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伊坂幸太郎好きは必見!『砂漠』あらすじから結末までネタバレ解説!

砂漠 (実業之日本社文庫)

 

今回ご紹介する本は、伊坂幸太郎さんの「砂漠」です。

数週間前に「アイネクライネナハトムジーク」の記事を書いてから伊坂さんの作品の虜になり、そのタイミングで十二年前に単行本として出版された「砂漠」が実業之日本社文庫からあとがきを書き下ろした形で文庫化されるのとは、チープですが運命めいたものを感じました。

 

なので、即買いです。

表紙がライトノベル風だったので一抹の不安を感じましたが、読んでみたら期待して損なし。文句なしの名作です。

 

あとがきで伊坂さんが書いていましたが、ファンの間でこの「砂漠」は特に人気があるそうで、伊坂さんも意外だそうです。

相変わらずキャラ作り、会話のテンポが抜群で、ページをめくる手が止まらない。でもその間に考えさせられる言葉がいくつも出てきて、読む前と読んだ後で心境に大きな変化がありました。

 

色々と書きたいことはありますが、まずはあらすじを。

 

仙台市の大学に進学した春、なにごとにもさめた青年の北村は四人の学生と知り合った。少し軽薄な鳥井、不思議な力が使える南、とびきり美人な東堂、極端に熱くまっすぐな西嶋。麻雀に勤しみ合コンに励み、犯罪者だって追いかける。一瞬で過ぎる日常は、光と痛みと、小さな奇跡でできていた——。小社文庫限定の書き下ろしあとがき収録! 明日の自分が愛おしくなる、一生モノの物語。

【「BOOK」データベースより】

 

 

 

二度目の文庫化

 

一度目は2010年に新潮文庫として、そして今回が二度目です。

 

二度目ということで、若年層を意識してか表紙、あらすじがキャラ重視の内容になり、手に取りやすい仕様になっています。

 

 

五人組という絶妙なバランス

 

メインのキャラクターを増やしすぎると、うまく話が回らなかったり、個性を強調しすぎてくどくなってしまうこともよくありますが、本作はそこが非常に絶妙なバランスを誇っています。

五人誰をとってもいい味を出していて、誰と誰を組み合わせても話としてうまく成り立つところが良い。

 

熱くなる西嶋に適当だけど指針を示してくれる鳥井。

東堂はいいアクセントになり、南はみんなの間のクッションになってくれる。

そして鳥瞰図として全体を捉えられる北村が、みんなをフォローする。

 

とてもいいバランスだと思います。

そして最初の飲み会の時の印象が、物語の進行に合わせてどんどん変わっていくところも良かったです。

 

そこに恋愛も絡めていきますが、それでもこのバランスは崩れません。

固い絆で結ばれていることがよく分かります。

 

 

社会という砂漠

 

大学生という年齢的には大人なんだけど、社会という道しるべのない砂漠に放り出される前の彼らが成長していく姿は、むしろ社会人になってから読んで本当に良かったと思います。

特に最後の学長の「学生時代を思い出して懐かしがるのはいいけれど、あの頃に戻りたいと思ってはいけない」という言葉に、思わず自分のこれまでを振り返ってしまう人もいるはず。

 

最近だと、棋士から芸能界入りした加藤一二三さんは、人生最高の瞬間はこれから訪れるとおっしゃっていて、すごく良い考え方だと思いました。

大変なことも多いですけど、その中からしっかり幸せを見つけたいですよね。

 

 

と、まあ。

当たり障りのない感想はここまでにして。

 

以下、ネタバレです。

未読の方はご注意ください。

 

 

 

 

南の超能力

 

南は小さい頃からスプーンを曲げたり、物を動かすといったいわゆる超能力の持ち主です。トリックなし、正真正銘の超能力で、過去には車さえ動かしてしまうほど超パワーです。

 

てっきり学園祭の超能力を見破る話でオチがついたと勘違いしていましたが、しかし大オチがさらに待っていたのには「その手があったか!」と感心してしまいました。

四年に一度という言葉を軽視していました。

 

そして車ではなく、車種を念じないと動かないあたりがシュールですよね。

最後の車種も、伊坂さんは悩まれたんですかね? 気になります。

 

 

ジョー・ストラマーとジョーイ・ラモーン

 

西嶋が事あるごとに彼らの名前を出しますが、ジョー・ストラマーはクラッシュ(正式にはザ・クラッシュ)というバンドのボーカルで、ジョーイ・ラモーンはラモーンズのボーカルです。

どちらも偉大なパンクロックバンドで、西嶋はよく彼らの名言を借りています。

 

東堂はそんな西嶋のことが好きになり、夜遅いにも関わらずすぐにCDショップでラモーンズのCDを買うところが、気持ちに素直でとても良かったです。

東堂も西嶋も自分の気持ちに素直なところが似ていて、どちらもかっこいいですよね。

 

東堂の車でラモーンズの曲がかかるところもしっかり活かされていて、思わずyoutubeで聞いてしまいました。

 

www.youtube.com

 

そして地味に気に入っているのが、みんながジョーイ・ラモーンの話で盛り上がっている中で、南が「でも、死んじゃったんだ? 動かなかったのに」と寂しそうにしているシーンです(p.53)

 

 

なんてことは、まるでない

 

北村の性格を象徴するようなセリフです。彼は良く言えば周りが良く見えていますが、それは冷めてるともとれます。

そんな北村ですが、徐々に体の奥から沸々と湧き上がる喜びや怒りを表現するようになり、主に東堂や彼女の鳩麦さんに変わったと褒められて?います。

 

しまいには目を離すと北村が何かしでかす、とまで思われています。

北村は読者の目線でもあるので、成長を感じにくいところがありますが、しっかりと大学生活の中で成長したんですね。

 

そして最後のページで、みんなが就職(西嶋は留年)を機にばらばらになることを予想していて、そこで「なんてことはまるでない、はず」と濁しています。

それ以降のことは作中では描かれていませんが、北村のばらばらになりたくないという願望が込められているが、それでもばらばらになってしまうのかなと予感させられます。

 

最後の最後で、輝かしい青春に幕を下ろされたような、寂しい気持ちになるラストでした。

 

 

砂漠に雪を降らす

 

西嶋が不可能なことをやってのけるという意志を表した表現です。

しかし、この言葉に対して伊坂さんの思い入れはないそうで、砂漠に雨は降りそうだから雪にしておこうと、単純な思いつきで決まったそうです。

 

ところが、2016年12月にサハラ砂漠に本当に雪が降り、しかも積もったそうです。

11年の時を経て、西嶋がやってのけたのでしょうか? 彼はやっぱりやる男ですね。

 

これには伊坂さんも驚き、このタイトルにして良かったと、ほっと胸をなでおろしているはずです。

 

 

 

そこからかよー

 

鳥井が主に無知な北村、西嶋に対して使うツッコミのようなもの。何度も出てくるので親しみがわき、後には場面の空気をがらっと変えるほどのパワーを発揮するセリフです。

左腕が失って、ページをめくるのが辛い話もありましたが、南やみんなの支えもあって立ち直り、前と同じようにこの言葉を言える鳥井に感動してしまいました。

 

 

莞爾と北村のやりとり

 

事あるごとに北村に声を掛けてきて、主に東堂の様子をうかがう莞爾でしたが、最後に「本当はおまえたちみたいなのと、仲間でいたかったんだよな」という言葉に、胸が苦しくなってしまいました。

ノリが軽くいまいち好きなれなかった莞爾でしたが、自分がどう思われているか分かった上でああいう態度をとれるのは、それはそれでかっこいいと見直してしまいました。

 

もし彼らがこの先にまた交わることがあるのなら、そこにちょっとでも良いから莞爾が入ったらいいなと、思わずにはいられませんでした。

 

 

坂口安吾

 

西嶋の発言などにしばしば登場する昭和の戦前・戦後に活躍した近現代日本文学を代表する作家の一人で、わりと最近では彼の作品をモチーフにしたアニメ「UN-GO」など聞いたことがある人もいるかもしれない。

 

「一心不乱に、オレのイノチを打ち込んだ仕事をやりとげればそれでいいのだ」と口にし、ボーリングに臨む西嶋ですが、これは彼の作品である「夜長姫と耳男」から抜粋されたものだ。

 

 

夜長姫と耳男 (岩波現代文庫)

夜長姫と耳男 (岩波現代文庫)

 

 

 

三島由紀夫

 

政治について叫んでいる人たちを見かけた時に、西嶋が出した名前。戦後の日本文学界を代表する作家の一人であり、ノーベル文学賞候補に挙がるなど、海外においても認められた作家。

 

彼は自衛隊市ヶ谷駐屯地で、クーデターを促す演説をしたが誰も賛同せず、割腹自殺をした。

死ぬ覚悟で臨んでも人を変えるのは難しいという意味合いで出されたが、彼の演説によって新右翼が生まれるなど、大きな衝撃を与えたことは間違いない。

 

 

東堂の記憶力

 

p.259で鳩麦さんが「東堂という名字だから、ものすごく記憶力が良かったりして?」いい、それに対して東堂は「ええ。『忘れました』とは絶対に言いません」と答えている。

 

これは大西巨人の代表作である長編小説「神聖喜劇」に登場する東堂太郎のことを指していて、彼は凄まじい記憶力を誇っていることからこの会話になっています。

気になる方は漫画もあるようなので、宜しければご覧ください。

 

神聖喜劇 第一巻 (幻冬舎単行本)

神聖喜劇 第一巻 (幻冬舎単行本)

 

 

サン=テグジュペリ

 

正式にはアントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ。フランスの作家。

西嶋は高校時代、万引きで警察に捕まり、家庭裁判所に送られたことがあった。そこの調停官からサン=テグジュペリの本をもらったというエピソードで、西嶋がもらった本は『僕が泣いているのは、自分のことでなんかじゃない!』というセリフから「人間の土地」であることが分かります。

 

また学長が最後に言った「人間にとって最大の贅沢とは、人間関係における贅沢のことである」も、同書からの引用です。

 

 

人間の土地 (新潮文庫)

人間の土地 (新潮文庫)

 

 

 

南極物語

 

西嶋が麻雀にて、力を貸してほしいと犬の名前を挙げているが、これは南極物語にて、南極に取り残された犬たちの名前です。

詳しい内容は書きませんが、第一越冬隊と第二越冬隊の交代がうまくいかず、小型飛行機の重量オーバーの関係で十五頭の樺太犬が鎖に繋がれたまま、取り残されてしまったというエピソードです。

 

この件で南極観測隊は強く非難されましたが、その後、奇跡的にタロとジロという二頭の犬が生還しています。

 

こんなシリアスな内容ですが、西嶋はこれを麻雀の「南」を引くために引用しているのですから、大したやつです。

まあ、不謹慎と捉えられても仕方ありませんが。

 

 

最後に

 

伏線ではないものも多く、流し読みしながら探したので、時間のある時にもっとネタを探してみたいと思います。

こうやって見ると、一つの作品を通じて様々な出会いがあって面白いですよね。

 

一度読み終わると、また違った印象で物語を読み進めることが出来るので、時間のある方はぜひ再読をおすすめします。

長文にお付き合いいただき、ありがとうございました。

 

 

砂漠 (実業之日本社文庫)

砂漠 (実業之日本社文庫)

 

 

 

 

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