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話のオチをネタバレ解説!『儚い羊たちの祝宴』あらすじから結末まで!

儚い羊たちの祝宴 (新潮文庫)

 

米澤穂信さんというと、氷菓を思い浮かべる人も多いと思いますが、それだけではありません。

始めは青春小説を中心に執筆していましたが、途中からその枠組みを超えて人間の闇などホラー要素が入った小説を数多く執筆されている小説家です。

 

この「儚い羊たちの祝宴」もその一冊です。

裏表紙では暗黒ミステリと紹介されています。

 

夢想家のお嬢様たちが集う読書サークル「バベルの会」。夏合宿の二日前、会員の丹山吹子の屋敷で惨劇が起こる。翌年も翌々年も同日に吹子の近親者が殺害され、四年目にはさらに凄惨な事件が。優雅な「バベルの会」をめぐる邪悪な五つの事件。甘美なまでの語り口が、ともすれば暗い微笑を誘い、最後に明かされる残酷なまでの真実が、脳髄を冷たく痺れさせる。米澤流暗黒ミステリの真骨頂。

 

【「Book」データベースより】

 

 

 最後の一行がすごい!

 

本書最大の魅力は、最後の一行にあります。

その一行のために、この物語が作られたといっても過言ではなく、その言葉を理解した時、背筋が凍りつくような戦慄を覚えること間違いなしです。

 

ちなみに、僕のおすすめは他の方からも評価の高い『玉野五十鈴の誉れ』です。

最後の一行の意味に気が付いた時の衝撃は、他の短編に比べて群を抜いていました。

 

 

犯人の心情を楽しむミステリー

 

登場人物も少なく事件も非常に単純なので、犯人はすぐに分かります。

謎解きを楽しみたいという人には物足りないかもしれません。

 

しかし、本書の魅力はそこではなく、犯人がそこに至った動機、心境の変化にあります。

ここではまだネタバレは避けますが、動機が「そんなことで?」と言いたくなるほど軽いんですよ。

 

そして、米澤さんもわざとそう書いていて、読者からのツッコミを待っているそうです。

落語みたいな側面もある、非常にバラエティに富んだ作品になっています。

 

読み進めていくにつれて、辺りに漂う不穏な空気に心臓が高鳴り、ページをめくる手が止まらなくなること必至です。

ホラー要素はありますが、具体的に残酷な描写があるわけではないので、そういうジャンルが苦手な方も、もし興味があればぜひ手にとってみてください。

 

この記事では、そんな本書の魅力をあらすじや個人的な感想を交えながら書いていきたいと思います。

ネタバレになりますので、未読の方はご注意下さい。

 

 

 

 

 

 

「身内に不幸がありまして」

 

親がおらず、孤児院で育った村里夕日。

五歳の時、彼女は名家の丹山家に引き取られ、そこで丹山吹子と出会います。

この話は夕日の手記という体裁をとっていて、吹子とその身の回りの世話を任された夕日が中心となって話が進みます。

 

夕日は使用人のような立場ですが、吹子と友人のように接し、家族にも打ち明けられない秘密を二人で共有していきます。

ここで数多くの本が登場しますが、一見関係なさそうに見えて実は「眠り」というキーワードが共通していて、ここには重大な秘密が・・・

 

 

吹子には兄の宗太がいますが、こいつの素行が悪い。丹山家の名を汚す恐れのある宗太が跡取りに選ばれるわけもなく、必然的にその役目は妹の吹子に回ってきます。

そのため吹子は丹山家の名を汚さぬように外ではもちろんのこと、使用人たちがいる家の中でも完璧な振る舞いを求められ、それに応えていきます。

そして、ついに宗太は勘当されてしまうのです。

 

唯一心を許せるのは夕日だけでした(少なくとも夕日はそう思っています)。

 

大学生になった吹子は屋敷を出て、一人暮らしを始めます。

大学では「バベルの会」という読書サークルに入り、楽しんでいる様子。「バベルの会」では夏休みの最中、毎年八月一日から避暑を兼ねて蓼沼に別荘を借り、読書会を行っていて、吹子はこれをとても楽しみにしているようでした。夕日はそんな吹子に辛さを感じてしまうのです。

 

しかし、そんな日々を壊すように読書会の二日前に宗太が復讐のために屋敷に乗り込んできて、使用人たちを殺傷していきます。

これを吹子と夕日が撃退し難を逃れますが、評判を気にした丹山家は宗太が亡くなったことにし、葬式を執り行いました。

当然吹子もこれに参加し、喪に服さなければいけません。結局、読書会には参加できませんでした。

 

この事件をきっかけに丹山家ではさらに二年連続で宗太の命日に殺人事件が起こり、どれも宗太の時と同様、外聞を気にした丹山家によって病死として隠蔽されてしまいます。

ここで一同の脳裏に宗太がよぎるのです。

 

しかし、夕日は違いました。

寝相の悪さなどから自分が寝ている間に何かをしてしまっているのではないかと恐怖に駆られ、さらに翌年の宗太の命日の前日、犯行ができないように自分の体を縛って眠りにつきます。

 

ここで手記の目線が夕日から吹子に変わります。

 

吹子の手記によって語られる真実。真相はあっけないほど簡単で、二人とも吹子が殺したのです。そして、三年目に夕日も殺害します。

理由は夕日と同じで、吹子も眠りを恐れていたからです。ここで吹子の書斎に置かれた本に隠された伏線が回収されます。

 

名家の跡取りとして完璧を求めれていた吹子にとって、眠りは無防備で我を忘れる時間に他なりません。万が一を考えると、他人と一緒に眠ることなど考えられません。

勘の良い方はもう気が付いたと思いますが、そんな吹子にとって、読書会で学友たちと一緒に夜を過ごすなど出来るはずがないのです。

 

そこで吹子が考えたのが、毎年この時期に誰か一人を殺し、すでに当主によって始末されたと思われる宗太に罪をなすりつけ、喪に服すことを理由に読書会を断るという方法でした。

なにそれ。怖い。

 

吹子にとってバベルの会を欠席する理由になるのであれば、人を殺すことなどなんてことなかったのです。

そして、夕日の手記を利用して今までの殺人を全て夕日になすりつけ、吹子は「バベルの会」の会長に電話するのです。

 

「会長、実は——。身内に不幸がありまして」

 

来ると分かっていても、目が離せませんでした。

決して珍しくない風景だからこそ、狂気がより一層どす黒く感じますね。

 

最後の話の後で改めて考察しますが、僕の推測では吹子は読書会に結局一度も参加していないため、死なずに生き残ったと考えられます。

 

 

「北の館の罪人」

 

 わたし、内名あまりは母親が死ぬ直前に六綱の家に行くよう言われ、母が死ぬとその言いつけに従って六綱家を訪れます。

あまりは母と前当主の六綱虎一郎との間にできた妾の子だったのです。今後の身の振り方を現当主の光次に聞かれたあまりは小切手ではなくここで住むことを選び、六綱家の名を汚さぬよう別館に住まうことになりました。そこで命じられたのは、別館で暮らす光次の兄、早太郎のお世話と、早太郎をこの別館から出さないことでした。

 

本来であれば長男の早太郎が六綱を継ぐはずなのに、なぜこんな待遇なのか?

 

疑問に思いながらも、あまりは日々を過ごしていきます。

やがて、あまりは早太郎から事あるごとに買い物を頼まれるようになりました。

脈絡のない買い物に光次は疑いの目を向け、あまりも不思議に思いますが、言われた通りのものを早太郎に渡し続けます。

 

そんなある日、普段は決して別館に来ることのない光次が早太郎と話している場面に遭遇し、そこで真実を知ります。

六綱を継いですぐの早太郎は何者かに乗っていたヨットを転覆させられ、死んだと思われていました。しかし光次が当主になったあとに奇跡的に生きて帰ってきましたが、現状では早太郎は厄介の種に他なりません。

そこで誰にも見つからないように別館に閉じ込められていたというのです。

 

真実を知り、それでも早太郎のお願いは続き、あまりもそれに従います。

やがて今までのお使いで頼まれていたものは絵の道具だと判明し、早太郎が一枚の絵を見せてくれます。

 

三人の人間が描かれた、紫に近いどこまでも青の絵。

描かれている人物は早太郎と光次、その妹の詠子でした。

 

しかし、このところ体調の優れなかった早太郎は絵を描きあげて満足したのか、程なくして亡くなってしまいます。

絵は早太郎の希望で本館に飾られることになりますが、光次が絵に髪の毛が塗りこめられていることに気が付きます。

 

また「バベルの会」の会員である詠子はこの絵に使われている青の塗料が褪せやすいことを指摘し、やがて絵の色は青から赤に変わり、夕焼けに変わるのだと推論しました。

またあまりを描いた絵が別にあることもあまりの口から語られます。

 

そして、ここからが真実。

早太郎は、あまりが毒殺したことが本人の心情で語られます。

昔、鼠の駆除に使った砒素を用いたのです。

 

理由も単純で、虎一郎が亡くなった時の遺産が早太郎の分だけ減ってしまうから。

あと、恵まれた地位を簡単に捨ててしまえる早太郎が殺したいほどに嫌いだから。

 

分かりやすいっ。

欲まみれです。

前の話でもそうですが、一見善良そうに見えても、みんな心の奥底には狂気を秘めているところが怖いんですよ。

 

しかしそのことに早太郎も気が付いていて、真実を伝えるためにわざと絵の中に自分の髪を塗り込みました。

砒素は髪にたまりますからね。

 

当然あまりも早太郎の思惑に気が付いていて、後で髪の毛を処理しようと考えます。

しかし、ここであまりにも誤算がありました。

 

あまりを描いたというもう一つの絵。

よく見ると、絵に描かれたあまりは紫の手袋をしています。

 

「殺人者は赤い手をしている。しかし彼らは手袋をしている」

 

早太郎の言葉が蘇ります。

そう、この絵もやがて青色が褪せ、その手は赤く染まるのです。殺人者の手に。

 

最後に詠子がこの絵を目撃し、いずれあまりの手が赤くなることを発言します。

理由も知らずに・・・

 

話はここで終わっていますが、絵を見てしまった詠子はこの後殺されてしまうのでしょうか?

殺しても今度は詠子を殺したことを隠さなければならず、どう転んでもあまりに明るい未来は待っていないように感じますが・・・

 

人間の執念が感じられたお話です。

 

 

 

「山荘秘聞」

 

辰野という貿易商が所有する八垣内にある「飛鶏館」。

屋島守子は以前雇われていた前降家を離れ、新たに辰野に雇われて飛鶏館の管理を任されます。

 

最初は麓の集落まで車で一時間もかかる飛鶏館はあまりに遠すぎるとこの仕事を断るつもりでしたが、一目見て飛鶏館に見惚れ、この仕事を受けることにしました。

 

屋島は丹念に飛鶏館を手入れしますが、一人の来客もないまま一年が過ぎました。

お客様をもてなす喜びを知る屋島はそれを不満に思い、また美しい飛鶏館を自分一人にしか披露できないことが堪りませんでした。

 

回想で以前雇われていた前降家での様々なシーンが甦ります。

ここで前降家のお嬢様が「バベルの会」に所属していたことが分かります。屋島は読書会にも参加したことがあり、気品溢れるお嬢様たちのお世話をできたことを誇りに感じていました。

 

誰でも良いからお客様を迎えたいと思った屋島は、麓の町で知り合った猟師に飛鶏館を訪れるよう頼みます。

口約束は信じられないと、手付け金も渡して。

 

気持ちは分かるけど、僕だったら逆に怪しく感じてしまいますが・・・

 

猟師をもてなし、その後約束していた猟銃をもらうと、危険な事態に備えるという名目で熊が辺りにいないか探し始めます。

そこで登山中に雪を踏み抜いて意識を失っている越智靖巳を助けます。

 

彼は凍傷にかかり、全身傷だらけ。それでも屋島の介抱によって一命を取り留めました。

屋島はしばらく養生していくよう勧めますが、山岳部の仲間が助けに来るからと越智は言います。

 

屋島の脳裏にある案が思い浮かびます。

 

越智の話通り、翌日には山岳部の仲間が越智を探しに飛鶏館を訪れます。

しかし、屋島は何も知らないと嘘をつき、越智の捜索に役立ててほしいと飛鶏館の提供を申し出ます。

 

越智の存在を隠した理由。

それは飛鶏館にお客様を迎え入れるためです。

越智が見つからなければ、捜索隊は飛鶏館を拠点に活動するしかありませんからね。

 

嘘をついたことによる罪悪感なんてありません。

屋島にとって、お客様をもてなすことが最上の喜びであり、それ以外はどうでも良いのです。

 

当然、越智は見つかるわけもなく、捜索は難航します。

捜索隊のお世話に人手が足りなくなったため、近くの別荘の管理人夫婦の娘、歌川ゆき子を迎え、今まで以上にお客様をもてなします。

 

捜索が進み越智の身に付けていたものこそ見つかりますが、肝心の越智だけが見つかりません。

やがて捜索費が越智の実家の負担になることを理由に捜索は中止することになり、引き留めることなどできない屋島はそれを見送ります。

 

二人きり(ゆき子からしたら)になった屋島とゆき子。

そこでゆき子は屋島への不信感を露にします。

 

必要以上に多く用意したベッド。

左右一組であるはずのアイゼンが片方だけ見つかったこと。

ベッドは捜索隊の分しかなく、越智が見つかって運び込まれる可能性が考慮されていないこと。

しまいには屋島が外で越智の履いていた靴を使って足跡をつけている所を見たと言います。

 

ここまで明確に犯人が分かるのも珍しいですよね。

でも、終始落ち着いた様子の屋島さんが逆に不気味です。不穏なBGMが聞こえてきそうです。

 

ゆき子さん、危ないよ!

 

真実を暴露されあっさりと認める屋島。

ナイフのような抜く音としか表現されていませんが、おそらくナイフで抵抗するゆき子。

 

屋島の手にはずっしりと重い、煉瓦のような塊が握られています。

それってもはや煉瓦では?

 

でも触れれば切れそうという表現があり、屋島は口約束が信用できずに手付け金を渡すシーンがあったため、もしかしたら札束という可能性もあります。

ともかく、それでゆき子の沈黙を買うことにしました。

 

そしてこんなことがあっても全く表に出てこなかった越智ですが、彼は防音設備が施されたレコード室に寝かされていたため、ここまでの騒動に気が付かなかったのです。

ここでゆき子にも屋島は言及しており、ずいぶんと悩んだが今頃は喜んでいるだろうという言葉から、やはり煉瓦ではなく札束だったのでしょう。

ゆき子はヒマラヤに行きたいといっていたので、この資金を元手に夢を叶えるのでしょう。沈黙=買収ということですね。

 

そして越智にも捜索隊が来ていたことなど全て暴露した上で、同じく買収します。

戻っても捜索費の返済で苦しむだけだから、それであればこの金をやるからここでの出来事は口外しないように、と。

 

大金を前に越智の喉がごくりと鳴り。

屋島は言います。

 

「これで、あなたの沈黙を買いましょう」

 

短編五編の中で最もバベルの会との繋がりが薄い話であり、買収という形で締めくくる辺りがちょっともの足りなく感じてしまいました。

いや、ここまでが異常過ぎたのかな?

 

 

「玉野五十鈴の誉れ」

 

高台寺という土地の一帯に君臨する小栗家は跡取りとなる男の子の誕生が望まれていたが、生まれたのは女の子の小栗純香であった。

その境遇のせいで小栗家の王として振る舞う祖母から容赦のない仕打ちを受け育つこととなった。

 

純香の母は跡取りを生めない責任から魂の抜かれた人形に成り果て、祖母の言いなりに。

純香はこのまま男子が生まれなければ跡取りとなるため、日々の振る舞いから交友関係まで全て祖母の言いつけを守らされ、いずれ自分も母のようになってしまうのではないかと覚えながら暮らします。

 

そんなある日、そろそろ人を使うことを覚えなければならないと祖母は純香の同い年の女の子をよこします。

それが玉野五十鈴でした。

 

厳しい祖母にも認められた五十鈴は、使用人として小栗家に仕えることになります。

純香は他人行儀な五十鈴に困惑しつつも友人になりたいと思い、五十鈴もその思いに応えるように純香様と呼びます。

 

五十鈴が現れてから純香の人生は幸せに包まれました。

祖母の許した本しか読んではいけない純香でしたが、内緒で五十鈴の呼んでいる本と自分の本を交換するなど秘密を共有していきます。

 

女が学問などと考えていた祖母ですが、五十鈴から狡猾さを学んだ純香は言葉巧みに祖母を説得し大学に通うこと、そして高台寺を離れて五十鈴と二人で暮らすことを許してもらいました。

祖母のことを知ったつもりで、この時は勝ち誇っていました。

 

大学ではバベルの会に所属し、これまで以上の幸福を得ていきます。

会員からは五十鈴のすごさを認められ、純香も誇らしく思います。

 

また五十鈴は実は料理だけはどうしても苦手で、五十鈴に何かを教えることができることにも純香は喜びを覚えます。

米を炊くコツとして「始めちょろちょろ、中ぱっぱ。赤子泣いても蓋取るな」と教えるのです。

 

バベルの会での読書会を楽しみにしていた純香ですが、ある日、純香の伯父である蜂谷大六が人を殺したという新聞記事を見つけます。

時は同じくして祖母からの帰るよう電報が届き、ここから純香の人生は地獄に向かって急降下していきます。

 

殺人犯の血の通った純香に小栗家を継がせるわけにはいかないと祖母はいい、父は家を追い出され、純香は跡取りが生まれるまで屋敷内に幽閉されることとなります。

さらに純香にとって辛かったのが、五十鈴が純香と仲良くしていたのはあくまで純香の父が仲良くしてほしいと頼んだからであり、純香には何の情もないということが分かったことです。

 

帰る場所のない五十鈴にとって小栗家にすがるしかなく、純香の父がいなくなった今、祖母の言いつけは絶対なのです。

ここまで築いてきた時間を考えると、純香の絶望は計り知れません。

 

無意味な時間が過ぎ、やがて母親が再婚します。

五十鈴が一度も訪れないことだけが気がかりで意を決して部屋を訪れた使用人に聞くと、五十鈴が調理場で使用人たちにすら馬鹿にされながら働いていることを知ります。そして、母親が太白という男子を生んだことを知りました。

 

つまり、純香の存在価値はこれをもってなくなったのです。

 

ある日、いつものように食事が運ばれてきたかと思うと、その人は五十鈴でした。

持ってきたのは毒酒で、祖母の言いつけで憂いを断つために純香をいよいよ殺そうということです。

 

しかし、純香はこれを拒否し、毒酒を捨てます。

それから純香の食事はさらに減らされ、もはや命も風前の灯でした。

 

ところが、ここでまたしても事態が急変します。

衰弱しきっていた純香は母と追い出されたはずの父に救われることになりました。祖母が死んだからです。

 

太白が誤って焼却炉に入ってしまい、そのまま蓋を閉じられて骨になるまで焼かれたため、祖母はそれが原因でショック死したようです。

またこの時の騒動で使用人は一人残らず家を出てしまい、五十鈴もいなくなってしまったということでした。

 

父も母も純香が無事だったことを喜び、この事件を気にも留めませんでしたが、純香は床に伏している間中ずっと考えました。

 

なぜ祖母は急に亡くなったのか。

捨てた毒酒を拾ったのは誰か。

いくら赤ん坊でも焼却炉にゴミがあれば悪臭で誤っても入ることはない。ゴミはまだなかったのでは?

父は太白は焼却炉の中で眠っていたと言っていたが、本当は開かない蓋の内側で泣いていたのではないか?

 

ここまで考え、純香は気が付きます。

だって五十鈴は一度たりとも純香の望みを叶えられなかったことなどなかったのだから。彼女自身が言っていた、それこそが彼女の誉れなのだから。

 

純香は弱った体を起こし、強張った頬でぎこちなく笑います。

耳には五十鈴の歌声が蘇ります。

 

「始めちょろちょろ、中ぱっぱ。赤子泣いても蓋取るな」

 

もう分かりましたよね。

五十鈴が祖母に毒を盛り、太白を焼却炉で焼いたのです。純香の教え通りに。

 

実行した五十鈴も狂っていますが、この考えに至り嬉しく思った純香も狂ってしまったのでしょう。

辛い境遇が二人の絆をより強固にし、同じ狂気に身を落とすことになりました。

 

五十鈴を呼び戻すとありますが、この後二人は再会できたのでしょうか。

もし再会できたとして、二人が笑いあう姿を想像してみてください。

 

——ねえ、怖くないですか?

 

 

 

「儚い羊たちの晩餐」

 

バベルの会で使用していたと思われる場所は荒れ果て、そこに一人の女学生が訪れる。

円卓には本が置かれていて、めくると「バベルの会はこうして消滅した」という書き出しがあり、そこには物語が綴られていた。

 

この手記は大寺鞠絵のもので、彼女は会費が払えなかったばかりにバベルの会を除名されたのだという。

鞠絵はなんとか父親にお金を払ってくれるよう説得しようとするが、父親は厨娘という特別な料理人を雇えることを自慢するばかりで、鞠絵の話にはろくに取り合わなかった。

 

欲にまみれた父親は会費すらも惜しんでいたが、鞠絵が名家と関係作りが出来ることを言うと手のひらを返すように喜んでお金を差し出しました。

ここで会員に六綱、丹山がいることが語られるので、六綱詠子、丹山吹子が在籍していることが推察されます。

 

そのお金を持って会長に掛け合う鞠絵ですが、会長には取り合ってもらえませんでした。

 

数日して、厨娘の夏という女性と見習いの文(あや)がやってきます。

厨娘とは宴の料理を作ることが専門で、大寺家に住み込みで働くことになりました。

 

厨娘を使いこなせることを証明したい父親は早速宴を開き、夏に料理を作らせます。

人前で手並みを披露することも役目だと夏は進言しますが、前の主人と比較されたことに怒った父親は厨房で調理するよう命じます。

 

噂通りとてもおいしい料理が並びましたが、後日請求された金額は尋常じゃなく高額でした。

出された料理の何十倍もの食材に一同目を剥きますが、金持ちは気持ちよく金を払うものだと父親は気にもしません。心づけも払わされます。

 

またある日、鞠絵は再度会長にバベルの会に入れてもらえるようお願いするが、やはり断られてしまいます。

しかし、理由はお金のせいではありませんでした。

 

元々ただの読書会だったバベルの会でしたが、次第に別の側面を持っていきます。

バベルの会は幻想と現実とを混乱してしまう、夢想家たちの聖域であり、何気ない現実に幻想を見出していたのです。

 

その点において名家との関係作りが目的の鞠絵は実際家であり、バベルの会に入る資格はないというのです。

これには鞠絵も納得せざるを得ませんでした。しかし、今の自分であればその資格があると鞠絵は思いますが、それを言い出すことはできませんでした。

 

ここから鞠絵の精神は錯乱していきます。

自分が実際家ではない、夢想家であることを証明したいのです。

 

父親はというと、いい加減夏からの異常な請求額に不満を覚え、しかしまだ誰も夏に作らせたことのない珍しい料理を作らせたいと躍起になります。

そこで鞠絵が勧めたのが「アミルスタン羊」でした。

 

本来であれば質の良いアミルスタン羊を入手するのに三年はかかると言われますが、鞠絵は夏の蓼沼にアミルスタン羊が集まることを教え、夏はアミルスタン羊の意味を理解しつつもそれを入手するために旅立ちます。

ここで出てくるアミルスタン羊ですが、元ネタはスタンリイ・エリンの「特別料理」で、とあるレストランでは滅多に食べられない特別料理があり、それがアミルスタン羊という特別な羊なんだそう。

 

特別料理 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

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なんやかんやあり、最後は紳士が絶対に入ってはいけない厨房を覗くところで話は終わりますが、要はアミルスタン羊=人肉ということです。

ミステリ好きであれば名前が出た時点で気づいたかもしれませんね。

 

僕ははじめアミルスタン羊の正体がわかりませんでしたが、鞠絵がバベルの会が読書会で訪れる蓼沼を指定した時点で、ピンときました。

鞠絵は自分はこんな猟奇的なことを思いつけるんだ!とアピールしたかったのかもしれません。もしくは自分を実際家だと決めつけた会長に罰を与えたかったのかもしれません。

 

しかし鞠絵は厨娘を甘く見ていました。

屋敷に残った文からなぜあんなに支払いが高額なのかを教えられます。

 

極上の料理を作るために、厨娘はどの食材も最も美味しい部分だけを残して捨てていたのです。

またそれを惜しげもなく捨てるところを客に見せることで、厨娘は雇っている家の贅沢を体現することができる。

 

ここで鞠絵は青ざめます。

てっきり夏は極上の一頭=一人を選んで、殺して持ち帰るのかと思っていました。

 

でも文の話を聞いて、ある考えが頭をよぎります。

蓼沼にいるアミルスタン羊を全て狩って極上の料理を作る。これこそが厨娘の仕事なのだと。

 

夏が帰ってきます。

蓼沼には極上のアミルスタン羊がいたことを報告し、唇がおいしいと進言します。

 

ここで鞠絵の手記は不意に途切れます。

気が狂ってしまったと思われます。

 

この手記を読み終え、女学生は微笑みました。

 

「バベルの会はこうして復活した」

 

この女学生が誰かは分かりません。

しかし、彼女もまた夢想家なのでしょう。

 

ここで物語は終わっているため推察するしかありませんが、彼女はきっと第二のバベルの会を立ち上げ、そこに新たな儚い羊たちが集まるのでしょう。

そして、歴史は繰り返される、ということでしょうか。

 

ここでバベルの会の会員をまとめると

 

 

・会長

・六綱詠子

・丹山吹子(読書会に参加していない)

・前降のお嬢様

・小栗純香

・副会長

 

 

こんな感じです。

 

会長、副会長がこの中の誰かという可能性もありますので、何名在籍しているのかは分かりません。

なので、登場人物以上のお嬢様がアミルスタン羊として狩られてしまった可能性も十分にあります。

 

純香に関しては幽閉されていたので読書会に参加していないはずですが、助け出されてから再び大学に戻り、バベルの会に入った可能性もあるため、この中で生きていると断言できるのは吹子くらいでしょうか。

 

六綱の名前が何度も出てくるので、詠子も在籍していたと推測されます。

ということは、あまりには殺されませんでしたが、夏の手にかかって・・・

 

非常に長文になってしまいましたが、ここで終わりたいと思います。

間違いがありましたら、コメントをいただけると幸いです。

 

儚い羊たちの祝宴 (新潮文庫)

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