最後に

 

いかがでしたでしょうか。

そこまで盛り上がりどころがあるわけではないのに、気が付けば最後まで夢中で読んでしまう。

 

そんな魅力が本書にはたくさん詰まっています。

もし未読の方がいたら、ぜひ本書を読んでその魅力を体感してみてください。

 

 

サーカスの夜に (新潮文庫)

サーカスの夜に (新潮文庫)