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『もうひとつの命』ネタバレ解説!あらすじから結末まで!

もうひとつの命 (メディアワークス文庫)

 

あの頃の僕らはまだたくさんの高いものに世界を囲まれて、息苦しさを覚えていた。自由に走り回っているようで、ふと気づくと自分がどこにも行けないような気がして焦り、苛立ち、空を仰いでいた。僕らが『魔女』に出会ったのは、そんなときだった。あれから数年、自殺したはずの稲村が突如生き返った。思い返すのは、例の魔女のこと。あの場に居合わせた僕ら六人は、どうやら命をひとつ分だけ貰っていたらしい。一度だけ復活できる。なら命ひとつ犠牲にして、僕らに何が成し遂げられるだろう。

【「BOOK」データベースより】

 

 

 

 

今年は執筆数の少なかった入間さん。

そして、『安達としまむら』の新刊も出ずがっかりしましたが、その分、百合成分多めです。

 

最近、百合もの多いですよね。

しかし、そんな表面的なものに騙されてはいけません。

 

『たったひとつの、願い』系統といいますか。ファンの方であれば、ピンとくるかもしれません。

青春と謳っていながら、中身は非常に殺伐としています。まあ、命が余分に一つあるという時点で、ある程度予想出来てはいましたが。

 

ということで、今回も色々と謎が残されています。

そこで、分かる範囲ではありますが、解説していきたいと思います。

 

思い切りネタバレですので、未読の方はご注意を。

 

 

 

 

・登場人物たちの末路

 

小学四年生の冬、野外学習で訪れた山で、魔女と出会った六人の少年少女。

彼らは魔女の命を救ったお礼として、命を一つ与えてくれる木の実をもらいます。つまり、一度死んでも、蘇るということです。

 

しかし、ただ蘇るわけではありません。

一度死んだ後、木の実が死んだ体を栄養として新たな命を宿すのですが、その姿や記憶は本人の願いによって決まります。

 

つまり、死んだ人の願いが叶う形で生まれ変わるのです。

ただし寿命は6~7年と短く、相性が良ければ10数年は生きられるという。

 

その性質を利用して、彼らはどんな自分を望んだのでしょうか。

一覧にしてみました。

 

腰越

 

1回目

藤沢に気のある腰越。しかし、藤沢の妹が事故に遭う場面にいた江ノ島は藤沢から恨みを買っていて、常に彼女に怯えていた。

江ノ島が藤沢を見ているところを、腰越は目撃してしまい、以来、彼に暴力をふるうようになった。

 

江ノ島は腰越の暴力に耐えられなくなり、野外学習の最終日、腰越を山から突き落とします。腰越は死んだ。

 

2回目

転落した腰越は魔女の助けも借り、殺されることに異常に怯えながら山で暮らした。

本来の年齢で十七歳の夏、自らの寿命を悟り、その前に江ノ島を殺そうと山を下りた。

 

道中で会った和田塚に誰だと聞かれたことに怒り、彼を刺殺。

その後、江ノ島のもとに辿り着くも、彼は木の実の寿命ですでに死んでいた(木の実から生えた植物に全身を蝕まれ、赤い花を咲かす)。

 

江ノ島と同じ時期に蘇った腰越も例外ではなく、その場で木の実に蝕まれて死んだ。

 

江ノ島

 

 1回目

腰越からの暴力に耐えられず、彼を山から突き落とした。しかし、その場面を藤沢に目撃されてしまい、妹の恨みもあって首を絞められて殺された。

 

2回目

罪から逃れるために、被害者である腰越として蘇った。

しかし、江ノ島としての記憶はなく、自分を腰越だと思い込んでいる。また江ノ島の性格が反映されたのか、気性の激しさはなくなり、大人しくなった。

 

藤沢はその場面を見ていたが、彼には真実を告げず、彼を腰越として扱うようになる。

世間では、江ノ島は行方不明となり、葬儀も執り行われた。

 

その後、腰越として普通に生活していたが、高校二年の夏、木の実の寿命がきて死んだ。

死ぬ間際で、心臓が動いていなかったことに気が付き、ようやく自分がすでに一度死んでいたことを悟った。

 

和田塚

 

1回目

江ノ島への復讐のために山から下りてきた腰越に遭遇。

誰だとたずねたところ、怒った腰越の刃に貫かれて死んだ。

 

2回目

独りで生きたいと願ったことから、復活した世界には誰もいなかった。

正確には街や物は今まで通り、大勢の人がいるように動くが、人影を認識することはできず、また自分も他者から認識されないというもの。

 

 弁当などを盗みながら生き長らえ、両親に気を使った和田塚は腰越(江ノ島)の家に隠れ住むことにした。

誰とも接することのできない日々の中、ある日、台所に千円札が置いてあった。それは腰越と和田塚だけが知っているやりとりであった。(千円払う代わりに、料理を作る)

 

和田塚は腰越の意思を感じ、腰越のために朝食を作る。

すると、それが平らげられるのが見え、見えなくても腰越と繋がったような気がした。

 

以後、和田塚にとって、このやりとりが心の拠り所となった。

その後、死んだ描写はなし。

 

稲村

 

1回目

天才として注目の的だった稲村。

彼女は、幼馴染の七里がそんな自分を畏怖と尊敬の入り混じった目で見てくることが、何よりも好きだった。

 

しかし、魔女をおびき寄せるエサとして藤沢に校舎の屋上から突き落とされ、命を落とした。

 

2回目

もう一度世間から注目され、七里を独り占めしたいと願った稲村。

結果、葬儀場のみんなが見ている前で蘇り、あっという間に蘇った少女として有名になった。

 

しかし、自分がテレビに出ている間に、七里は藤沢を見るようになっていて、邪魔ものの藤沢を殺そうと考えていた。

そこに魔女が現れ、もう一度木の実を食べて、自分が藤沢になればいいと提案。

 

稲村はそれを了承し、自ら校舎の屋上から飛び降りた。

 

3回目

藤沢になった稲村。

藤沢が七里を殺したタイミングで入れ替わり、七里が生まれ変わるのを待つ。

 

しかし、七里は記憶を失っていて、その後藤沢(稲村)とどうなったかは描写されていない。

うまくいけば、街を出て二人で生きていくと思われる。

 

七里

 

1回目

小さい頃から何をやっても藤沢に勝てない七里。

七里は、藤沢が嫌いだった。

 

ところが稲村が死んでから、なぜか自分にすり寄ってくる藤沢。

事あるごとにキスもされ、嫌だと思うのにそれを拒まない自分がいた。

 

徐々に藤沢に夢中になっていく七里だが、蘇った稲村の告白により、稲村を突き落としたのは藤沢だと判明。

大事な稲村を殺した藤沢を許せない七里は、藤沢に命を懸けた決闘を申し込む。

 

しかし敗れ、死んでしまった。

 

2回目

死人が街で生きていることが許せない七里。

それは藤沢を憎む気持ちよりも強力で、生まれ変わると、彼女は一切の記憶を失っていた。(死んだ人間と別人になることを望んだ)

 

よって、藤沢の姿になって七里を独り占めしたかった稲村のあては外れ、藤沢(稲村)を見ても、知らない人だと判断してしまう七里。

その先の描写はない。

 

藤沢

 

彼女は唯一、木の実を食べていない。

過去に妹を失くしていて、姉として生きることをやめるタイミングを失い、天国に行って妹に会いたいと願っていた。

 

魔女に出会った後、魔女なら妹を蘇らせることが出来るかもしれないと考え、稲村を校舎から突き落として殺害。

彼女が蘇って世間から注目を集めることで、存在が露見することを恐れた魔女が向こうから接触してくると考えた。

 

そしてその読みはあたり、魔女は藤沢の前に現れた。

しかし、魔女に妹を蘇らせることは出来ず、あくまで木の実が特殊な力を持っているだけということが分かった。

 

そこで次の手として、誰かに妹になりたいと願うように仕向け、その状態で殺すことで、その人間を妹にしようと画策。

この時点で、まだ一度も死んでいないのは七里だけだった。

 

藤沢はあと一歩のところまで七里の心に入り込むが、蘇った稲村に真実を暴露され失敗。

妹になりたいと思わせる前に、七里を殺してしまった。

 

生きる動機を失った藤沢は、なぜか家に住み着いた魔女と一緒に暮らすことになり、その最後を看取った。

 

 

 

・魔女=藤沢の妹?

 

本書内で明言されているわけではありませんが、妹を思わせる言動や行動がいくつもちりばめられていたため、可能性は高いと思います。

ここでは、そんな伏線をまとめてみました。

 

また以下のサイトも参考にさせていただきました。

とても興味深い内容でしたので、興味のある方はご覧になってみてください。

xxusodakedo.blog83.fc2.com

 

・髪の色

 

赤光を浴びた藤沢の髪には一筋の赤色が走り、かつての魔女を想起させる。

p.60

 

とても分かりやすい表現ですよね。

 

・大人びた態度

 

江ノ島からも藤沢からも大人びているといわれています。

それは、すでに1200年生きてきて、藤沢の妹として生まれ変わったからではないでしょうか?

 

藤沢の妹は様々な夢を見て、最後に死にますが、それはこれまでの前世?の記憶の断片だと思われます。

p.252では過去のことは思い出さないようにしているとありますが、夢という形で現れているのでしょう。

 

そして、何度も生まれ変わっているということは、妹の状態ですでに木の実を食べている。

だから車に轢かれて死んでも、魔女として生き返ることができたのです。

 

・危機感が薄い

 

p.258で当たり前のように赤信号を渡ろうとして、慌てて藤沢に止められる魔女。

何度も死んで1200年も生きてきた彼女にとって、死はもはや恐ろしいものではないのです。

 

この描写、藤沢の妹の場合にも当てはまるのではないでしょうか。

江ノ島の後を追い、彼の注意を無視して轢かれてしまったのは、死に対する危機感が薄かったからではないかと考えます。

 

・藤沢の記憶が曖昧

 

p.217にて、気づいたら妹がいたと言う藤沢。

これって、魔女が願ったことである日突然妹が出来て、それに合わせて記憶が改ざんされたから、いつからいるのか分からないのではないでしょうか。

 

・家の中を把握している魔女

 

p.239にて、雑巾を取りに行く魔女。

しかし、ここは藤沢の家で、本来であれば魔女は雑巾がどこにあるのか知らないはずです。

 

見えていたという可能性も考えられますが、かつて妹で、野外学習の時に藤沢のキスによって記憶が蘇ったという証拠ではないでしょうか。

キスのくだりですが、p.284にて、キスをしたら記憶が戻るかもしれないと藤沢に言う魔女が根拠になっていて、魔女自身が、藤沢のキスによって記憶を取り戻したと考えられます。

 

・妹のことを気にする魔女

 

p.275にて、藤沢の妹がどんな人物かを教えられ、納得するように頷く魔女。

おそらく自分の記憶と照らし合わせ、自分がかつて藤沢の妹であったことを確認しているのだと考えます。

 

・生きる動機

 

p.297にて、生きる動機がない私の話なんてと否定する藤沢に対し、あなたと私が生きている限り終わらないと言う魔女。

それって、自分が妹の生まれ変わりだから、自分がいる限り、藤沢は姉として生きる動機があると言いたかったのではないでしょうか。

 

その後、魔女は生まれ変わらずに赤い花を咲かせますが、これもゆっくりと死んでいくことで妹を失うという実感を藤沢に与え、姉をやめる時間を与えていたのかもしれません。

 

藤沢の願った形とは異なりますが、これでようやく藤沢は妹がいなくても生きていけるのでしょう。

そして、姉が好きだった妹の生まれ変わりである魔女にとって、彼女の願いを叶えることこそが願いだったのかもしれません。

 

 

決め手としてはどれも欠けますが、妹の描写を何度も入れてくるあたり、魔女が妹の生まれ変わりである可能性は十分にあると思います。

 

 

・章タイトルの意味

 

これ、全く分かりませんでした。

死人と赤字で書かれた部分は一度死んだ人間が、そして黒字は生きている人間が語り手であることは間違いないと思いますが、それ以上の法則性は見出せませんでした。

 

ちなみに以下の可能性を検討しましたが、どれも外れでした。

 

・タイトルの『死人』の数だけ死人が登場する

・『死人』=江ノ島 『死人死人』=腰越 のように、特定の人物を表している

・『死人』の数=消費した木の実の数

・『死人』の数=魔女が生まれ変わった回数

・『死人』の数=藤沢が直接的、結果的に殺した人数

 

もし分かった方がいらっしゃれば、ぜひ教えていただけると嬉しいです。

判明したら、この部分は更新したいと思います。

 

 

・最後に

 

いかがでしたでしょうか。

伏線と思われる箇所は数え切れませんが、入間さんの作品の傾向として、大して意味がない部分もありそうなので、これくらいでやめることにしました。

 

物語として単純に面白く、そして伏線を考えながら読むとより一層楽しめる本作。

ぜひ未読だという方は、この記事をいったん忘れて、本書を読んでみてください。

 

もうひとつの命 (メディアワークス文庫)

もうひとつの命 (メディアワークス文庫)

 

 

 

 

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