百本文庫~1年で100冊ご紹介します!~

書評書いてます。年間100冊の紹介が目標。好きなジャンルはミステリー、恋愛、青春。

『【映】アムリタ』ネタバレ感想 野崎まど【著】

[映]アムリタ (メディアワークス文庫 の 1-1)

 

自主制作映画に参加することになった芸大生の二見遭一。その映画は天才と噂されるつかみどころのない性格の女性、最原最早の監督作品だった。最初はその天才という呼び名に半信半疑だったものの、二見は彼女のコンテを読み始めた直後にその魅力にとりつかれ、なんと二日以上もの間読み続けてしまう。彼女が撮る映画、そして彼女自身への興味が二見を撮影へのめりこませていく。そしてついに映画は完成するのだが―。第16回電撃小説大賞“メディアワークス文庫賞”受賞作。

【「BOOK」データベースより】

 

 

 

以前、メディアワークス文庫のおすすめとしてご紹介させていただきましたが、今回はきちんと記事にさせていただきました。

 

www.hyakuhon.com

 

野崎さんの原点と呼べる作品で、ここから派生していく野崎ワールドを楽しむ上で、外すことのないできない本作。

キーワードは『天才』です。

 

完全なネタバレ感想となりますので、未読の方はご注意ください。

 

 

 

 

『アムリタ』とは?

 

本書のタイトルである『アムリタ』。

p.89にて、仏教だかヒンドゥー教だかの神話に出てくる飲み物で、甘露と同じ意味だと説明されています。

 

正確にはインド神話に登場する神秘的な飲み物で、飲む者に不死を与えるとされています。

その魅力から、この飲み物を巡って幾度も争いが起きました。

 

本書では、『アムリタ』と呼ばれる自主作成映画が登場しますが、甘く抗う事のできないほど魅力的な映画という意味で名付けられたと推察できます。

 

 

天才、最原最早の初登場

 

野崎さんの作品で度々登場する『天才』の代名詞である最原最早。

彼女の初登場が、本書です。

 

登場人物として、井の頭芸術大学の学生四人が主要人物となります。

 

本書の視点である、映画学科・役者コース二年の二見遭一。

撮影コース二年、映画学科の華である画素はこび。

撮影コース三年、兼森。

そして、監督コース一年、最原最早。

 

画素と兼森は専攻が被っていますが、兼森が趣味で音楽もやっているということで、彼は音響などを主に担当します。

最早の映画のコンテに大きな可能性を感じた三人が協力する形で、この四人で『月の海』と呼ばれる映画を撮ることになります。

 

しかし、このコンテがすでにただのコンテではなく、画素で5時間、二見に至っては56時間も読み続けてしまうような代物だったのです。

もはや魅力ではなく、やめたくてもやめられない中毒のようなものです。

 

しかも、二見が役者に選ばれた理由。

それは、最早が付き合っていた定本由来という三年生が事故で亡くなり、二見が彼に似ていたからだったのです。

 

二見としたら、複雑どころの話ではありません。

死者を自分に投影されるのですから、これ以上辛いことはありません。

 

しかし、二見はそれでも『月の海』の魅力を信じ、撮影に臨みます。

定本の友人だった兼森も、この件は気にせずに二見に接します。

 

撮影は順調に進んでいきますが、最早には実は別に作りたい映画がありました。

それが『アムリタ』です。

 

最早は『アムリタ』を作るために『月の海』の制作に三人を手伝わせ、それを編集しなおすことで『アムリタ』を制作しようとしていたのです。

なぜそこまで最早は『アムリタ』を制作したかったのか?

 

それは、『アムリタ』を見た人間が、定本由来になるからです。

タイトル通り、定本由来という人間に、不死が与えられるのです。

 

二見は、定本に容姿の似た人間として選ばれたのです。

おまけに二見はこの事実に気が付き、自ら定本になろうとしたところを最早に止められ、付き合うことになりますが、実は本書以前に『アムリタ』を見せられていて、冒頭の段階ですでに精神は定本になっていたのです。

 

最早は、その事実を知った時の二見の表情を見たいために、今回のことを仕組んだと明かしています。

もはや天才ではなく、悪魔といっても良いのかもしれません。

 

最早の予想通り、驚愕する二見ですが、最後に見たら忘れる映画を見せられて、話は終わります。

ここ数日の記憶がなくなるということでしょう。

 

ただし、その後の二見が二見の精神として起きるかは不明です。

『アムリタ』は不可逆的と話していたので、おそらく定本になったということを忘れて、定本となって生きていくのでしょう。

 

この一件を記憶していられるのは、最早と我々読者だけです。

ライトノベルと称しながら、その内容はホラーでありミステリーでした。

 

 

 

映画とは?

 

本書では、映画制作にあたり『映画とは何か?』という議論がなされます。

そこで最早は「その映画を見ただけで、人生を過ごしたのと同じだけの感動を与えればいい」と言ってのけるのです。

 

『アムリタ』という悪魔的な映画を作れてしまう最早ですから、おそらく可能なんでしょう。

しかし、その映画を見た時、僕たちはどうなってしまうのでしょうか?

 

考え出すと怖い。

でも、見てみたい。

 

そんな怖いもの見たさのような魅力を本書に与える、重要なテーマでした。

 

 

二見はいつ定本になった?

 

先ほど書いた通り、実は本書が始まる前に『アムリタ』を見せられ定本になっていた二見ですが、実はそれが読み取れる部分があります。

それは、二見のバイト先で店長と話しているシーンです。

 

p.15にて、映画の感想を述べる二見に対し、二見君がそんな評価をすることもあるんだと感心しています。

二見は、自分の変化に気が付きつつも気にしていませんが、これは明らかに『アムリタ』によって思考が定本になったためだと考えられます。

 

以前は役者の演技のことばかり話していた二見ですが、ここでは一般受けという作品全体を見た上での評価をしています。

これは、以前は役者気質だったものが、定本の監督気質に変わった結果だと考えられます。

 

そういった部分に注意しながら初めから読み直すと、最早の不気味さが何倍にも膨れ上がります。

一度読んで真実を知った方は、ぜひ二度目も読んでみてください。

 

 

最後に

 

いかがでしたでしょうか。

デビューにして読者に衝撃を与えた最原最早ですが、彼女は本書の続編?にあたる『2』にて、その異常性をさらに見せつけてくれます。

2 (メディアワークス文庫)

2 (メディアワークス文庫)

 

 本書を読んではまったという方には、ぜひおすすめです。

 

『天才』について語り、見事に『天才』を描き切った本書は、間違いなく傑作です。

野崎さんの作品の多くには、本書にも通じる怖いもの見たさのような魅力が詰まっていますので、ぜひ他の作品にも挑戦してみてください。

 

[映]アムリタ (メディアワークス文庫 の 1-1)

[映]アムリタ (メディアワークス文庫 の 1-1)

 

 

 

 

最原最早の登場する作品が読みたいという方は、こちらもどうぞ。

www.hyakuhon.com